西武鉄道は5月末から「サステナ車両」8000系(元小田急電鉄8000形)を国分寺線で運行開始予定。これに先立ち、4月10日に報道公開を実施した。3月末に必要な試験を終了し、今後は運行開始に向けて乗務員の訓練を行っていくという。

  • 西武鉄道が「サステナ車両」8000系を公開。小田急電鉄の8000形を改造した

「サステナ車両」は、西武鉄道が他社から譲受したVVVFインバータ制御車両に対する同社独自の呼称。同社は既存車両を更新するとともに省エネルギー化を加速推進すべく、他社で今後置換えとなるVVVFインバータ制御車両を「サステナ車両」として導入する予定。小田急電鉄から8000形、東急電鉄から9000系を導入すると発表している。

今回の改造元となった小田急電鉄8000形は、回生ブレーキを搭載した高性能車両として1982年に登場し、当初は界磁チョッパ制御を有していた。2003年以降のリニューアルで内装を変更し、制御方式をVVVFインバータ制御に順次更新した上で現在に至っており、現在も小田急線全線で運行を続けている。西武鉄道が譲受した車両は、形式を「8000系」に改めた。

今回公開された8000系の8103編成は、1号車(国分寺・西武新宿方)から「8103」(Tc1・クハ8100)、「8203」(M1・モハ8200)、「8303」(T・サハ8300)、「8803」(M3・モハ8800)、「8903」(M4・モハ8903)、「8003」(Tc2・クハ8000)」。全長は20,000mm、車側灯を含む全幅は2,967mm、全高は4,040mm(パンタグラフ付きの2・4号車は4,166mm)。重量は1号車から順に31.0トン、39.7トン、33.6トン、40.2トン、39.2トン、31.2トン。譲受前の旧車番は、1号車から順に「8561」「8511」「8461」「8311」「8211」「8261」だった。

  • 公開された8103編成は、1号車「8103」から6号車「8003」まで6両編成

  • ブルー・グリーンのグラデーションで、車体前面・側面の窓下に市松模様、側面上部にラインを配置。各号車番号や車いすスペースは水色のサインで表示

  • 車体側面の市松模様を近くで見た様子

  • 側面上部のラインと、フルカラーLEDの種別・行先表示

  • 妻面に残る東急車輌(現・総合車両製作所)の銘板

外観は、全体に白色を塗装した上で、「永遠」「発展」「繁栄」を表す市松模様を前面・側面窓下にラッピングした。市松模様は、西武鉄道のコーポレートカラーであるブルー・グリーンをベースにしたグラデーションになっている。このデザインは入社3年目(2024年9月時点)の若手社員が考案し、38名75作品の社内公募から採用された。

側面上部もブルー・グリーンでグラデーションとなるラインを配置。乗降ドアには黄色のテープを追加し、各号車番号と、先頭車両の車いすスペースは、水色の丸に白文字で掲出した。乗務員室扉の上に、乗務員を表すピクトグラムがあしらわれている。

車両の外観が大きく変わった8000系だが、内装にも細かな変更が加わっている。小田急電鉄時代と同じく暖色系統の内装で、通常の座席は赤色、優先席は青色のバケットシート。ただし、車端部の座席は4人掛けから3人掛けになり、あわせてスタンションポールの位置を変更した。西武鉄道と小田急電鉄では広告の大きさが異なることから、車内広告用のレールの位置も変更した。各号車の定員数は先頭車両147名・中間車両157名。うち座席定員は先頭車両45名・中間車両54名となっている。

  • 西武鉄道8000系の車内

  • 車いすスペースは先頭車両にある。車端部の座席は4人掛けから3人掛けに

  • 乗降ドア周辺

  • LED案内表示の例

  • 「小田急車両」の下に車番・号車・改造年が追加された

8000系の報道公開にあたり、西武鉄道鉄道本部車両部車両課の窪谷紀生氏が報道関係者らに対応した。「サステナ車両」として導入する車両に小田急電鉄8000形を選んだ経緯について質問があり、窪谷氏によれば、西武鉄道の車両限界やドアピッチに適合し、できるだけ軽い改造で西武鉄道の仕様に適合できることや、同じ形式である程度まとまった数を導入でき、西武鉄道の車両置換え計画の間に廃車のめどが立った車両を探した結果、小田急電鉄8000形が最適だったという。

小田急電鉄8000形から西武鉄道8000系へ改造した際のおもな変更点としては、車端部座席の変更に加え、保安装置、列車無線装置、地上・車上間の情報転送装置を西武鉄道用に交換、停電時の室内灯として使用する蓄電池を1個から2個に追加したとのこと。

  • 西武鉄道の窪谷紀生氏

  • ATS(保安装置)など、一部機器が交換および追加された

車両のデザインについては、若手社員が考案したデザインと、西武鉄道が30000系と40000系で培ったブランドイメージを組み合わせたとして、「良いデザインにできたと思います」とコメント。これからの運行開始を控え、「めざしたところとしては、西武線に昔からいたような電車という風に受け取ってもらえるデザインにしたつもりです。これまでの電車と同じようにご愛顧いただければ」と語った。

今後は東急電鉄9000系も「サステナ車両」として迎え、西武鉄道の多摩川線、多摩湖線、狭山線、西武秩父線で2025年度以降に順次運行開始する予定。多摩湖線ではすでにVVVFインバータ制御車両(西武鉄道9000系)が運行しているが、「ある一定期間までは使用を継続する」と窪谷氏は言う。8000系の運行期間の目安についても、「いただいた車両の状態を見ながら、適切な寿命を決めていく」と語った。

元小田急電鉄8000形である西武鉄道の「サステナ車両」8000系は、5月末に国分寺線で運行開始予定。東急電鉄9000系と合わせて約100両を2029年度までに順次導入し、直流モーターを搭載する旧型車両を順次置き換える。2030年度までに車両のVVVF化率100%達成もめざす。

大手私鉄から大手私鉄への車両譲渡という非常に珍しい例となったが、その運行開始がいよいよ目前に迫ってきた。