テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、2月23日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ほか)の第8話「逆襲の『金々先生』」の視聴者分析をまとめた。

  • 横浜流星=『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第8話より (C)NHK

    横浜流星=『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第8話より (C)NHK

階段から突き飛ばす

最も注目されたのは20時41~42分で、注目度79.3%。駿河屋市右衛門(高橋克実)が、ナメ切った態度の鶴屋喜右衛門(風間俊介)をシバくシーンだ。

喜右衛門は鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)や西村屋与八(西村まさ彦)をはじめとする地本問屋を引き連れ、駿河屋の座敷で吉原の旦那衆と対面すると、孫兵衛を後押しするので蔦重(横浜流星)の仲間入りの約束を反故(ほご)にすると告げてきた。蔦重は吉原に関わる本しか作らず、細見もただで引き渡すと最大限に譲歩するが、喜右衛門はここからは自分一人で話をしたいと他の地本問屋たちを座敷から退出させると、喜右衛門は吉原者である蔦重を仲間に入れられないのは、地本問屋の中には吉原者を強く拒絶する者がいることが理由だともっともらしく説明した。それでも必死に食い下がる蔦重であったが、喜右衛門はこの場にいない地本問屋のせいにしてのらりくらりとはぐらかす。その態度から、蔦重を仲間に入れたくないのは他の誰でもなく喜右衛門本人であることは明白だった。

蔦重の義父である市右衛門は、おもむろに立ち上がって喜右衛門のそばへとにじり寄ると、喜右衛門の胸ぐらをつかんで「ウソくせえんだわ、おめえ!」と、階段まで引っ張っていき、そのまま階下へと突き飛ばしてしまった。喜右衛門の吉原者を見下した態度に、とうとう堪忍袋の緒が切れたようだ。突き落とされた喜右衛門と、かけ寄ってきた孫兵衛ら地本問屋の面々に、忘八たちは階上から吉原への出禁を言い渡した。蔦重はあまりの事態に頭が痛くなった。

  • 『べらぼう』第8話の毎分注視データ

「最後の赤子面は最高のトドメ」

注目された理由は、市右衛門が姑息な喜右衛門をぶっ飛ばすことで、視聴者がカタルシスを得たと考えられる。

一見、人格者に見える喜右衛門だが、文化人としてのプライドは相当に高いようだ。鱗形屋の『金々先生栄花夢』を売り出すミーティングでも、蔦重を「吉原の引き札屋」とさげすんでいた。引き札は今でいう広告チラシだ。蔦重の作った『吉原細見』は本ではないと、かたくなに認めようとしないのが伝わってくる。吉原を見下した態度は、忘八を前にしても変わらず、吉原全体を敵に回すような発言を連発した。そのあまりにも失礼な言葉の数々に怒りが爆発しそうになった視聴者の代わりに、市右衛門が痛快な一発をかましてくれた。

SNSには、「鶴屋喜右衛門が駿河屋市右衛門に投げ飛ばされてスカッとした。ほんとに憎たらしいんだよ」「今週は忘八アベンジャーズ・駿河屋の親父様がMVPだね!」「忘八の親父様方を応援する日が来るなんて、第1回を見た後じゃ考えられなかったな」などと、市右衛門や忘八アベンジャーズを応援するコメントが多く寄せられた。また、市右衛門が喜右衛門に放った「この赤子面!」のセリフは多くの視聴者の印象に残ったようで、「風間俊介さんの童顔にピッタリすぎて吹き出した」「最後の赤子面は最高のトドメでした」「言い得て妙すぎるやろ」と、市右衛門のワードセンスに称賛が集まった。

今回のMVPの呼び声の高い駿河屋市右衛門だが、史実では教養深い人物で特に俳諧・狂歌に明るかったようだ。蔦重の出版活動を最初期から支援し、1776(安永5)年には「葦原駿守中」という名義で『烟花清談』という吉原遊廓の逸話の短編集を自ら執筆している。版元はもちろん蔦重の「耕書堂」である。蔦重が本好きなのも、市右衛門の影響が強いと考えられる。これから文化人としての市右衛門が描かれるのか楽しみだ。

そして、突き飛ばされた鶴屋喜右衛門だが、物語では憎らしく描かれているものの、版元としては極めて優秀で、1833(天保4)年には同業者である保永堂と合同で、現代でも有名な歌川広重の『東海道五十三次』を世に送り出している。この頃には蔦重は亡くなっているが、もし生きていたら兜を脱いだのではないだろうか。蔦重とは競合として戦い続けた喜右衛門だが、意外にも一緒に旅行に行くこともあったようだ。