JR西日本は、特急「まほろば」に投入するリニューアル車両の報道公開を9月29日に実施した。リニューアル車両の車両形式は683系6000番代。4月にデビューした第1編成「安寧」に続き、10月18日から第2編成「悠久」が運行開始する。「安寧」「悠久」ともに外装だけでなく、車内も大きく変わった。リニューアルのポイントはどこにあるのだろうか。
「まほろば」以外にも活躍の場を広げる「安寧」「悠久」
まずは「安寧」「悠久」を使用する特急列車について紹介。両編成ともに「まほろば」がおもな活躍の場となる。「まほろば」は大阪駅(うめきたエリア)および新大阪駅から奈良駅へ、おおさか東線・大和路線(関西本線)経由で約1時間かけて走る特急列車。土休日のみの運行で、定期列車1往復の他に臨時列車も1往復(「まほろば91・92号」として2026年2月末まで土休日に運行予定)設定しており、実質的に土休日1日2往復の運行といえる。
「安寧」「悠久」の活躍は「まほろば」だけにとどまらない。10月14日以降、新大阪駅および大阪駅(うめきたエリア)から奈良駅までを結ぶ通勤特急「らくラクやまと」にも「安寧」「悠久」を投入。「らくラクやまと」は平日の通勤時間帯に1日1往復(朝に奈良発新大阪行、夜間に新大阪発奈良行)を運行している。10月25・26日と11月1・2日、京都~奈良間を奈良線経由で走る臨時列車の特急「いにしへ」も「安寧」「悠久」を使用予定。このように、両編成とも「奈良方面の顔」として活躍の場を広げることになる。
「安寧」「悠久」は交流区間も走る予定がある?
「安寧」「悠久」ともに新造ではなく、683系2000番代からの改造車両である。改造にあたり、形式名を683系6000番代に変更。さらに細かく説明すると、2000番代のR14編成が6000番代のN01編成「安寧」、2000番代のR15編成が6000番代のN02編成「悠久」となった。
683系2000番代は、特急「サンダーバード」の増結車両として活躍した。大阪駅から金沢・富山方面まで乗り入れた時代の「サンダーバード」は、直流区間と交流区間が混在するため、交直両用の電車が運用に就いていた。683系2000番代も交直両用の電車だった。
一方、「まほろば」や「いにしへ」が走る大和路線(関西本線)、おおさか東線、奈良線など、いずれも直流区間であり、交流区間は存在しない。交直両用の電車が直流区間のみのエリアへ転属する場合、交流機器の停止もしくは撤去に及ぶことが多い。「安寧」「悠久」も、交流機器は「機能停止」になっているという。機器の撤去には至っていないが、今後、「安寧」「悠久」が交流区間を走行する予定はないとのことだった。
「奈良らしさ」だけでなく、ビジネス利用も意識
両編成ともに奈良を体現する車両とされ、第1編成「安寧」は日本の「まほろば」の原型を描いた。「まほろば」は「素晴らしいところ」を意味し、奈良は古事記で「国のまほろば(素晴らしいところ)」と謳われた。一方、「悠久」は「文化の万世(万葉)への継承」を意識した。
「安寧」「悠久」の外装に関して、先頭部分は重厚だが、側面部分はローマ字のロゴによる効果もあり、軽やかな印象を受ける。「安寧」「悠久」の両編成に共通する「まほろば」のシンボルマークは、SNS等での撮影のしやすさを意識し、車体前面だけでなく側面にもデザインされている。両編成とも1号車デッキ部に「ギャラリースペース」を設け、奈良にまつわる国宝のレプリカを展示している。このように、「安寧」「悠久」は観光利用者を意識した車両ではあるが、客室内に入ると印象が変わる。
装いを一新した客室内はモダンな雰囲気といえる。とくに「悠久」は、座席の色合いも相まってビジネスライクな印象を受けた。「安寧」「悠久」のデザインを監修したGKデザイン総研広島によると、「安寧」「悠久」は「奈良らしさ」を意識する一方で、重厚な雰囲気が出すぎないように配慮したという。モダンな雰囲気を通じて、「奈良らしさ」が今日でも通用することを示した格好といえる。
「安寧」「悠久」の座席は「サンバーバード」時代のものではなく、有料座席サービス「新快速 Aシート」と同様の座席に取り換えられている。座り心地は少し固め。すべての座席にコンセントが付き、無料Wi-Fiも利用できる。各号車に荷物スペースも設置した。JR西日本によると、「安寧」「悠久」が荷物スペースや無料Wi-Fiといったビジネスパーソン向けの設備を備えていることもあり、通勤特急「らくラクやまと」への投入に至ったという。
「奈良らしさ」や観光利用を意識しつつ、ビジネス利用も可能な汎用性の高い車両となった「安寧」「悠久」。リニューアル車両による奈良方面の特急列車として、近鉄の「あをによし」も思い浮かぶが、「安寧」「悠久」は「あをによし」とまったく異なるコンセプトの特急車両である。奈良方面の輸送に対する考え方の違いも感じられ、興味深かった。









