西武ホールディングスの第20回定時株主総会が6月24日に行われ、会場の「くすのきホール」(所沢駅東口の西武第二ビル8階)に399名の株主が来場した。ここでは株主総会の内容をもとに、鉄道事業に関係した報告と質疑応答について紹介する。

  • 小田急電鉄から譲受し、西武鉄道の「サステナ車両」として国分寺線で営業運転を開始した8000系

2024年度の鉄道事業、近江鉄道の「上下分離」など

株主総会の議長を務めた西武ホールディングス代表取締役社長の西山隆一郎氏は、開会にあたり、2024年5月に策定した「西武グループ長期戦略 2035」と2024~2026年度の中期経営計画を挙げ、昨年行った「東京ガーデンテラス紀尾井町」流動化に触れた上で、「『Resilience&Sustainability』『安全・安心とともに、かけがえのない空間と時間を創造する』を実現し、お客様に夢と希望、感動を提供し続ける企業グループをめざします」と挨拶した。

  • 株主総会は所沢駅東口の「くすのきホール」で行われた

続いて、2024年度の西武グループ各事業について動画で報告。鉄道事業(都市交通・沿線事業)に関して、駅ホームドア設置(2024年度は練馬高野台駅と石神井公園駅に設置)と車内防犯カメラ設置を引き続き進めているとのことだった。2024年12月からは、クレジットカードやスマートフォンで利用可能なタッチ決済の実証実験も開始した。

2026年3月(予定)の実施に向けて、2025年3月に鉄道旅客運賃の変更認可申請も実施。その他、DX・デジタル化施策として、無線式列車制御(CBTC)システム実証実験、乗車ポイントサービスのリニューアル、鉄道オペレーションの高度化・効率化を紹介した。

西武グループの一員である近江鉄道が、2024年4月から公有民営方式による「上下分離」に移行したことも紹介された。近江鉄道が運行主体、滋賀県および沿線自治体からなる近江鉄道線管理機構が設備主体となる。近江鉄道グループの鉄道事業に関して、2025年3月期、31年ぶりに黒字を達成したこともすでに報道されている。

  • 2024年9月に開業した「エミテラス所沢」。施設内に所沢車両工場時代の「レガシー」が展示されている

不動産事業の報告事項になるが、2024年9月開業の「エミテラス所沢」にも触れていた。かつての所沢車両工場跡地に開業した同施設は、車両工場時代の「レガシー」として、本線と工場をつなぐ引込線跡や新2000系シミュレーター、新交通システムになる前の山口線で「おとぎ電車」として活躍した蓄電池機関車を展示している。

新宿線の今後はどうする? 武蔵野線直通構想にも言及

報告事項、決議事項の説明に続いて、質疑応答の時間が設けられた。質問は1人2問まで。当記事では鉄道事業に関係する質問のみ抜粋するが、今回の株主総会で、鉄道事業に関係した質問はすべて男性株主からだった。

最初の株主は、西武鉄道が京急電鉄の株式を保有している理由を質問。これに対して、西武ホールディングス上席執行役員の原田武夫氏が回答した。西武グループは品川地区にも土地を保有しており、今後進行予定の高輪・品川地区再開発や鉄道事業における各種連携、西武グループで現在行っている三浦半島での事業にシナジーがあることから、その強化のため、京急電鉄の株式を保有しているとのこと。

次の株主は、西武ライオンズの企業価値向上がグループ全体の価値向上に重要ではないかと考えており、同社への投資がグループ全体にどう貢献するか質問した。原田氏は沿線価値向上の観点で回答。「日本に12球団しかない希少性をいかに生かすか」という前提の下、ベルーナドームや周辺施設に来てもらうことで、西武線の輸送人員増加と周辺エリアの価値向上、所沢エリアへの波及効果などさまざまな定量的価値が見込めるという。その上で、「沿線に訪れていただく方、お住まいいただける方を増やすことにより、グループ全体の価値向上につなげていくことが重要と考えており、そういったことに生かしたい」と述べた。

福岡県出身で、西鉄ライオンズ時代も知っていると自己紹介した株主は、今回の株主総会で鉄道事業に関する報告が少なかったとして、将来戦略について質問。西武鉄道取締役社長の小川周一郎氏が回答し、「住みたい沿線、訪れたい沿線を実現するため、安全・快適な輸送を継続するとともに、沿線価値向上の取組みを進めていきます」と述べた。具体的には、新宿線をターゲットに主要駅等の整備とネットワークの改善・整備を進めていく。東村山駅周辺や中井~野方間をはじめとする連続立体交差事業も、自治体主導の再開発と一体化したまちづくりとともに取り組むとのことだった。

東村山駅では、6月29日初電から新宿線の下り線が高架線へ移行する。その他、中井~野方間で地下化、井荻~西武柳沢間で高架化に向けた事業が進められており、野方~井荻間で早期事業化に向けた準備も行われている。

  • 新宿線の中井~野方間で地下化工事が行われ、将来的に新井薬師前駅と沼袋駅が地下駅になる

次の株主は、2025年3月期決算説明会で西武ホールディングス代表取締役会長の後藤高志氏が発言した内容に触れた上で、複数の乗入れパターンを挙げつつ、他社(おもにJR東日本)との協業をどのように展開していくか質問した。これに対し、西武鉄道の小川社長は、「我々としてもとても魅力的なご提案」とする一方、「さまざまな協議先が想定されます」とも話す。「優先順位を設けて中長期的に検討したいと思いますが、まずは武蔵野線の相互乗入れについて検討を進めていきたい」との考えを示した。

ちなみに、この株主が触れていた後藤会長の発言は、「西武新宿線と東京メトロ東西線、西武池袋線とJR武蔵野線の相互直通運転を実現したい」とのことで、2025年3月期決算説明会の議事録(西武ホールディングス公式サイト内、IR情報から閲覧可能)に残っている。西武鉄道とJR東日本は2020年12月に包括連携協定を締結しており、以降さまざまな協業を行っている。「今後も協業を強化していく方針」と西武ホールディングスの西山社長が補足した。

今後のホームドア設置計画、国分寺~本川越間直通列車の提案も

次の株主は、地元の駅の状況にも触れてホームドア設置の進捗状況を質問しつつ、「安全・安心で運送できるような西武鉄道であってほしい」と話した。ここからの質問には、西武鉄道取締役の町田明氏が回答。長期的には東飯能~西武秩父間を除く全駅でホームドアまたは固定柵の整備をめざしているという。

直近では2025年度に3駅(東村山駅高架ホーム、保谷駅、新所沢駅)、2026年度に4駅(池袋駅7番ホーム、中村橋駅、富士見台駅、新桜台駅)、2027年度に4駅(池袋駅1番ホーム、東長崎駅、大泉学園駅、花小金井駅)で設置予定とのこと。東京都の補助制度にも触れつつ、「まずは2030年代半ばまでに、池袋~小手指間、西武新宿~新所沢間、小平~玉川上水間、豊島線・西武有楽町線各駅への整備をめざす」と町田氏は説明した。

  • すでにホームドアの使用を開始している所沢駅をはじめ、西武線の各駅でホームドアの設置が進む

武蔵藤沢駅を60年間利用しているという株主は、昨年4月に無人化した同駅について言及。年配の利用者、とくに車いすユーザーの利用しづらさや、外国人利用者への対応の難しさ、以前に発生した体調不良者の線路内転落を根拠に、武蔵藤沢駅を有人駅に戻すか否かを問い、「せめてホームドアくらい先に付けてくれ」と強く訴えた。

これに対して町田氏は、駅のスマート化は労働力不足の加速する中で事業を安定的に持続させるためとし、必要に応じて近隣の係員が対応すると説明。補助が必要な利用者へスムーズな案内を行うための事前受付システムを今年度中に導入予定とも述べ、暗に理解を求めた。ホームドアについては、「可能な限り前倒しができるよう努める」とした。

祖父の代から株を保有しているという株主は、「以前運行していた国分寺~本川越間の直通列車を常時運行できないか」と提案。町田氏は国分寺線・新宿線直通列車について、東村山駅が工事中ということもあり、いまは運行を取りやめているものの、完成すれば直通が容易になると話す。「現在のところ、まだ具体的な計画はありませんが、地域の活性化につながる観点もありますので、しっかりと検討したい」と答えた。

  • 高架化工事中の東村山駅。6月29日初電から新宿線下りホームが高架に移行する

鉄道関係で最後に発言した株主は、武蔵野線や東西線への直通構想を「便利になることはうれしく、これからの社会の発展ということで興味深い」とした上で、大事故を起こさないようにしてほしい旨を伝えた。これに対して町田氏は、随時実施している非常時訓練や、リニューアルした社内施設での安全教育を紹介しつつ、「引き続き、安全・安心にご乗車いただけますように努めてまいります」と回答した。

今回、株主総会の所要時間は1時間44分。会場に出席した株主399名のうち、12名が質問を行った。決議事項は、第1号「剰余金配当の件」、第2号「取締役14名選任の件」、第3号「監査役1名選任の件」、第4号「取締役の報酬額改定の件」、第5号「取締役に対する株式報酬制度改定の件」の5項目。いずれも過半数の賛成により可決となった。