テレビ画面を注視していたかどうかがわかる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、8月25日に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00~ほか)の第32話「誰がために書く」の視聴者分析をまとめた。

  • 見上愛(左)と塩野瑛久=『光る君へ』第32話より (C)NHK

    見上愛(左)と塩野瑛久=『光る君へ』第32話より (C)NHK

一条天皇の身を案じてその場に留まった彰子

最も注目されたのは20時30~32分で、注目度81.5%。内裏で火事が起こるシーンだ。

一条天皇(塩野瑛久)が周りの反対を押し切り、亡くなった皇后・藤原定子(高畑充希)の兄・藤原伊周(三浦翔平)を再び陣定に召し出す宣旨を下した。ひそかに集まっていた2人の大納言である藤原実資(ロバート・秋山竜次)、藤原道綱(上地雄輔)と、右大臣・藤原顕光(宮川一朗太)は不満をあらわにする。前代未聞の沙汰に、実資は不吉なことが起こるのではと懸念するが、その不安は見事に的中する。

そして、それは皆既月食の夜に起きた。誰もが皆、漆黒の闇を恐れて引きこもり、内裏は静まりかえっている。一条天皇は灯をともし『源氏物語』を読みふけっていたが、突然、光が失われた。その直後、闇の向こうから恐ろしい悲鳴が響いた。温明殿と綾綺殿の間から火の手が上がり、瞬く間に内裏に燃え広がっていたのだ。

一条天皇は炎から逃れつつ藤壺へ向かうと、燃えさかる炎の中で、ただひとり立ちつくす妻・藤原彰子(見上愛)の姿があった。「敦康はどこだ!」一条天皇は敦康親王(池田旭陽)の安否を問う。「ただいま、お逃がしまいらせました」彰子は答える。今まさに、炎に飲み込まれてしまうかも知れない恐ろしい事態に直面している彰子だが、その声には怯えが感じられない。しかも敦康親王はすでに難を逃れているという。「そなたは何をしておる?」一条天皇の問いかけに、彰子は「お上はいかがなされたかと思いまして…」と答えた。なんと彰子は、この状況の中で、一条天皇の身を案じてその場に留まっているのだ。

この瞬間、一条天皇の中で、彰子の存在がこれまでとはまったく違うものに昇華した。「参れ」一条天皇は彰子の手を取ると急いで駆け出した。夫にともなわれ彰子も走った。「あっ!」普段走ることなどない彰子は、足がもつらせて廊下に倒れた。「大事ないか!」一条天皇は彰子に単衣をかけなおし、抱きかかえて妻の身体を起こした。一条天皇はしっかりと彰子を支え、再び駆け出し、2人は外へと抜け出した。

  • 『光る君へ』第32話の毎分注視データ

「少女マンガそのまま」2人の愛を祝福する声

注目された理由は、ハリウッド映画さながらの迫力ある映像と、一条天皇と彰子が手を取り合って危機を乗り越えようとする姿に、視聴者の視線が“くぎづけ”になったと考えられる。

一条天皇と彰子の仲は深まる気配がなかったが、彰子は定子の忘れ形見である敦康親王には愛情を注いで養育してきた。土産を持ってきた道長にきちんとお礼を述べさせたのも、礼儀を教えるだけでなく、当時の最高権力者である道長の心証を少しでもよくするための方策と考えてのことと思われる。火事場という極限の環境で、自らの命をかえりみず、一条天皇と敦康親王を案じる彰子の姿に、一条天皇と同様に感動を覚えた視聴者は多かったのではないか。

X(Twitter)でも「彰子様、まだ17歳ぐらいのはずなのに只者ではない」「炎の中、帝の身を案じて内裏で待っていた彰子様。そりゃ胸を打たれるよね」「胸キュン展開来た!」「避難の姿が美しすぎる」「彰子を伴って脱出する一条天皇が少女マンガそのまま」と、ようやく芽生えた2人の愛を祝福する投稿が多く見られた。

なお、2人が手を取り合って内裏から脱出したのは史実。その様子は道長の日記『御堂関白記』や、実資の日記『小右記』に記述がある。一条天皇の在位期間中に、内裏は3度も火事に見舞われている。1度目は999(長保元)年の出来事で、第21回「旅立ち」で、定子が清少納言に連れられて脱出する姿が描かれた。2度目は1001(長保3)年に起きており、『光る君へ』では描かれなかったが、再建した内裏が全焼している。

そして、3度目が1005(寛弘2)年の今回の火事。現代と比べて、建物の耐火基準や防火設備が進んでいない時代のため、火事の脅威は現代の比ではない。火事という非常事態の中で思いがけず進展した夫婦仲が、今後の物語にどのような影響を及ぼすのか。要注目だ。