6月最終日となる30日夜、『あなたを奪ったその日から』(カンテレ・フジテレビ系)の最終話が放送され、今春の連ドラが終了した。7月早々から夏ドラマがスタートしていくが、ここでは春ドラマの傾向を業界唯一のドラマ解説者である木村隆志が総括していく。

  • 『続・続・最後から二番目の恋』に出演した小泉今日子(左)、中井貴一

視聴率、配信再生数、記事やコメントの数、ネット上の評判などを踏まえると、総合的に頭1つ抜けていたのは『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)で間違いないだろう。

同作は11年ぶりの続々編だったが、シリーズ作が陥りがちな「第1弾が最も面白い」という右肩下がりではなく、むしろ右肩上がりの盛り上がり。登場人物への思いはブランクを経て熟成されたかのように熱いコメントを誘い、それぞれが前向きな結末を迎えはじめると、シリーズ完結を恐れる声が続出した。

もし“続々々編”があるとしたらドラマはもちろん映画でもヒットし、フジは高収益を得られるだろう。しかし、それが「実現できるのか」と言えば別次元の努力と運が必要なのかもしれない。キャスティングの再現が困難である上に、俳優と役柄の年齢をシンクロさせているため、タイミングやテーマの再設定も難しく、何も約束めいたことはできないのではないか。

安全、安心な人間関係で癒しを

その他の作品で総合的に視聴者の支持を得ていたのは、『波うららかに、めおと日和』(フジ系)、『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)、『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(TBS系)の3作だろう。

それぞれ、『波うららかに、めおと日和』は昭和初期の新婚夫婦をフィーチャーしてピュアなやり取りに終始、『しあわせは食べて寝て待て』は膠原病で多くを失った主人公が団地住民や薬膳ご飯を通して小さな一歩を踏み出していく物語、『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』は専業主婦、働くママ、育休パパなどが家事を通じてつながる様子が描かれた。

『続・続・最後から二番目の恋』も含めた4作に共通しているのは、「登場人物がシビアな現実に直面しながらも、温かい人間関係に支えられて前向きに歩んでいく」という穏やかな世界観。登場人物の大半が“普通のいい人”でヒーローなどの特別な人は登場せず、各話の最後も不安を残さずに終えるなどの安心して見られる脚本・演出で支持を集めた。

この4作の共通点はすべて平日の放送であること。さらに春ドラマは年度スタートにあたる時期でもあり、多くの視聴者がより癒しのムードを求めたのかもしれない。

  • 『しあわせは食べて寝て待て』に出演した桜井ユキ(左)、宮沢氷魚

興味深いのは、その反動なのか、航空自衛隊航空救難団を舞台にどこまでも熱い汗と涙の人間ドラマに徹した『PJ ~航空救難団~』(テレビ朝日系)も支持を獲得したこと。一世を風靡した『海猿』シリーズ(フジ系)の続編が制作されなくなっただけに希少価値が高く、一部の人々に深く刺さったという感がある。

これらの作品以外でネット上の反応が上々だったのは、前話を通してサスペンスと人間ドラマを描いた『あなたを奪ったその日から』と『恋は闇』(日本テレビ系)の2作。

中盤でいくらか停滞した感もあったが、終盤に向けて尻上がりで注目度を増し、終了後は余韻を惜しむようなコメントが目立った。連続性にプライオリティを置いた物語は視聴率獲得という点で難しいのは事実だが、プロデュース側の工夫次第でそれ以外の収益につなげられそうな熱狂度がある。

“王者”日曜劇場はひさびさの不発に

一方で、意欲あふれるオリジナルながら微妙な結果に留まったのが、『人事の人見』(フジ系)、『なんで私が神説教』(日テレ系)、『ダメマネ! -ダメなタレント、マネジメントします-』(日テレ系)の3作。

主演抜てきの松田元太がおバカでピュアすぎる人事部員を演じた『人事の人見』、広瀬アリスがやる気のない新任高校教師を演じた『なんで私が神説教』、川栄李奈が元天才子役の芸能マネージャーを演じた『ダメマネ!』……いずれも狙い通り主演俳優の持ち味を引き出せたものの、各話の物語が話題にあがることは少なく、ひっそりと終了した。プロデュースの志は高く、キャストは奮闘したが、「コンセプトありきで脚本のディテールを詰められなかった」のかもしれない。

次に、刑事・医療・法律の3大定番ジャンルである『天久鷹央の推理カルテ』(テレ朝系)、『Dr.アシュラ』(フジ系)、『イグナイト -法の無法者-』(TBS系)は、それぞれ演出陣にこだわりが見られたものの、やはり話題性や影響力という点ではワンランク落ちる。依然として各局の量産傾向は変わっていないが、もはやニッチなジャンルになりつつある。

最後にあげておきたいのは、民放連ドラ枠の絶対王者・日曜劇場の『キャスター』。このところ相次いでいるテレビ局が舞台の物語であり、1話の中で二転三転させる物語には常に賛否の声があがっていた。永野芽郁のスキャンダルが重なる不運もあり、ひさびさに苦戦したと言っていいのではないか。ただそれでも視聴率はトップクラスをキープし、「さすが日曜劇場」という枠の実力は見せつけた。

春ドラマでは斬新な設定や強烈な展開の作品は少なく手堅いプロデュースが目立った。丁寧に作られた良作が目立った一方で、ライト層を巻き込むようなものは見当たらなかっただけに、夏ドラマでは世間の注目を集める話題作の出現を期待したい。