「年収1,000万円はお金持ち」といわれていたのは今や昔。現在は、年収1,000万円を"高所得貧乏"などということがあります。実際、東京で、年収1,000万円で暮らすのは楽ではないことは見聞きするでしょう。マンション価格が高騰し、もはや庶民は手を出せなくなった新築マンション。小学受験や中学受験をする家庭の高額な教育費。東京では普通の暮らしのハードルがどんどん上がっています。そこで、「東京で年収1,000万円は高収入なのか」をさまざまなデータから検証してみたいと思います。

  • 東京で年収1000万円で暮らすのは楽ではない?

    東京で年収1000万円で暮らすのは楽ではない?

東京の平均年収はいくら?

東京に住んでいる人の平均年収はいくらなのでしょうか。
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」の都道府県別調査から東京都の平均年収をみてみましょう。

  • 東京都の平均年収 ※年収は月額給与×12+年間賞与 出所: 厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査/一般労働者/都道府県別」をもとに筆者作成

東京都の短時間労働者を除く一般労働者の平均年収は580万7,300円となっています。全国平均の506万9,400円と比べて、約73万8,000円高くなっています。全国平均よりも高かったのは栃木県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府の5つで、東京都が最も高くなっています。

この結果だけをみると、年収1,000万円は東京都であっても高収入になります。

ただし、この調査は個人で稼ぐ年収であって、世帯年収にすると平均はもっと高くなるでしょう。そこで、世帯年収における年収1,000万円を次にみてみましょう。

東京で世帯年収1000万円はどのくらいいる?

総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査」から、東京都の世帯収入階級別の世帯数をみてみましょう。

  • 東京都の世帯収入階級別の世帯数 出所: 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 地域編 世帯単位で見た統計表」をもとに筆者作成

  • 東京都の世帯収入階級別世帯数(全世帯) 出所: 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 地域編 世帯単位で見た統計表」をもとに筆者作成

世帯収入ごとに区切って、世帯数を表した統計表をもとにグラフを作成してみた結果、200万円から400万円の世帯数が多くなっています。これは単身世帯も入れた全世帯での統計であるためです。1,000万円未満までは収入が高くなるに従って徐々に減っていき、1,000万円以上1,250万円未満で急に数が増えていますが、これは階級の幅が250万円に増えているためです。単身世帯を入れた全世帯では前出の平均年収よりも低い世帯が多いことがわかります。

次に単身世帯を省いた一般世帯(二人以上の世帯)のグラフもみてみましょう。

  • 東京都の世帯収入階級別世帯数(二人以上の世帯) 出所: 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 地域編 世帯単位で見た統計表」をもとに筆者作成

  • 東京都の世帯収入階級別世帯数(二人以上の世帯) 出所: 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 地域編 世帯単位で見た統計表」をもとに筆者作成

階級別にしたグラフをみると、1,250~1,499万円が一番多くなっています。これも100万円ずつの区切りから、250万円ずつの区切りに変わったためですが、単身世帯を含むグラフと比べて、収入が高い世帯の割合が増えていることがわかります。世帯収入が1,000万円以上の世帯を合計すると110万6,600世帯となり、二人以上世帯全体の約30.7%になります。

東京都では、単身世帯を省くと、約3割が年収1,000万円以上の世帯ということです。なお、全国では二人以上世帯における年収1,000万円以上の世帯の割合は16.8%となり、東京都が高いことがわかります。

東京での生活費

東京で暮らす年収1000万円世帯は、どのような生活をしているのでしょうか。
総務省「家計調査」から、東京都区部に住む二人以上世帯(勤労者世帯)の1か月の生活費をみてみましょう。

  • 二人以上(勤労者)世帯の生活費(東京都区部) 出所: 総務省「家計調査 家計収支編2023年・都市階級・地方・都道府県庁所在市別・二人以上の世帯のうち勤労者世帯」をもとに筆者作成

東京都区部の消費支出は36万5747円となり、全国平均の消費支出31万8755円よりも5万円程度多くなっています。このデータは年収1,000万円世帯のものではありませんが、実収入が73万4830円なので、年収にすると約882万円となり、年収1,000万円に近いものといえるでしょう。

ここで気になるのが住居費です。東京に住んでいるのに住居費が2万8,397円というのは少なすぎると感じるのではないでしょうか。この調査対象世帯の持家率は76.4%、家賃・地代を支払っている世帯の割合は21.3%であり、これらを合わせて平均を出しているので、必然的に住居費は少なくなってしまいます。また、持家のうち住宅ローンを支払っている世帯の割合は37.1%とこれも平均データに表れる影響は少なくなります。

そこで、住居費に関しては、他の調査を参照しましょう。不動産情報サイト「LIFULL HOME'S PRESS調べ(2024年5月掲載)」によると、東京全域のファミリー向き賃貸の掲載物件の平均賃料は約18万円、反響(問合せ)物件の平均賃料は約14万9,000円となっています。東京23区に絞ると、掲載物件の平均賃料は約21万5,000円、反響物件の平均賃料は約16万7,000円となっています。

東京での年収1000万円の暮らし

ここまでを踏まえて、ざっくりと東京での年収1,000万円の暮らしを考えてみましょう。年収1,000万円の手取り額はおよそ70~78%なので、ここでは70%として700万円としましょう。月にすると約58万円です。住居費を引いた生活費を34万円とすると、ここに家賃の18万円を加えると生活費の合計は52万円になります。手取りから生活費を引いた残りは6万円になります。

消費支出はひと月の平均的な支出であり、突発的な支出は含んでいません。6万円では急な出費があったときに、ぎりぎり対応できるレベルでしょう。これでは貯蓄もままなりません。

賃貸ではなく、住宅ローンを組んでいる場合もそれほど変わりはないでしょう。国土交通省の「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」によると、住宅ローンの返済額の全国平均は月14万5,000万円です。ここに管理費や修繕積立金を加えれば、先ほどの賃料と同じくらいになるでしょう。

まとめ

以上をまとめると、東京都の平均年収は580万7,300円であることから、年収1,000万円は高収入であることは確かです。しかし、世帯年収でみてみると、東京都の二人以上世帯で年収1,000万円以上の世帯は、約3割を占め、およそ3世帯に1世帯と考えられることから、東京で世帯年収1,000万円の壁はそれほど高くないと言っていいでしょう。

そして、東京での年収1,000万円の生活は、家が持家(ローンなし)以外は楽ではないことが試算によってわかりました。「年収1,000万円は高収入であるか」については、高収入の定義によりますが、余裕のある生活ができる収入を"高収入"と考えると、「東京で年収1,000万円は高収入ではない」といえるかもしれませんね。