東京都の有識者会議がまとめた試算によると、「妻の働き方で生涯収入に2億円の差がでる」とのこと。これは妻が仕事を辞めずに定年まで続けた場合と専業主婦になった場合の比較です。現在では共働きが7割を超えていますが、同じ共働きでも働き方によって収入格差が生まれています。そこで、共働きの実態を、さまざまなデータから検証してみました。また、共働き世帯の世帯年収を上げるためにやるべきこともお伝えします。

  • 「共働き」の実態は?

    「共働き」の実態は?

妻の働き方で生涯収入2億円の差

東京産業労働局の「東京くらし方会議」がまとめた報告によると、夫婦世帯で妻の働き方による生涯収入の差は約2億円となっています。4パターンの試算結果をみてみましょう。

<算定条件>
- 夫婦共に同年齢、31歳で第1子を出産 - 夫は22歳から64歳まで会社員として就業、35歳時点で年収600万円 - 妻は22歳から31歳まで会社員として就業、31歳までの年収は夫と同様 - 年金は65歳から受給開始。 - 夫の収入は22歳~54歳の間で一定のベースアップを考慮し、55歳で昇給停止 - 退職金は考慮していない。生涯収入はそれぞれ89歳までで計算

1. 継続就労型・・・出産後育業し、同じ職場で働き続けた場合
世帯の生涯収入: 約5億1,000万円(年金が約1億円)

2. 再就職型・・・出産に伴い退職、育児期間を経て子が10歳の時、再就職した場合(年収300万円)
世帯の生涯収入: 約3億8,000万円(年金が約9,000万円)

3. パート再就職型・・・出産に伴い退職、育児期間を経て子が10歳の時、パートで再就職した場合(年収100万円)
世帯の生涯収入: 約3億5,000万円(年金が約7,000万円)

4. 出産退職型・・・出産に伴い退職し、再就職はしなかった場合
世帯の生涯収入: 約3億2,000万円(年金が約7,000万円)

夫の収入は同一とした試算で、妻が同じ職場で働き続けた場合は、世帯の生涯収入は約5憶1,000万円。対して、出産退職し、その後就職しなかった場合は、約3億2,000万円でその差は約2億円となります。

この試算では、妻が就労しない場合の夫の収入におけるメリットも試算しています。それによると、配偶者手当(10,914/月)と配偶者控除分(71,000/年)が受けられるパート再就職型と出産退職型は、生涯を通じて約670万円のメリットがあります。

<夫と妻それぞれの生涯収入>

  • <夫と妻それぞれの生涯収入> 出所: 東京産業労働局「東京くらし方会議(第7回)」資料4

就労を継続した場合のメリット約2億円に対して、配偶者手当などのメリットは約670万円と、非常に小さいことがわかります。扶養内で働くために、いわゆる「年収の壁」を意識することは、長い目でみると損をしているといえそうです。

共働きの6割がパート

内閣府「男女共同参画白書 令和6年版」によると、共働き世帯は専業主婦世帯の約3倍、割合にすると約75%が共働きになります。ここからは、7割以上を占める共働きの実態を見ていきましょう。

同白書の令和4年版には、フルタイム(週35時間以上)とパート(週35時間未満)に分けた共働き世帯数が確認できます。

  • 共働き等世帯数の推移 出所: 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版」

妻がパートの共働き世帯は右肩上がりで増えているのに対して、専業主婦世帯はそれに反比例するかのように減っています。一方で、妻がフルタイムの共働き世帯数は1985年頃からほぼ横ばいです。つまり、専業主婦がパートに置き換わったととらえることができます。共働きといっても、6割はパートであることがこのグラフからわかります。

ここで前出の試算結果を振り返ってみましょう。同じ共働きでも、(1)同じ職場で働き続けた場合は、生涯収入は2億5,500万円、(2)31歳で退職し、41歳で再就職した場合(年収300万円)は1億2,700万円、(3)31歳で退職し、41歳でパートで再就職(年収100万円)した場合は8,500万円です。扶養から外れて働いた場合でも、1億円以上の開きがあります。そして(2)もしくは(3)が共働きのおよそ6割を占めることが上記のグラフから推察できます。

共働き夫婦に占めるパワーカップルの割合は2.5%

実際に、共働き世帯がどのくらいの年収なのか、総務省「労働力調査」から確認してみたいと思います。夫婦のいる世帯の夫と妻の年収を階級で表したグラフをみてみましょう。

  • 共働き世帯の夫・妻年収別の割合 総務省「労働力調査 詳細集計 全都道府県 2023年」をもとに筆者作成

夫の場合は、年収500万円~699万円がボリュームゾーンになっていますが、妻の場合は、年収100万円未満と年収100万円~199万円がボリュームゾーンとなっています。この結果をみても実際はパートで働いている妻が多いことが想像できます。

お互いの年収が700万円以上の夫婦をパワーカップルと定義して、同調査からパワーカップルがどのくらいいるのか確認してみます。夫の年収と妻の年収を階級に分けて表にしてみました。

  • パワーカップルはどのくらいいるのか 共働き世帯の夫・妻年収別の割合 総務省「労働力調査 詳細集計 全都道府県 2023年」をもとに筆者作成

表の黄色の部分がパワーカップルとなります。合計すると40万世帯になります。共働き世帯の総数が1598万世帯なので割合にすると約2.5%です。夫の年収が700万円以上の割合は24.4%であるのに対し、妻の年収が700万円以上の割合は3.6%しかないため、必然的にパワーカップルの割合は少なくなってしまいます。

共働きで世帯年収を上げる方法

同じ共働きでも、妻の働き方によって、世帯年収に大きな差が生じます。世帯年収を増やすための方法を確認しましょう。

*育休・時短など制度をフル活用する

前出の試算によると、継続就労型であれば妻の生涯収入は2憶5,500万円になります。退職して再就職した場合と比べて1億円以上多くなります。とはいえ、出産や育児で仕事を休まなければならない状況はやってくるでしょう。

国は育児休暇や時短勤務など、仕事と家庭を両立させるための支援制度を拡充しています。これらの制度を活用して仕事を継続すれば、世帯収入は安定します。妻が仕事を辞めて育児に専念し、夫が一馬力で働くよりも、夫婦で制度を活用しながら二馬力のまま子育て期を乗り切った方が、世帯の生涯収入が多くなることは、前出の試算で示したとおりです。

昨今は国や企業が男性の育児休暇の取得率アップに積極的になっているため、夫が仕事をセーブして、妻を支えることも珍しくなくなっていくでしょう。妻のキャリアを途切れさせないことが、世帯年収を上げるための最善の方法であり、パワーカップルへの道筋を作ることにもなります。

*「年収の壁」を超えることに躊躇しない

誰もが継続就労ができるわけではなく、また、望んで退職し、育児に専念する人もいるでしょう。仕事の価値観や生き方は人それぞれです。現状、子どもが小さいときは家庭に集中し、手がかからなくなった頃にパートで働きだすパターンは非常に多いと思います。

お金より時間がほしいという理由でパートを選んでいる人はそのままでも問題ありませんが、「やりがいのある仕事をしたい」「もっと稼ぎたい」と思っているのに、「年収の壁」を理由に働き控えをしている人は、前出の「2.再就職型」と「3.パート再就職型」を振り返ってみましょう。

2. 再就職型・・・出産に伴い退職、育児期間を経て子が 10 歳の時、再就職した場合(年収300万円)
生涯収入(妻): 約1億2,700万円

3. パート再就職型・・・出産に伴い退職、育児期間を経て子が 10 歳の時、パートで再就職した場合(年収100万円) 生涯収入(妻): 約8,500万円

年金は社会保険に加入することで約950万4,000円多く受け取ることができます。

同じように退職して、育児期間を経て復帰した場合でも、年収の壁を意識せずに年収300万円の収入を維持できれば、扶養内で働いた場合に比べて生涯収入が4,200万円多くなります。家1軒買えるほどの金額です。

目先の利益は大きく見えるので、それに囚われがちですが、そうすると生涯をかけて得られるもっと大きな利益を逃してしまう危険があります。制度は上手に活用し、一方で制度に振り回されない視点を持つことも大事です。