――3月2日から9週にわたり、放送60周年3000回記念企画が展開されます。
いつもは100回区切りで2月に1日やる記念コンサートの模様を3月に放送してるんだけど、今回はコンサートを3月に2日間やることになったんで、それを3月の4週目から流すことにしたんだ。ただ、その前の3週も特別企画にするから、皆さんに「こんなことやるんだ!」って思ってもらうために、「頼む!」ってお願いして1週目はユーミンに決まった。
――2週目は、4年ぶりの松田聖子さんです。
エリック・クラプトンの来日ライブ(23年4月)に行ったら、帰りの関係者駐車場で隣に聖子の車が停まってたんだよ。そこで、「あー、石田さん!」って紹介されたのが、ライブでベースを弾いてたネイザン・イーストだった。聖子が出すアルバム(『SEIKO JAZZ 3』)をプロデュースしてて、そのリリースがちょうど2月になったんだよ。聖子は「私でいいんですか?」って言ってたんだけど、「ネイザン・イーストはこっちで呼ぶから」って口説いて、久しぶりに出ることになった。ネイザンにはクラプトンと日本に来るといつも泊まる六本木のハイアットを取って、2月20日に収録して、3日で帰っていったな。
――まさにこの収録のために来日されたんですね。そして3週目は矢沢永吉さんです。
矢沢は『リブ・ヤング!』からだから、こっちが困ってたら出てくれる。去年の12月14日に日本武道館150回公演を見に行って、終わって楽屋行ったらもう帰っていなかったんだけど(笑)、多少のことは聞いてくれるいい人なんだよ。「俺、最後だから」って言ったら出てくれることになった。
人の琴線に触れて、感性とマッチするものが音楽
――60周年というのはまだまだ番組の通過点だと思いますが、今後への期待はいかがでしょうか。
レコードは昔に比べて売れなくなったけど、やっぱり新譜が出たら音楽番組は減ったけど情報番組でもテレビに出て、新曲をフォローするという文化がある。もちろんそれは大事なんだけど、テレビはそこに振り回されるより、「こんな人とこんな人がこんな素晴らしいショーをやってくれた!」っていうほうが、俺は大事だと思う。そして、時代が変わって音楽もどんどん変わっていろんなものが出てくるけど、やっぱりメロディラインやリズムがちゃんとしてて、ハーモニーがあって、歌詞もいい曲が残っていってほしい。面白おかしく脅かしみたいな曲もあるけど、やっぱり人の琴線に触れて、感性とうまくマッチするものが音楽だと思って俺は生きてきたから。
――その「残していく」というのは、『ミュージックフェア』のような音楽番組が果たしていく役割の一つですよね。
各局そうだったんだけど、番組が始まった60年、70年代の映像は、2インチ(テープ)がもったいないからって、収録したのがどんどん消されて上書きされて、残ってないんだよ。
――ユーミンさんの初出演の映像もないそうですね。
今回流すジュリーと歌ったのも残ってなかったんだけど、映像を持ってたアーティストから拝借してきたんだから。
――記念コンサートには、常連のアーティストからコンサート初出演の方もいらっしゃいます。
番組の出演回数ナンバーワンは森山良子で、男性は谷村新司だったんだけど、その次がさだまさしなんだよ。KinKi Kidsはコンサート初めてなんだけど、大阪だからゆかりがあって出てくれることになった。OA上の一番最後には、みんなで谷村の「昴」を歌うんだ。谷村の声も使って画も出して、「谷村、ありがとう」ってやったら笑うかなと思ってね。
――素敵なエンディングです。
俺ももうすぐ去っていくからね。
――何をおっしゃいますか。ぜひ70周年も目指して。
70周年はあるかも知れないけど俺は無理だよ、無理。
――今でも毎回収録に全部立ち会ってるんですよね。
でも、文句言わなくなったな。昔だったら「何だこの明かり!」ってすぐ言ってたけど(笑)。今はただのジジイだから。
――「ただのジジイ」が、ユーミン、松田聖子、矢沢永吉というビッグネームをブッキングできませんって(笑)
そんなの長くやってりゃできるんだよ。ただこの前、うちの港(浩一)社長とビリー・ジョエル見に行ったら、すっごいんだよ! 70歳過ぎてあんなパワフルなステージができるなんて、感心しちゃったもん。
――港さんのお名前が出たので、長年一緒に仕事をしてきた港社長になってのフジテレビはいかがですか?
すごくフットワークいい社長だから、どのセクションにも顔出すんだよ。そうやって、社員を大事にしようという気持ちが満ちあふれてるから、いいんじゃないの? かつての仕事仲間が社長だから、正月の全体会議で彼が挨拶するのを会社に来て見るんだけど、誰かが書いた原稿じゃなくて、自分の言葉で全部しゃべるんだよ。だから気持ちが伝わる。さすが、港浩一だよ。
――愛弟子が社長というのは、やはり誇らしい気持ちですか?
弟子じゃないよ、俺があいつに教わったようなもんだから。「あいつ」じゃないな、「あの人」だ。まあ、彼のもとでまたフジテレビが元気になってほしいよね。
●石田弘
1943年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部在学中からアルバイトをしていたフジテレビジョンに67年入社。ドラマ『三匹の侍』のADからスタートし、『こんにちはふるさとさん』などのディレクターをした後、事業局でビデオ制作を担当。制作に戻り、『リブ・ヤング!』『オールナイトフジ』『夕やけニャンニャン』『とんねるずのみなさんのおかげです』『とんねるずのみなさんのおかげでした』などを手がけ、現在は『ミュージックフェア』『FNS歌謡祭』のエグゼクティブプロデューサーを務める。