2番目に注目されたのは20時35分で、注目度74.9%。花の井(小芝風花)と九郎助稲荷(綾瀬はるか)が蔦重に激おこのシーンだ。
花の井は蔦樹に呼ばれ九郎助稲荷へやってきた。昨晩、鳥山検校の用意した『金々先生栄花夢』を読んだ花の井は、これだけ面白い本なら、鱗形屋はかつての勢いを取り戻すのではないかと焦っていた。そうなれば、ようやく地本問屋への道が見えてきた蔦重の立場はどうなるのか。
しかし、当の蔦重はのんきなものだった。聞けば、忘八たちが蔦重の手助けをしてくれるという。商売を知り尽くした忘八が味方になればこれほど心強い味方はないだろう。これまでは2人で吉原のために尽力してきたが、新たな味方ができたのだ。蔦重は脳天気によろこんでいるが、花の井の気持ちは複雑だった。花の井が吉原を盛り上げようと蔦重と2人で過ごす日々は、吉原の経済だけでなく、同時に花の井の心もうるおしていた。
そんな花の井の心のうちも知らず、蔦重は1冊の本を渡してきた。今まで協力してくれた礼として須原屋市兵衛(里見浩太朗)に相談して用意したという『女重宝記』だった。これを読んで知識をつけ、身請けされたときに困らないよう備えろというのだ。蔦重にとっての自分は、救いたい吉原の女郎の一人にすぎないのかと思うと胸が苦しくなった。「馬鹿らしうありんす…」花の井は小声でつぶやくと、「せいぜい読み込みいたしんす」と言い捨て、足早に去っていった。
女心が分からず、事態が飲み込めない蔦重に、「バーカ! バカ! バカ! 豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ!」と、九郎助稲荷は思い切りなじりの言葉を浴びせるが、当然その声は蔦重には届かなかった。
「狐さん、代弁してくれてありがとう」
このシーンは、九郎助稲荷の神様らしからぬ罵声に、視聴者の注目が集まったと考えられる。
吉原で苦しい日々を送る花の井にとって、ひそかに想いを寄せる蔦重との時間は、なにものにも代えがたい貴重なものだっただろう。蔦重も花の井のことは特別な存在と感じているとは思うが、平賀源内(安田顕)に語ったように、幼少の頃から女郎には死んでも手を出してはならないと叩き込まれたせいで、花の井を恋愛対象として考えたことはないのだろう。
SNSでは、「蔦重のクソボケトンチキニブニブ幼馴染!」「プレゼント贈ろうとした時にはときめいたのに…ときめきを返せ!」「瀬川の泣きそうな声と表情、悲痛な思いが伝わってきたし、しょうがないと分かっても蔦重のバカぁーて言っちゃった。狐さん、代弁してくれてありがとう」「瀬川さん、ほんとにほんとにかわいそう…」と、鈍感な蔦重にバッシングの雨が降り注いでいる。しかし、そんな2人の関係は、鳥山検校の登場によって大きく動き出す。花の井の激動の生涯は有名だが、物語ではどのように描かれるのか楽しみだ。
今回、蔦重が花の井に送った『女重宝記』は、全5巻の女性用の教科書。医師であり、仮名草子作者でもある苗村丈伯(なむらじょうはく)によって編さんされた。1692(元禄5)年に出版され、改訂を重ねて幕末まで刊行された。一之巻にはたしなみ、二之巻には祝言、三之巻には懐妊、四之巻には諸芸、五之巻には雑学が記載されている。当時のマナー本の決定版といえる本書は、この時代の女性たちにさまざまな知識を与えた。蔦重は花の井の幸せを願ってチョイスしたのは間違いないが、著しくTPOに反したプレゼントだった。九郎助稲荷に罵詈雑言を浴びせられても仕方ない。