フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で18日に放送された『母と息子のやさしいごはん2~僕と母さん 時々父さん~ 前編』(TVer・FODで見逃し配信中)。飲食店を経営する発達障害のある息子とその母、そして陰ながら支える父を追った作品で、25日に「後編」が放送される。

取材したのは、前作『母と息子のやさしいごはん ~親子の大切な居場所~』(21年10月3日放送)でATP賞(全日本テレビ番組製作社連盟主催)の優秀新人賞を受賞した真壁優仁ディレクター(ネツゲン)。この家族を、どんな思いで見つめてきたのか――。

  • 『ザ・ノンフィクション』に登場する大貴さん (C)フジテレビ

    『ザ・ノンフィクション』に登場する大貴さん (C)フジテレビ

経済的支援を失い、天井から水漏れも…

東京・護国寺にある「酒・食事処 大(たい)」。調理担当の息子・大貴さん(31)と接客担当の母・貴美子さん(67)の二人三脚で営むこの店は、こだわり抜いた日本酒と自慢の一品料理が売りだ。

発達障害があり、人と接するのが苦手だが、料理が大好きな息子のために母が食堂を開店したのは2020年1月。直後にコロナ禍に見舞われ、わずか2年で閉店することになったが、それでも母は「息子が料理だけで生きていけるように」と2022年5月、夜も営業する料理店として新たな店をオープンした。しかし、採算が取れない高価な食材を使う息子のこだわりは変わらず、売り上げは伸びない。その上、これまで経済的に店を支えてきた父・充明さん(84)が高齢のため、歯科医院をやめることになった。

それでも少しずつ客が増え始め、「自分も何か力になりたい」と、父も店を手伝い始める。しかし、店の経営が何とか軌道に乗り始めようとする矢先、突然、天井から水漏れが発生。さらに状態は悪化し、店は長期休業を余儀なくされてしまう…。

  • 店内の水漏れを確認する大貴さん (C)フジテレビ

日本酒イベントに誘われる関係性に

真壁Dがこの家族と最初に出会ったのは、コロナ禍の2021年。東京・文京区が「飲食店テイクアウト・デリバリー支援事業補助金」を出すというニュースを取材すると、それに参加していたのが大貴さんと貴美子さんの店だった。

取材の合間に貴美子さんと話していると、「この子は私がいないと生きていけないんです」と聞き、「飲食店をやることになった真意が深いところにあるのではないかと思い、お話を聞かせてくださいとなりました」(真壁D、以下同)と、『ザ・ノンフィクション』の取材が始まった。

しかし、他人に恐怖を覚え、うまくコミュニケーションが取れない大貴さんに話を聞くのは、苦労を要した。

「最初はどうやったら大貴くんが僕に心の中を教えてくれるんだろう…と悩みながら接していました。大貴くんのほうが年上なので、最初は“大貴さん”と呼んで敬語を使っていたのですが、本人とお母さんとも相談しながら“大貴くん”にしてみたり、いろんなコミュニケーションを図りながら、時間をかけてちょっとずつ心を開いてくれたと思います」

大貴さんは一緒に日本酒を飲みたいそうだが、お酒が飲めないという真壁D。それでも、大貴さんから「飲めなくてもいいから、日本酒のイベントに行こうよ」と誘われ、「今度行く予定です」という関係性を築いている。

この変化は、大貴さんが店の運営を続ける中、仕入れや買い付けなど様々な場面でコミュニケーションを取るようになったことも大きな要因だと分析。

ただ、前編の放送で、「僕とのコミュニケーションはもう大丈夫そう?」と聞く真壁Dに、大貴さんが「分からない(笑)」と答える場面もあったように、「(信頼関係を)積み上げてきたと思いきや、いきなりシャッターを閉じられることもありますし、次に会いに行ったらまた開いてるなんてこともあります」と、一筋縄ではいかない部分もあるようだ。