JR東日本は、2025年11月6日から上越新幹線の新潟駅と長岡駅の改札において、顔認証を使ってウォークスルーで改札を通過できる顔認証改札機の実証実験を開始する。5日には報道関係者向けに2種類の顔認証改札機が公開され、実際に動作する様子が披露された。2026年3月31日まで実験を行い、Suicaの今後の展開に向けて検証を行う。
新潟駅~長岡駅で顔認証改札の実験
JR東日本は、2024年12月10日に「Suicaの当たり前を超えます」として「Suica Renaissance」を発表。今後10年間でSuicaの機能を順次アップグレードする方針を示している。現在は交通系ICとして物理カードやスマートフォンで改札機にタッチして乗降しているが、残高をセンターサーバーに置いて管理することで、タッチ以外の乗降についても対応していく計画を示している。
その1つが「ウォークスルー改札」で、改札機にタッチすることなく、歩いていくだけで認証が行われて乗降できるというもの。大きな荷物を持っている場合やベビーカー、車椅子といった両手が塞がっているような状況でも利用しやすい改札の実現が想定されている。
その実現のためには複数の方式が検討されているが、そのうちの1つが顔認証で、ウォークスルー改札実現に向けた第一弾の実証実験として顔認証改札機が設置された。
今回設置された顔認証改札機は2種類で、いずれもJR東日本とJR東日本メカトロニクスが共同開発。長岡駅にはパナソニックが製造したゲート型、新潟駅にはNECが製造した既存改札機へ被せるタイプの顔認証改札機を、それぞれ新幹線改札口に1台ずつ設置した。
それぞれ外観は異なり、パナソニックのゲート型はJR西日本の大阪駅にも設置されたような未来的な外観。通過する際には青や赤で照らされて「ワクワク感を感じられるような作り」とJR東日本新幹線統括本部新幹線電気ネットワーク部技術計画ユニットリーダーの恩田義行氏は話す。
パナソニックのゲート型では、どちらの方向からも通過できるようにカメラを4つ配置。ゲートに近づくと顔を検出して認証を行い、通過できる場合は青ランプ、認証できなかった場合は赤ランプで結果を示す。ゲート内の画面にも通過できるかどうかを表示して分かりやすい外観となっている。
NECの場合は既存の改札機の上に被せることでスペースを有効活用できる点が大きな特徴。こちらも両側から出入りできるようにカメラを双方に設置。遠距離を認識するカメラと近距離を認識するカメラの2つずつを搭載して認証を行う。
お互いに向かい合って出入りしようとした場合、最初に近づいた方が優先され、ランプの点灯などでどちらが通過できるか分かるようになっている。同時通過はできないため、赤ランプが付いた側は停止し、一方が通り過ぎて赤ランプが消えたら改めて通過できるようになる。
普通に歩くペースであればどちらも問題なく認証され、これまでのテストでもマスクをしている程度であれば認証が可能だったという。見ている限り、どちらの改札機も認証スピードに違いは感じられなかった。
今後は高輪ゲートウェイ駅などでもウォークスルー改札の実証へ
ウォークスルー改札は、切符やスマートフォンなどを取り出すことなく、そのまま歩いていくだけで改札を通過できるのが強み。特に大きな荷物を持って移動する場合の多い新幹線では、そのまま通過できるウォークスルー改札による利便性の向上が大きい。加えて、顔認証の場合は事前に登録すれば何らかの端末を持ち歩く必要がなく、顔だけで通過できる点もメリットだとJR東日本では判断している。
利用状況を想定してまずは新幹線での顔認証改札の導入を決め、新幹線の利用状況を踏まえて長岡駅、新潟駅が選ばれた。実証実験では、両駅の「新幹線定期券(Suica FREX、Suica FREX パル)」を持つ中学生以上の利用客からモニターを募集。当初予定していた500人程度が登録しているという。今回はカメラの位置の関係上、車椅子での利用はサポートしない。
モニターに登録した人は、すでに事前の顔登録を行っており、11月6日以降は、顔認証改札を通り過ぎるだけで乗降ができる。実証実験では、数回の利用者アンケートに加えて実際の認証状況のデータを集めて実際の有用性の検討を行う方針。
現時点で実際の商用化が決まっているわけではないが、同社では継続してウォークスルー改札実現のための検討を重ねていく。2026年春には高輪ゲートウェイ駅と大井町駅、2027年春には広域品川圏5駅(大井町駅、品川駅、高輪ゲートウェイ駅、田町駅、浜松町駅)でウォークスルー改札の実験を行う。これは顔認証以外の手法を採用する予定。
こうした検討や実験を進めながら、同社では今後10年をめどにいずれかの技術またはその組み合わせでウォークスルー改札を実用化していくのが目標だ。














