フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)が、1995年10月の番組スタートから30周年を迎えた。これを記念して、話題を集めた作品と「その後」の物語を、5週連続で放送する。

5日に放送される第1弾は、ローン破綻物件を競売で落札して稼ぐ不動産業者・上打田内(かみうったない)英樹さん(当時42)や、風俗店で働く女性たちの姿を追った「借金地獄物語」(1997年9月放送)。今回「その後」の物語で、放送から28年経った今も不動産業を営む上打田内さんを初めて取材した八木里美ディレクター(バンエイト)が、彼や当時の番組映像に感じたエネルギーを語った――。

  • 上打田内英樹さん=『ザ・ノンフィクション「借金地獄物語」』より (C)フジテレビ

    上打田内英樹さん=『ザ・ノンフィクション「借金地獄物語」』より (C)フジテレビ

カリスマ婚活アドバイザーとの共通点

97年の放送当時の住宅の競売では、人を騙して金を巻き上げようとする人たちが参加してくるケースが多かったのだそう。「借金地獄物語」というインパクトの強いタイトルもあって当時の映像を見ると、上打田内さんも“弱い人から土地・建物を奪って稼ぐ金の亡者”のようなイメージを持たれかねないが、今回の取材で初対面した八木Dは「実際に会って話を聞くと、競売にすごくプライドを持っていて、家を手放す人に正当な取り引きでなるべく高い金額を残すことを目指して頑張っている、信念のある方でした」と印象を語る。

映像から伝わってくるパワフルさは、71歳なった今も健在で、「本当にエネルギッシュな方です。一つ質問すると100返ってくる感じで、いろいろなことを教えてくれました」とのこと。八木Dが『ザ・ノンフィクション』の婚活物語で取材した、結婚相談所のカリスマ婚活アドバイザー・植草美幸さんとの共通点も感じ、「事業をゼロから立ち上げる人たちには、“絶対に諦めない”、“へこたれない”というエネルギーがありますね」と捉えた。

上打田内さんとの会話の中で、幼少期は東北地方の山奥の貧しい農家で育ち、食べることもままならない生活を送ったことで、「何とかここから抜け出したい」と強い思いを抱えていたことを知り、八木Dは「お金への執着は、それが原点にあるのではないかと思いました」と推察。

ただ、会社がどんどん大きくなっても、本人は一切贅沢をしないのだそう。「営業をするので良いものは着ていますが、ブランド品は持たないし、無駄遣いを一切せず、必要なものだけを買う人なんです。そういう意味でも、お金の大事さを心から知っている人だと思いました」と捉えた。

平成から令和で変化したお金のトラブル

28年前の上打田内さんは、個人宅の競売に集中して利益を積み上げるスタイルだったが、業態は大きく変化。2020年に施行された改正民事執行法により、反社会勢力の参加防止策が強化され、業者以外に一般の人も安全に競売に参加できるようになった。このため、上打田内さんのように事業として利益を生み出す目的では競売に勝てないことから、現在は小さな個人宅の競売物件はほとんど手がけていないという。

それに代わり、東京23区内の豪邸や商業地、さらには山ごとの土地などが対象となっており、事業は大きく拡大。八木Dが上打田内さんに同行取材すると、70~80代の資産を持った独り身の女性が、お金を騙し取られて上打田内さんに助けを求めるケースが多かったといい、お金にまつわるトラブルの内容が、平成から令和で変化していることが映し出されている。

上打田内さんのキャラクターの強さに加え、こうしたトラブルに向き合っていくストーリーは、1本の新作ドキュメンタリーになるのではないか。八木Dにぶつけてみると、「令和のお金のトラブルは、昔のように暴力団や明らかに見た目の怖い人がすごんでくるような世界ではなく、善人の顔をしてケロッとウソをついて騙してお金を持ち去っていくケースがいろんなところで起きているのを実感するので、これはやはり伝えるべきことではないかと思います」とディレクターとしての嗅覚が働いていたが、「事件性があるものなので、終結するまで時間をかければ番組として撮れそうな気がします」と慎重な姿勢を見せた。