フィットネス業界に一大旋風を巻き起こした「chocoZAP(チョコザップ)」が、2024年3月期の決算において黒字化を達成した。RIZAPグループ代表取締役社長の瀬戸健氏は「chocoZAP」の先にどんな社会を見据えているのか。直撃インタビューで明らかにしたい。

  • RIZAPグループの代表取締役社長をつとめる瀬戸健氏に直撃インタビュー

chocoZAPがついに黒字化達成

「結果にコミットする」というキャッチコピーでフィットネス業界を変えたRIZAP (ライザップ)グループが、2022年からスタートさせた運動初心者向けジム「chocoZAP (チョコザップ)」。月額2,980円(税込:3,278円[※])で24時間365日、全店舗使い放題という気軽さから瞬く間に会員数が伸び、2月14日の時点で112万人(退会者含まず)を超えた。

(※初期費用として別途、入会金3,000円+事務手数料2,000円)

現在、全国44都道府県でサービスを提供しており、店舗数は1,333店(2月14日時点)。まさに快進撃と呼ぶにふさわしい。続々と店舗が増加する中で、そのサービス内容はさらに拡充を続けており、トレーニングのみならず、エステやドリンクバー、ワークスペースにまで拡大している。

  • chocoZAPはブランド開始から約1年半で1,000店舗以上の出店を実現している

chocoZAP事業はその後、11月度以降より単月黒字化を実現し、現在も継続中だ。早期黒字化を達成したことを受け、2024年3月期第3四半期の決算説明では業績予想が上方修正されている。

  • 2023年11月に会員数100万人を達成すると同時に単月黒字を実現。現在も継続中だ

一方、計画的な出店抑制によって出店攻勢に一時的な「踊り場」を作り、下期は品質向上に集中、来期以降に出店を再加速させるという報告もある。

chocoZAPが急成長した背景にはどんな戦略があったのか。ここまで拡大を驀進してきたchocoZAPが踊り場を設ける意味とは。RIZAPグループ代表取締役社長の瀬戸健氏に直接お話を伺うことができたので、その狙いについてお聞きしたい。

  • RIZAPグループ 代表取締役社長 瀬戸 健 氏

chocoZAPが早期黒字を達成した要因

――まずはchocoZAP黒字化達成おめでとうございます。黒字を迎えた現在の思いは?

ありがとうございます。chocoZAPは今でこそ伸びていますが、当時は周りから「なぜレッドオーシャンに飛び込むのか」「永遠に黒字化しない」と言われていたんですよ。そういったご意見の中、事業をスタートし「11月以降黒字を続けている」というひとつの結果を見せたことで、「やっとスタートラインに立てたな」という感じがあります。

――早期黒字化を実現できた要因はどんなところにあるとお考えですか?

これまでの「トレーニングジム」という概念が変わり、新しいジムの形としてご利用いただき始めていることが非常に大きいと思いますね。既存のトレーニングジム利用者だけでなく、いままで利用してこなかった方々に利用していただいています。

いわゆる筋トレ上級者の方々は、トレーニングジムに通う明確な目的があり、特別な準備と特別な努力をされていますよね。「運動はこうあるべきもの」というこだわりをお持ちの方が多いんです。

ですが、そこまで高い目標を掲げている人はごく一部で、本当は「無理して運動するのは嫌だ」といのが本音だと思います。でも、不健康なのは困るし、太っていくのも嫌なんですよね。

かといって大金を払ってジムに入会して、遠方まで通って、着替えて、きついトレーニングをして、シャワーを浴びて帰宅する―― という、特別なことはしたくない。そういう人たちが圧倒的に多いんです。モチベーションがないと続かないのが現実です。

――chocoZAPはライト層への訴求に成功したということですね。

chocoZAPは、自宅近辺や帰宅途中に歩いていける範囲にあって、24時間開いています。加えて、気楽な服装でソフトに運動している人たちがいる―― そういった通いやすさや親しみやすさが受け入れられているのだと思います。

初めてトレーニングジム通う方にとって、本格的なジムは、マシンの使い方やルール、しきたりなどがあり、こういったところにハードルを感じる、肩身の狭い思いをしてしまう、ということがあると思います。

そういった初心者お断りの空気が少なからず醸し出されてしまうトレーニングジムではなく、chocoZAPは、だれもが気軽に通えるジムにしたいと思いました。だから、こだわりのある人たちが使うような本格的なベンチプレスではなく、初心者の方が気兼ねなく利用できるマシンを中心にセルフエステや脱毛、ネイルなど様々なサービスを提供しています。

  • 初心者でもハードルが低く安心感があることがchocoZAP人気の理由と瀬戸氏は分析する

――ライト層向けのトレーニングでも運動の効果はあるものなのでしょうか?

トレーニングというと効果的な運動が語られがちですが、普段あまり出歩かない人であれば散歩だけでも効果があるんですよね。ですから、普段ジムでトレーニングをしていない人にとってはchocoZAPであっても十分効果が見込めます。もちろん上級者が目指すようなゴールまではたどり着けないでしょうけれども、多くの人はそこまで求めていませんよね。

日本人は真面目な方が多いので、効果的な行動を求めてしまったり、完璧な結果をゴールにしがちです。でもその結果、ジムはスタートする人たちの入口をすごく狭めてしまっていたと思います。

RIZAPは徹底的なマンツーマンサポートで「結果にコミット」していますが、やればやるほど、そういう高い目標を持っている方は少ないとわかったんです。もちろん、そういうサービスは必ず必要ですが、社会的により多くの人に価値を提供しよう、ライフスタイルに影響を与えようと考えたとき、chocoZAPのようなサービスに行き着きました。

企業とお客さまが協力して作っていくジム

――chocoZAPは、住宅地の中や病院のそばなど、意外な場所で見かけることが多いと感じます。どのような基準で出店場所を選定されているのでしょうか。

生活圏内を最優先しています。駅チカではないですね。実はchocoZAPは、地方と大都市の店舗比率がおよそ半々なんですね。chocoZAPの店舗の利用者は、半径1キロ以内が60%を占めていて、半径2キロ以内で85%に達します。ライト層は生活圏から近くないと通ってくれないと考えています。

もちろん、運動を特別に考えている人は遠くても通ってくれます。RIZAPの1号店は東京の都心に作ったのですが、鳥取や福岡からも来ていただいていました。ですが、多くの方はこのようにモチベーションが高いわけではありません。おいしいご飯を食べるためなら電車に乗る人であっても、わざわざ駅を超えてコンビニに行く人はほとんどいないじゃないですか。定期的に行く場所は、生活圏内じゃないと使わないんです。

  • 実は地方店舗がほぼ半数を占めるchocoZAP

――2023年には、店舗におけるマシンの故障が話題になったことがありました。こういった問題が発生する理由について、お考えをお聞かせください。

こちらは、chocoZAPが無人店舗であるという点が関係しています。有人店舗は故障が起きたらスタッフが対応できますが、無人店舗ではこうは行きません。

例えば、故障を告知いただくためのPOPをお客さまに貼っていただくということもやってもらっていますが、故障の報告を受け店舗に行ってみると、「コンセントが抜けているだけ」「おもりにピンが挿さってないだけ」など、利用者で解決できるトラブルということが度々あります。こういったトラブルであっても故障のPOPが貼ってあると、他のお客さまは、そのマシンは使えないと認識されてしまいます。

無人店舗であることに加え、chocoZAPの特徴である「初心者が多い」ということも、こういった状況が起こりやすい要因です。私服でそのままトレーニングをする人が多いためマシンにホコリが溜まりやすいですし、マシンの状態にあまり詳しくない方も多いからです。

  • 「少子高齢化によって他の起業も同じ状況を経験する」と瀬戸氏は語る

――では、現段階でどのような対策を行っているのでしょうか。

下期は出店ペースを抑制し、マシンの故障や品質の向上に対していろいろな取り組みを始めているところです。出店に一時的な「踊り場」を設けているのは、そういった理由もあってのことです。

現在、無人店舗かつ初心者だから起こり得ることを一つひとつ潰していけるようセルフチェックシートを用意しており、これを4月からデジタル化する予定です。無人店舗では、だれが一番マシンの状況を分かっているかというとお客さまです。スタッフよりもタイムリーに状況を把握できます。スタッフの代わりにお客様に正しく状況を認識してもらえれば、我々も正しく処置できます。

このほかにも、マシンを壊れにくくするためのワイヤーの強化や備品補充体制を始めとして、我々がやるべきことはたくさんあります。上期には海外からの部品調達が滞ってしまった時期があり、故障率5%近くまで上がってしまったこともあったのですが、現在は0.5%程度で推移しています。また、故障の通知を受けてから48時間以内に対応できたマシンの割合は、昨年11月の35%から、現在は89%まで改善しました。

  • chocoZAPによる店舗改善の取り組みの一例

――お客さまとともに店舗を運営していくことがchocoZAPのイメージなのですね。

我々は、ジムを快適に使っていただくための相互理解は必要だと考えています。みなさんの協力があってこそ、2,980円でジムができるわけです。トラブル対策のための値上げについて聞かれることもあるのですが、お客様にもご協力いただきながら、みなさまが快適にご利用できる環境を整え、お値段は維持していきたいと思っています。

特別を日常に変えることでサービスを民主化したい

――昨今はトレーニングを中心としたサービスのみならず、セルフエステやセルフネイル、マッサージチェア、ドリンクバー、ワークスペースなど、さまざまな新サービスを提供されていますね。

はい。簡単・便利なジムは作り上げられてきているのかなと思うのですが、そこに「楽しい」「行ってみたくなる」という要素を加えていきたいんです。みんなが元気に、活動的になることに貢献したいと思っています。健康や美容、ストレス解消だったり、やってみたくなるサービスを増やして、まずchocoZAPを”行ってみたい場所”にしたいと考えています。

chocoZAPなら、運動だけでなく、様々なサービスを追加料金なしで何回でも無料で使える。「無料ならちょっとやってみようかな」をきっかけに趣味が生まれたり、生活が変わったりするかもしれません。そういう風に特別を日常に変えることができればと考えています。

――先日、官民連携コンビニジムに関する発表が行われました。取り組みの狙いと目指す社会貢献についてお聞かせください。

地方に行くにしたがって、自分磨きや自己投資などに活力をもって取り組める場所が減っていきます。なぜかというと、住民が少ないので、インフラを維持するコスト負担になってしまうからです。

地方では人ありきのサービスは採算に合わないのです。人口の少ない地方などで、バス等の自動運転の話が活発に行われるのは、人手不足のせいだけではありません。利用する顧客が少ないからなんですね。そういった地域でインフラを維持するためには、人件費を始めとしたランニングコストを抑えなければならないわけです。

しかし、chocoZAPであれば基本的に無人で運営できますから、継続的なコストはそれほどかかりません。地方にはあまり使われていない空き店舗や公民館、道の駅などの余剰スペースがたくさんあり、こういった場所を有効活用できます。無人なら地方でもサービスを成り立たせることができるわけです。

いままで大都市でなくては成り立たなかったサービスが地方でも成り立つようになると、あらゆる人が利用する機会の提供になりますよね。そういった形で「一億総健康社会」に向けて貢献していきたいと考えました。

  • 官民連携コンビニジム設置に向け、現在34自治体との連携が進んでいる

今後予定している新サービスはこれまでの常識を覆す内容

――chocoZAPはさまざまな新サービスを展開していますが、今後どのようなサービスを始められる予定ですか? お話しできる範囲で教えてください。

近々、新サービスの発表を予定しておりますが、これはみなさまがあっと驚かれる内容になっているとお伝えしておきます。これまでの常識を覆すサービスで、多くの方に喜んでいただけると確信しております。あらゆる方にとって、自分に合ったchocoZAPの使い方をしていただける機会になると思うので、ぜひ期待していてください。

  • 瀬戸氏が自信をもって「あっと驚く」と言及する新サービスが楽しみだ

――最後に、創業20周年を迎えたRIZAPグループのこれからの展望をお聞かせください。

我々の経営理念は「『人は変われる。』を証明する」です。RIZAPでは初めから本気のコミットでしたが、変わるきっかけは、必ずしも高い目標である必要はなく、一歩でも踏み出すことが重要だと思っています。

「色々なものをやりすぎ」と言われたりもしますが(笑)、これからもお客様にさまざまなきっかけを提案して、新しいライフスタイルと前向きな生き方をご提供し続けていきたいですね。

――長時間にわたるお話、ありがとうございました。

数々のサービスで世間をあっと言わせてきたchocoZAPだけに、近々発表予定の新サービスは楽しみだ。chocoZAPという空間は、将来的にどんな場所になっていくのだろうか。これからの動きに注目したい。