企業規模の社会貢献活動が活発化するなか、ひときわ存在感を放っているのが「電通デジタル」である。

とりわけ、クライアントとともに社会課題の解決にあたる「ソーシャルプロジェクト」は、世界3大広告賞のひとつである「カンヌライオンズ」でショートリストを受賞するなど、その実績は目を見張る物がある。

しかし、なぜ電通デジタルはそういった取り組みに注力し続けるのか。今回はクリエイティブ領域の執行役員で、「ソーシャルプロジェクト」の責任者でもある田中 寿氏のもとを訪問。プロジェクトの狙いや展望、今後の課題などについて話しをうかがった。

  • 電通デジタル クリエイティブ領域の執行役員で「ソーシャルプロジェクト」の責任者でもある田中 寿氏

■電通デジタルの「ソーシャルプロジェクト」って何?

――まず、田中さんのこれまでのご経歴を教えてください。

2002年に電通に入社して、最初はラジオ局で放送局担当としてラジオ広告のセールスをしていました。その後は営業局を経て、2011年にクリエイティブプランニング局に転局し、クリエイティブ人生が始まりました。

2017年にはGM職、いわゆるクリエイティブディレクターになって、さらに2021年に新設されたCXCC(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)でまたGMに就き、2023年から電通デジタルの現職ですね。

――さっそく電通デジタルの「ソーシャルプロジェクト」について話をうかがいたいのですが、そもそも「ソーシャルプロジェクト」とは何でしょう?

直訳すると「社会課題」「社会計画」ということになりますが、簡単に言うと、電通デジタルが立ち上げた、「地球規模の社会課題をクリエイティブアイデアで解決しよう」という試みのことです。

――なぜ、「ソーシャルプロジェクト」を立ち上げるに至ったんですか?

電通デジタルのパーパスとして「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。」というものがあります。だからこそ、社会課題に対しても世界のあり方を変えられるような課題を選択して、クリエイティビティを活かして解決していこう、と。そういったスタンスで2017年にこのプロジェクトが立ち上がりました。

――「ソーシャルプロジェクト」を立ち上げたキッカケなどはあったのでしょうか?

実は、2017年頃というのは世界的に「企業は自らのメリットだけでなく、地球のメリットも考えなければいならない」という考えがトレンドになった頃だったんですよ。電通デジタルのクライアントの多くもソーシャルイシューに関心を持ち始めた時期でした。

もともと電通デジタルの主なミッションは“クライアントの課題を解決すること”ですが、私たちもその時期から“社会の課題を解決すること”に力を入れ始めた結果、それまでより広く社会的な間口が開いたという実感があります。

■「“名画になった”海 展」「TEHAI」……AIを使った社会貢献の方法

――これまで、実際に取り組んだプロジェクトについて教えてください。

たとえば2022年には、海洋廃棄物問題に焦点を当て、「このまま海を汚していると、将来の名画もゴミだらけになってしまうよ」というメッセージを発信するため、横浜八景島さんと組んで「“名画になった”海 展」を実施しました。

このときは「ゴッホや葛飾北斎などの巨匠が2050年の海を描いたらどんな作品が生まれるか」というアプローチで、AIを使って彼らの名画に海洋廃棄物を描き加えるという手法で訴えかけたんです。その作品は実際に仙台うみの杜水族館のほか、東京や台湾でも展示されました。

  • "名画になった"海 展

――すごくインパクトがありますし、ショッキングでもあるので、かなり記憶に残りそうです。

2020年には、警視庁の協力を得て「TEHAI」というプロジェクトを実施しています。これは指名手配犯の過去のモンタージュ写真をもとに、AIが今現在の顔を予測して描き出すというプロジェクトで、実際に存在する重要指名手配犯12名のうち、5名の現在の姿を予測しました。

指名手配犯に「逃げられないよ」というメッセージを発信すると同時に、犯罪の予防にもつなげる狙いがあったのですが、このプロジェクトは、「こうして世界のあり方が変わっていくんだな」と実感できた良い例だったと思っています。

  • TEHAI

――これはまさにタイムリーなプロジェクトですね。

他にも、日本パラ・パワーリフティング連盟と組んで実施した「ロゴで応援! People-Sponsored Logo」というプロジェクトもあります。電通デジタルにも14人のパラアスリートが所属していますが、パラアスリートはメジャーになりにくい分、スポンサーもつきにくいという悩みがあるんですよ。しかも、多くの場合は企業単位でしか協賛につけません。

そこで考えたのが、「ロゴで応援! People-Sponsored Logo」という、個人レベルで協賛できるプロジェクト。企業としては動けなくても、個人として応援したいと思っている人はたくさんいますからね。

  • ロゴで応援! People-Sponsored Logo

――なるほど。これは今までありそうでなかった仕組みではないでしょうか?

小さな発見ですが、スポンサードの常識を根底から覆したと思っています。スポンサーロゴ制作特設サイトを通して、応援したいと思うパラアスリートにお金を払うことで、自分のニックネーム入りロゴをユニフォームやジャージに掲載できる仕組みで、ロゴの形やフォントなどは好きなものを選ぶことができます。このプロジェクトはカンヌライオンズのメディア部門でショートリストを受賞しました。

■「ソーシャルプロジェクト」の舞台裏

――「ソーシャルプロジェクト」は、どのような流れで進行しているんですか?

まず、毎年1~2月くらいにオリエンテーションをするんですよ。「今年のトレンドは何だろうか」「そういえばこういう話題があったよね」といった感じで、その年ごとのビッグイシューを洗い出します。その中から、ヒューマニティやテクノロジーなど、電通デジタルの得意分野を活かして解決できそうなイシューをトピックスとしてチョイスしていくという流れになります。

ひと通りアイデアが集まったあとは、そのアイデアがちゃんとソーシャルイシューにヒットしているか、本当に解決できるか、電通デジタルのクリエイティビティが活かせるか、ちゃんと予算内で実施できるか……など、実現性を見極めたうえでプロジェクト発足の可否を判断していきます。もちろん、予算の使い道や組先となる企業・団体の目星もつけて、初めてGoサインを出すことになります。

――プロジェクトはどのように募っているのでしょう?

自主応募制で、社内で広く募集しています。ひとりでいくつものプロジェクトを掛け持ちする人もいますし、本業が忙しくて参加できない社員もいますが、公募には誰でも応募できます。4〜5人のチームを組んで参加する社員も多いですね。

――「ソーシャルプロジェクト」に取り組む中で実感できたメリットについて教えてください。

やはりいろんな人から賛辞をいただいたり、ありがとうと言ってもらえたり、喜んでいただけたりすると、シンプルに嬉しいですよね。社会にもいい影響が与えられますし、「ソーシャルプロジェクト」によって社会が変わっていく様子を見られるのも醍醐味です。

「ソーシャルプロジェクト」を実施する過程が社員の成長とイコールで繋がるのもメリットですね。アイデアはいいけど実現性が低かったり、実現に至らなかったりもしますが、そういった失敗も含めていい学びの場となっています。

――ソーシャルプロジェクトの今後の展望などがあれば教えてください。

今年もすでに「ソーシャルプロジェクト」の応募が50〜60件くらい来ていますし、すでに動き出そうとしているプロジェクトにもいいものがたくさんあります。引き続き世の中をいい方向に変えていきたいと思っているので、ぜひ応援していただけると嬉しいですね!


持ち前のクリエイティビティで社会に貢献しながら、社員の成長も同時に叶える「ソーシャルプロジェクト」。間もなく始まるという新プロジェクトにも、必然的に期待が高まる。