テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、23日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ほか)の第12話「俄なる『明月余情』」の視聴分析をまとめた。
「おめえら、俺のあとだろうが!」「あとから出ただろうが!」
最も注目されたのは20時31分で、注目度75.5%。大文字屋市兵衛(伊藤淳史)と若木屋与八(本宮泰風)が、壮絶なダンスバトルを繰り広げるシーンだ。
吉原あげての俄祭りがいよいよ始まった。客の入りは上々だ。仲ノ町通りでは趣向をこらした出し物が次々と披露され、いよいよ市兵衛の出番となった。太鼓が鳴り三味線の音が響くと、白に雀が描かれた奴装束と黄色い笠を持った市兵衛の一団がかけ声を上げながら踊りだした。その中には次郎兵衛(中村蒼)の姿もある。
市兵衛たちの踊りで観客も次第に盛り上がってきたところで、次郎兵衛が何か異変を感じ取った。なんと、後ろに控えているはずの与八率いる一団が前方に現れたのだ。こちらは青い奴装束に白い扇子を手にしている。与八の一団は踊りながら市兵衛たちに向かってきた。このまま互いが進めば、両者はぶつかってしまうだろう。
「おめえら、俺のあとだろうが!」「あとから出ただろうが!」市兵衛のあとに後ろから与八が出てくる取り決めであったが、与八ははじめから守るつもりなどなかったようだ。取り決めを反故にされ怒り心頭の市兵衛をよそに、観客は思わぬ展開にさらなる盛り上がりを見せる。「もうやだ…」争いの苦手な次郎兵衛が、踊りをやめて退散すると、市兵衛と与八以外の踊り手たちもみな、次郎兵衛に続きその場を離れた。市兵衛と与八は、取り残されたことに気づきもせず、いつまでも張り合っている。観客の笑い声に包まれる仲ノ町通りだったが、この2人は明日以降も同じようにやり合うつもりなのだろうか。
「殴り合いそうな雰囲気だったのに」
注目された理由は、どこか滑稽な市兵衛と与八のダンスバトルに、視聴者の視線が「くぎづけ」になったと考えられる。
俄祭りのアイデアを与八に奪われ怒り心頭の市兵衛と、常日頃から吉原の運営を駿河屋一派に牛耳られ面白くない与八。両者は藤間流、西川流にそれぞれ振付を依頼し、雀踊りで対決することになる。2人の互いへのライバル心は、平沢常富(尾美としのり)の思惑通りいい方向に作用して祭りを大いに活気づけた。
SNSでは、「大文字屋さんと若木屋さんのバチバチがどんどんエスカレートしていくのが面白かった!」「殴り合いそうな雰囲気だったのに、正々堂々と踊り比べするのがいいね」「先頭のボス同士だけ踊りがズレてるの笑える」「吉原を2つに割った大喧嘩の舞台が祭りってのが粋だな」と、本人たちはガチなのにどこか滑稽な本シーンに高い注目が集まった。
今回披露された雀踊りは、編み笠をかぶり、雀の模様の着物を着て、奴(やっこ)の姿で雀の動作をまねて踊る民俗舞踊の一つ。のちに歌舞伎にも取り入れられた。
大文字屋市兵衛は伊勢の出身で、1750(寛延3)年に河岸店で女郎屋を開店する。当初は世話になった親分にちなんで「村田屋」という店だった。経費を節約するため、女郎たちの食事に大量のかぼちゃを買い与えたことから、「加保茶(かぼちゃ)市兵衛」と呼ばれる。そんな経営努力のかいもあってか、2年後の1752(宝暦2)年には京町一丁目に店を移すことができた。しかし、親分ともめたことで暖簾を没収されてしまい、「大文字屋」と屋号を改める。背が低く、頭が大きかったこととあだ名から、「ここに京町大文字屋のかぼちゃとて。その名は市兵衛と申します。せいが低くて、ほんに猿まなこ。かわいいな、かわいいな」と蔑まれるが、これを逆手にとってあえて自ら進んで歌い踊り、店の宣伝に利用したことで歌は吉原だけでなく江戸中で流行し、多大な宣伝効果を得ることができた。
また、園芸好きでもあり、マツバランに斑を入れる工夫をほどこして、「文楼斑(ぶんろうはん)」と名付けた。かぼちゃで身を起した市兵衛だが、なんと戒名は「釈仏妙加保信士(しゃくぶつみょうかぼしんじ)」。とてもインパクトのある戒名だ。