本作の撮影で特に印象的だったのは、DVを描くシーンの作り込みだという。フィクションにおいて暴力をどう見せるか。痛みをどこまで表現するか。多部は、山田監督をはじめ、カメラマンや照明スタッフ、相手役の俳優らと、何度も意見を交わした。
「痛みをただ見せるだけでは意味がない。どうすれば“本当に起こっていること”として伝わるかを、スタッフみんなで考えました。実際にDVで苦しんでいる方がいらっしゃるのにこんなことを口にするのは不謹慎かもしれないですが、表情や身体の角度、カメラのアングル、照明、美術など、それぞれの部署が様々に工夫趣向を凝らしながら突き詰めていく作業は、私にとって、とてもクリエイティブで楽しい時間でした」
多部がそこに見たのは、フィクションとしての演技を超えて、現実の痛みを“エンタテインメントの文法”で届けるという挑戦だった。
「現実に苦しんでいる人たちの痛みを少しでも感じてもらえるように、必要性があるところは目を覆いたくなるほど残酷に見せる。それを自分の身体や声で体現することが、私たち俳優の表現の意義なんだと思います。重く苦しい社会派のテーマをエンタメという形で多くの人に届ける。そういう現場にいられたことがうれしかったです」
ノンフィクションとフィクションに橋を架ける役割
多部はもともと、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)や『未解決事件』(NHK)など、現実に起きた出来事を丹念に描く番組の“大ファン”としても知られている。人間の生々しい感情や、事実の中に潜むドラマを見つめることが好きだという。
「現実に起こっている世にも奇妙な事件の存在を知り、そこに生きる人の心の動きを観察するのが好きなんです。“事実は小説より奇なり”という言葉通り、現実の方がドラマより深い。でも、フィクションだからこそ描ける痛みや希望もあると信じたい。その2つがつながっていたらいいなと思います」
今回、現実に存在するDV被害者というテーマをフィクションとして演じることで、ノンフィクションとフィクションのあいだに橋を架けるような役割を果たせたら――。そんな思いが、多部の演技の根底にはあるようだった。
プライベートでは、新しく服を買ったことが家族にバレないように、“さも前からあったかのようにクローゼットに掛ける”という小さな秘密を持ちながらも、「でもなぜかすぐバレるんですよ(笑)」と話す姿からは、余裕と柔らかなユーモアも感じられた。
インタビューの終わり、どんな時でもひょうひょうと自分らしく生きているように見える多部に、「秘けつはなんですか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「味方が少しだけいればいいと思っているからだと思います。家族と、10年来、20年来の友人がいてくれたら。それだけでもう、私は本当に十分幸せなので(笑)」
●多部未華子
1989年生まれ、東京都出身。02年に女優デビュー。05年、映画『HINOKIO』と『青空のゆくえ』で第48回ブルーリボン賞新人賞を受賞。09年には連続テレビ小説『つばさ』のヒロインに抜てきされる。主な出演作として、映画『流浪の月』、ドラマ『マイファミリー』『いちばんすきな花』『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』など。23日に『連続ドラマW シャドウワーク』がスタートしたほか、2026年度前期 連続テレビ小説『風、薫る』に出演予定。
HAIRMAKE(HairMake)/中西樹里 Juri Nakanishi
STYLIST/岡村春輝(FJYM inc.)Okamura Haruki
