PayPayは9月16日、韓国においてPayPayを使った決済サービスを提供すると発表した。現時点では、QRコード決済で海外利用できるサービスはなく、スタートすればPayPayが唯一となる。9月下旬以降、サービスを開始し、日本のPayPayアプリを使って、そのまま韓国内の200万店以上でQRコード決済による支払いが可能になる。決済時に特別な手続きは不要だが、PayPayの本人確認を済ませている必要がある。
PayPayの執行役員で金融事業統括本部金融戦略本部長の柳瀬将良氏は、「海外でもいつものPayPayで支払える。今後も使える国や地域を追加して使えるようにしていきたい」とアピール。今後は、アジア圏を中心にエリアの拡大も図りたい考えだ。
海外ユーザーの日本での利用拡大、その成功をアウトバウンドでも
PayPayは、これまでも日本を訪れる観光客向けに海外の決済サービスの乗り入れを行ってきた。Alipay+と連携することで、Alipay、カカオPay、K PLUS、Bluecodeなど13の国と地域の21サービスに対応。同じくHIVEXと連携することで、WeChat Pay、JKO PAYなど2カ国/地域の5サービスをカバー。
これら各国のQRコード決済サービス利用者は、自分の普段使っているアプリを使って日本のPayPay加盟店で支払いができ、訪日客の78%にあたる3,687万人にリーチできる状態にあるという。
台湾の決済サービスに対応した際には、3日で全都道府県において利用があったとのことで、それだけ利用率が高いことがアピールされた。また、PayPayの加盟店の多さもポイントだろう。
インバウンドの利用が増えている背景について、柳瀬氏は「成功の要因は3つある」と説明する。1つ目がマーケティングで、各国のアプリでは日本に来たらPayPay加盟店で使えることをアプリ内で紹介。自動的に日本モードになることで使い勝手を高めた。また、インバウンド消費を期待する加盟店と協業してキャンペーンなどの施策も実行した。
2点目がユーザー/加盟店双方に向けたUI/UX面での工夫で、各決済アプリ内では、QRコードの読み取り画面で音声の再生ボタンを用意。「PayPayでお願いします」という音声が日本語で流れるようにした。これによって、日本語を話せない外国人でも、店員に対してQRコード決済を使って支払うことが明示でき、加盟店が迷うことがない。さらに決済完了時の「PayPay」という通知音も同じように流れ、各国語と日本語での決済完了画面が表示されるため、加盟店側も支払いを確認しやすくなっている。
3つ目がビジネスモデルで、今までのクレジットカードでは、海外ユーザーが海外発行カードを使うと手数料が高くなり、国内のアクワイアラが赤字になるとされている。PayPayではそうした手数料がクレジットカードよりも安いため、アクワイアラも黒字になって加盟店拡大に繋がる点を柳瀬氏はアピールする。
こうした成功要因を踏まえて、いよいよ開始するのがPayPayのアウトバウンド対応だ。これまでも検討されてきたが、2020年以降のコロナ禍で、日本からの海外観光客が激減。コロナ前の数まで復活していない状況で提供が遅れたが、まずは日本人観光客が最も訪れる韓国から対応が開始されることになった。
韓国200万カ所でPayPayが使える
韓国でPayPay利用が開始されるのは9月下旬以降。上記の3点を踏まえてサービスが設計されており、日本から韓国へ行くと自動的に韓国モードになり、そのままPayPayアプリで支払いができるようになる。過去にはLINE Payが国内QRコード決済では唯一海外展開していたが、サービスが終了したため、現時点では海外利用できるサービスがなく、PayPayが始まればそれが唯一のサービスとなる見込みだ。
画面上には常に為替レートを表示。1韓国ウォンが何円かが表示されるため、支払う日本円が事前に予測しやすい。残高も日本円と韓国ウォンを切り替えられるため、現地でいくら使えるかも分かる。
決済方法は従来通りで、PayPayアプリから表示したQRコードを店員が読み取るか、店頭のQRコードを読み取って支払いを行う。画面上には韓国語で「Alipayで支払う」という旨を表示する機能も搭載した。
支払い方法は、PayPay残高、PayPayカードを設定したPayPayクレジットの両方が可能で、PayPayポイントの設定もできる。利用可能個所は、Alipay+が対応する加盟店200万カ所以上。コンビニエンスストアや百貨店、免税店など多彩な店舗が対応している。明洞にある屋台のように、クレジットカードが使えない場所でもQRコードが使える場合もあるという。
決済音の「PayPay」もいつものように鳴って決済完了を通知。決済画面は日本語と現地語で表示され、現地の加盟店向けに現地語のみの表示も可能となっている。
国内で利用できる機能はそのまま韓国でも利用できる。もともとPayPayは海外からのアクセスをブロックしているため、海外に行くと日本人がPayPayアプリを起動しても表示が完全にブロックされていた。また、一部の国では、PayPayカードの利用履歴などを表示する一部の画面のみ利用できたが、韓国では新たに決済サービスなどがそのまま利用できるようになっている。
決済だけでなく、現地でのチャージ、個人間送金、割り勘など、一通りのPayPayアプリの機能は利用可能。これは、一定のセキュリティが担保されたからとのことで、今後の利用国拡大でも、こうしたセキュリティ対策を行った上で提供していく方針だという。
ユーザーのセキュリティも重視。日本の場合と同様の24時間365日の監視に加え、不正による補償も日本での基準と同様に提供する。セキュリティの観点から、本人確認済みのユーザーのみの利用に限定した。PayPayでは7,000万ユーザーのうち、すでに3,600万人が本人確認済みで、この規模になったことも海外サービスの提供に繋がったと柳瀬氏は言う。
もう1つが「個人を特定する情報の連携をしない」点を重視したという。Alipay+や加盟店に対しては、どのユーザーが購入したのかという情報が渡らず、追跡もできないような枠組みを構築したという。特許出願中のため詳細は語られなかったが、恐らく一時的なトークンを毎回発行して、PayPay以外では1つのアカウントとの紐付けができないような形にしているものと思われる。
PayPayユーザーの利用拡大に向けては、韓国観光公社とPayPay消費拡大に向けた基本合意書を締結。今後、韓国を訪れる日本のPayPayユーザーに対してクーポンを発行するなどのキャンペーンを検討し、利用の拡大を図る。
韓国を訪問したPayPayユーザーに調査したところ、非常に利用したい、やや利用したいをあわせると約90%が海外でのPayPay利用意向を示しており、特に円換算の金額が分かる、外貨両替所に行く手間が省ける、といったニーズがあったという。
韓国はキャッシュレス決済比率が90%を超え、クレジットカード大国ではあるが、QRコード決済も一定の利用があり、一部ではクレジットカードが使えない場所もある。また、日本人もクレジットカードを持てない年齢の人やクレジットカードを使いたくない人もいて、まだ現金を両替して現地通貨での支払いをしている人も多いと柳瀬氏は話す。
そうしたユーザーに対しても、日本と同様の体験を韓国で提供できるとして、今回の新サービスを柳瀬氏はアピール。特にクレジットカードの場合は決済後でないと支払金額が分からないが、PayPayならば常時表示の為替レートに海外事務手数料も含まれるので決済前に支払金額が分かる。決済時も実際の支払い額が即時に日本円で分かる点もアピールする。
なお、決済時の海外事務手数料は3.85%(税込)。これはPayPayカードの海外事務手数料に合わせたそうで、結果としてユーザーにとっては、PayPayで払ってもPayPayカードで支払っても同じ手数料になるという点を重視したそうだ。
柳瀬氏は、「韓国に行くならPayPayとPayPayカードを持っていってほしい」と強調。PayPayが使えない場所ではPayPayカードを使うなど、両方を使い分けて海外旅行を楽しんでもらいたいとアピールする。
今後は、東南アジアを中心にAlipay+が広がるエリアでのサービス拡大を行う計画。基本的には日本人のキャッシュレス比率拡大が目標で、まずは日本人が多く訪れる国や地域への拡大を図ってPayPay利用の促進を図りたい考えだ。
海外とのQRコード決済の連携においては、JPQR Globalがサービスを展開。まずは訪日観光客向けのサービスを提供しており、今後アウトバウンド対応も実施する予定。ただ、PayPayはJPQRに参加しておらず、その理由として、個人情報を提供しないことを重視していて、「JPQRとは考え方が異なる」(柳瀬氏)ことを指摘する。
なお、韓国で利用するためには、韓国のネットワークに接続している必要があり、日本のキャリアの国際ローミング、現地SIM、現地Wi-Fiのいずれかであれば利用できるという。アジアの複数の国でのローミング利用ができる周遊用のSIMなどでは、接続先が韓国以外のキャリアの場合があり、そうした場合は韓国外とみなされてアプリ利用はブロックされるそうだ。




























