今、中部エリアにて続々とオープンしている三井不動産の商業施設。2020年に「ららぽーと愛知東郷」(愛知郡)と「RAYARD Hisaya-odori Park」(名古屋市)を開業、2025年は4月に「ららぽーと安城」(安城市)を開業し、「カラフルタウン岐阜」(岐阜県岐阜市)を取得する(運営元のトヨタオートモールクリエイトの全株式を取得)など、近年脅威のスピード感で、商圏拡大を進めてきた。
そこに11月4日、新たに加わったのが、アウトレットモール「三井アウトレットパーク 岡崎」だ。施設コンセプトに「OKAZAKI Experience HUB」を掲げ、買い物だけではない、「食×遊びの多彩な体験をお届けする地域共生型モール」を目指すという。
今年春に開業した「ららぽーと安城」のコンセプトは「&PLAY」だった。どちらも“遊び”という要素が通じている。三井不動産が中部における商業施設という場づくりで描く未来とは? 現地を訪れたレポートをお届けする。
買い物じゃない、“遊び場”が主役のアウトレットパーク誕生
愛知県初のアウトレットモールとなる「三井アウトレットパーク 岡崎」。全180店舗が揃い、食関連の施設は国内アウトレットモールでは日本一となる45店舗。規模感もさることながら、特徴的なのは、全体を大きく2つのゾーンに分けていることだ。来訪者は全157店舗からなるアウトレットゾーンと、公園型施設と商業店舗施設が一体となった「OKAZAKI MARKET」ゾーン、異なる2つのゾーンを行き来して過ごすことができる。
まず、三井アウトレットパーク 岡崎のメインエントランスを入ると、いきなり“公園”のような広々としたスペースが現れる。ここが、約4,200㎡の広大な敷地に遊具や噴水、人工芝生エリアにステージ、ドッグランまでを備える「OKAZAKI MARKET」だ。
その緑地スペースを、横に長い低層の建物がぐるりと取り囲む。内部には、地域の有名店を含むグルメや生鮮食品の店が12店舗。買い物に疲れたら座ったり、買ったものをその場で楽しんだり自由に使える席もある。さながら道の駅、といえば、イメージしやすいだろうか。
ペットフレンドリーな施設設計。全体の6割以上が「ペット入店可」
この三井アウトレットパーク 岡崎の大きな特色の一つと言えるのが、ペットフレンドリーであるところだ。子どもたちが遊ぶパークエリアに負けないくらい大きな面積を占めているのが、ドッグラン。隣接する「山田農園」のドッグカフェでは、有機野菜や米、卵を使った料理を愛犬と一緒に楽しめる。それ以外にも、全体の6割を超える114店舗がペット入店可能。中京圏の商業施設では最多となる規模だ。
敷地のあちこちに足洗い場やウンチボックスなどのペットファシリティが充実しているので、飼い主も安心して来場できる。ショッピングモールやアウトレットモールなど、こうした郊外型商業施設はファミリー向けに設計されることが多いけれども、「ファミリー」の一員としてペットを連れていける場所は限られる。ペットのいる家庭にとっては嬉しいだろう。
アウトレットゾーンは空が見える、開放的な空間設計
緑地エリアを抜けると、いよいよそこからアウトレットゾーンが始まる。2階建のアーケード式の建物に、各店舗が入店。片持ち梁の屋根があるだけで天井は抜けているので、商業施設の中で買い物をしているというよりは、街の中の通りを歩いてウィンドーショッピングをしている感覚だ。
建物と建物の間、ぽっかりと空いたスペースにはベンチが置いてあって、ちょっとした憩いのスペースになっている。あるいは、人工芝と遊具が設置されたキッズパークゾーンになっていたり。キッズパークは、対象年齢によってゾーンが分けられているので遊びやすい。
面白いのは、場所によって、置かれたベンチやチェアのデザインが異なっていたり、空間デザインが分けられていること。変化があると、あちこち回遊するのが楽しい上に、設えが違うことで全体のどこに自分がいるのか目星がつけやすい。友人や家族と待ち合わせするにも便利だ。お気に入りのスポットを見つけるのも楽しいかもしれない。
回廊の2階中央部分には、客席770席にもなるフードコートが据えられている。飲食関連店舗はアウトレット施設で日本一となる45店舗であることもあり、「食」もこの施設全体で力を入れているポイントだ。
アウトレットというと、ハイブランドの商品がお得に手に入る場所、というイメージが強いかもしれない。だが、入店した店舗の顔ぶれからも、アウトレットパーク 岡崎はどうやらそれをメインの目的とする施設ではないらしい、ということがわかってくる。
中部地方でみれば、三重県桑名市に2002年に開業した「三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島」がある。両者の距離は車で1時間ほど。移動すれば商圏を食い合いそうだが、ジャズドリーム長島はラグジュアリーブランドを多く揃え、ブランドショッピングに注力している施設。対する岡崎は、「マーケットや公園、広場といったスペースでの体験価値を提供していくということで、少しコンセプトを変えた形で作り、棲み分けをしている」と同社の若林 瑞穂氏は話す。
「(三井アウトレットパーク 岡崎は)買い物だけが目的じゃない」と強調した。「ペット連れの方ですとか、お散歩を楽しむ方ですとか、そういう目的で来場いただいてというような狙いがある。お買い物だけが目的じゃなくても、環境そのもの、そこで1日を過ごす、休日を過ごすということも意識している」
背景に山と名鉄電車を望む、贅沢な大屋根の野外ステージ
アウトレットという言葉からはショッピング、という印象が強いが、全体を通してみると「複合的商業・文化施設」という意図を強く感じる設計だ。コンセプトに掲げている通り、食と遊びに重きが置かれている。暗くなると、光・音・水のショーを毎日実施するなど、訪れる人たちを楽しませ、居心地の良さを感じさせたり、何度も来たくなるような仕掛けが随所に感じられる。
三井アウトレットパーク 岡崎は地域に開かれ、地域とともにあることを意識した設計も印象的だ。山に囲まれた敷地には、大掛かりで高層な箱物商業施設は周辺環境に馴染まない。木材を多用し、低層で、かつ屋根で囲い切らない街並みのようなデザインは、周辺との調和を考えられたものだ。
そしてその象徴的なモチーフが、大屋根だともいえる。ドッグランの隣、中央正面には屋根付きのステージが鎮座する。今後、音楽ライブなどが開催される予定だというが、その奥に見える大階段はステージ席としても機能するし、さらにその階段を上りきったところもまた広々としたステージとして機能する設計だ。
訪れたタイミングには、全国大会にも出場する実力をもつ、光ヶ丘女子高等学校の吹奏楽部による演奏が行われていた。背景に岡崎の山並み、そして名鉄名古屋本線の電車が通過するのが遠く望めた。こんな気持ちよくて贅沢なステージ、なかなかないだろう。
岡崎は、ちょうどよく住みやすい土地柄である一方、現時点では観光的な知名度は高いとはいえない。「地域の名産品なども結構あるエリアなので、岡崎市をよく知ってもらうような仕掛けもしていきながら、地域とともに盛り上げていきたい」という意図に通ずるものを感じさせる。アウトレットモール内の3箇所に仕掛けられている「OKAZAKI STREET」も、岡崎のことを学べる小さな工夫だ。
ここで買い物をしたり、週末ごとに遊びにきたり。その間に岡崎の風景を知らず知らずのうちに、「ふるさと」として認識していくのかもしれない。遊具で遊ぶ子どもたちを見ながら、これが日常になってゆく、ここからの未来を考えた。
振り切った設計で生まれるもの。便利だけが、価値じゃない
三井アウトレットパーク 岡崎は、商業施設として考えたらある意味振り切った設計かもしれない。低層の回廊スタイルの商業店舗は、空が見えて清々しい。空が見えるベンチに座っていたら、待たされる時間も楽しく、国内外のビーチを中心としたリゾート地のショッピング施設や、千葉の某アミューズメントパークに通ずる開放感を感じた。
一方で、もちろん、屋根がないのは不便でもある。実際、訪れた午後には雨が降り出し、人々は雨を避けて通路に沿って移動するしかなかった。アウトレットゾーンの通路に挟まれた気持ちの良いはずの緑地は使用できなくなった。それでも優先しているものとはなんだろうか?
三井アウトレットパークは真に「パーク」になりたいのかもしれない。モールでもセンターでもなく。パーク=公園には、余白がある。「◯◯をしにいく」目的意識に基づく行動よりももっと手前で、「とりあえず行く場所」。元来、公園に集まる子どもたちに、「この公園での滞在時間中にこのタスクを成し遂げよう」という目的達成意識はない。「ここは◯◯をする場所です」という規定(それがわかりやすく明示されているか否かに関わらず)が用意されていないからこそ、人はなんとなく安心し、拠り所としてそこに集ってしまう。公園って、そんな存在なんじゃないだろうか。
余白で、人の創造性は育まれる。雨だと、屋根がない緑地は“使えない”。だが、雨だからできる“遊び”もある。遊びがあるなら、商いも生まれるかもしれない。だってここには、大人や子どもはもちろん、動物だっているのだ。大人の発想を捨てる、あるいは柔軟に押し拡げて、いかに商いや遊びを創り出せるのか。働く人も、訪れる人も、この場所の可能性はここに集うすべての人が握っている。
■information
三井アウトレットパーク 岡崎
住所:愛知県岡崎市舞木町字金森200
営業時間:ショップ 10:00~20:00/レストラン 11:00~21:00/フードコート 10:30~21:00/不定休
























