フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)が、1995年10月の番組スタートから30周年を迎えた。これを記念して、話題を 集めた作品と“その後”の物語を、5週連続で放送している。

2日に放送される第5弾は、全身に転移したがんに苦しむ中、日本では許されていない安楽死をスイスで選んだマユミさん(当時44)と、その決断を見つめた家族の“その後”を追った「私のママが決めたこと~あれから2年 母を思う旅~」。マユミさんが亡くなってから2年、彼女が最期を迎えたスイスを巡る家族の旅にも同行している。

胸を締め付けられるシーンが随所にある中でも印象的なのは、家族がマユミさんの存在を感じながら、明るく前向きに歩んでいく姿。取材したフジテレビの山本将寛ディレクターは、その表情を意識しながら映像を紡いでいった――。

  • マユミさんの最期の地・スイスを旅する家族 (C)フジテレビ

    マユミさんの最期の地・スイスを旅する家族 (C)フジテレビ

「明るく送り出そう」約束を守った娘たちの強さ

2024年の前回放送は、マユミさんが命の決断に至るまでの葛藤を伝えたが、今回主眼に置いたのは、彼女の決断を受け止めた家族の思い。マユミさんが亡くなった後の取材で描くのはもちろんだが、生前の映像でも「夫のマコトさんや、2人の娘さんそれぞれの思いが分かるようなシーンを、前回よりも多く抽出しました」と、未公開分を追加した。

例えばマユミさんの入院中、コロナ禍で面会が難しかったため、家族がノートでやり取りしていたメッセージを紹介。娘たちからマユミさんへ、しっかり思いを届けていたことを表現している。

そして印象的なのは、マユミさんが最期の地となるスイスへ旅立つ日の朝、自宅を出る前に、娘たちがメイクの仕方をマユミさんに教わるシーン。「結構ツヤツヤ!」「完成!」と、家族旅行に出かける前のような明るさがあるのだ。

「この場面は家族が撮った動画なのですが、最初に見た時は、まるでいつもと変わらない日常のようで本当に驚きました。でも、ここから見て取れるのは、家族がマユミさんの決断をしっかりと受け止めて、共通の認識を持てているということなんだろうと思ったんです」

マユミさんと「悲しく暗い別れにせず、明るく送り出そう」と約束していたことから、気丈に振る舞っていた娘たち。空港で最後の別れの言葉を交わす時も、長女は「受験の時に(ママが私に)乗り移ってね」と冗談のように話していたが、実際に別れた後は涙が止まらなかったそうで、山本Dは「やはり悲しいのが本音だと思うので、自分たちの気持ちを隠すように明るく振る舞っていたのかもしれません。そこから、彼女たちの強さを感じました」と認識した。

  • スイスへ出発する朝、娘たちにメイクの仕方を教えるマユミさん (C)フジテレビ

    スイスへ出発する朝、娘たちにメイクの仕方を教えるマユミさん (C)フジテレビ

14歳になった次女の変化「思いをさらけ出してくれるように」

前回放送の取材時は、コロナ禍明けから日が浅いこともあってほとんどの場面でマスク姿だった娘たち。マユミさんが亡くなった後の今回の取材では、マスクを外したことで表情が見え、彼女たちの心情がより伝わってくる映像になっている。

編集にあたり、山本Dは「言葉にしなくても、表情でマユミさんへの思いをすごく語ってくれるので、それをしっかりと伝えたい」と意識。家族3人でスイスを訪れ、マユミさんが体調を崩し行くことのできなかったカフェで、死の直前まで家族で聴いていた曲を流している場面では、ひときわ「ママっ子」だった長女の顔にカメラが寄った。

表情に着目したのは、娘たちだけでなく、夫のマコトさんにおいても。マユミさんに思いを馳せて沈黙する顔を、約40秒にわたり見せている。このシーンは、「明らかにマユミさんのことを思っているのが見て取れるので、情報を足しすぎないようにしました」と、ナレーションもほとんど乗せていない。

今回、テーマの一つとして据えたのは、次女の変化。マユミさんがスイスに降り立ち、亡くなるまでの家族4人のグループLINEでは、主にマユミさんと長女がやりとりしていたのに対し、次女は「どうやったら思いを伝えられるのか、何て言ったらいいのか分からなかった」と、まだ12歳の小学生だった当時の気持ちを話していたという。

しかし、今回の番組ではマユミさんとの思い出が詰まった場所に行って、昔のことを明るく話している姿が映し出されている。山本Dは「やはり12歳から14歳になって、彼女の中での成長がすごくあるなと思いました。カメラの前で思いをさらけ出してくれるようになったのは、この2年の取材を通して感じたことです」と印象を語った。