首都圏では、小学校受験、中学校受験をさせる家庭が多くなっており、地方の教育環境とは大分異なっています。私立は学費が高いから、できれば公立に進んでほしいと親が願っても、子どもの能力や周りの環境などで、なかなか思い通りにはいかないのが現実です。そもそも、『公立は教育費があまりかからない』は本当でしょうか。

  • 「公立は教育費があまりかからない」は本当?

    「公立は教育費があまりかからない」は本当?

そこで、幼稚園から大学まですべて国公立だった場合の教育費の総額を計算してみました。ライフプランを立てる際の参考にしてみてください。

学費・補助学習費・習い事をあわせた「教育費」

最初に、本記事での「教育費」の内訳をお伝えします。

授業料や入学金、制服、通学費などの学校生活に必要な費用、いわゆる学費にあたる「学校教育費」に、塾などの「学校外活動費」をあわせて教育費とします。「学校外活動費」には、塾代のほか、教材費、家庭学習のための費用などの「補助学習費」と、塾以外の習い事の費用などの「その他の学校外活動費」を含みます。

その他に幼稚園から中学校までは「学校給食費」も加えます。

大学の費用は、自宅から通う場合と下宿などをする場合で大きく変わってくるので、入学金と授業料の学費のみを教育費とします。

幼稚園の教育費

文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-調査結果の概要」から、幼稚園3年間の公立(国公立)と私立別の教育費総額をみてみましょう。

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    幼稚園3年間の公立(国公立)と私立別の教育費総額 出所: 文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-結果の概要」をもとに筆者作成

公立は、幼稚園3年間で学校教育費が18万2,124円、学校給食費が4万510円、学校外活動費が25万112円となり、総額は47万2,746円です。一方私立は、学校教育費が40万8,113円、学校給食費が8万9,783円、学校外活動費が42万6,740円となり、総額は92万4,636円です。

公立は私立の半分程度なので、公立に進めば教育費が安くなると思いがちですが、公立の幼稚園は少ないのです。文部科学省「学校基本調査-令和5年度(速報)」によると、幼稚園と幼保連携型認定こども園をあわせた学校数は全部で1万5,819校あり、そのうち国公立は3,740校、対して私立は1万2,079校あります。約76%が私立です。公立の幼稚園は近くにないケースも多いので、すべて国公立コースの教育費を知りたい場合も、幼稚園だけは私立で見積もっておいた方がいいでしょう。

小学校の教育費

小学校6年間の公立(国公立)と私立別の教育費総額をみてみましょう。

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    小学校6年間の公立(国公立)と私立別の教育費総額 出所: 文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-結果の概要」をもとに筆者作成

公立は、小学校6年間で学校教育費が39万7,053円、学校給食費が23万4,040円、学校外活動費が148万929円となり、総額は211万2,022円です。一方私立は、学校教育費が575万8,026円、学校給食費が27万747円、学校外活動費が397万887円となり、総額は999万9,660円です。

参考までですが、私立小学校に進んだ場合、小学校の教育費だけで1,000万円近くかかっています。前出の学校基本調査によれば、私立小学校の数は全体の1.3%程度であり、そのほとんどが大都市に集中しています。私立小学校は富裕層のお子さんが通うものという認識は今後も変わらないでしょう。

中学校の教育費

中学校3年間の公立(国公立)と私立別の教育費総額をみてみましょう。

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    中学校6年間の公立(国公立)と私立別の教育費総額 出所: 文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-結果の概要」をもとに筆者作成

公立は、中学校3年間で学校教育費が39万7,642円、学校給食費が11万3,027円、学校外活動費が110万5,648円となり、総額は161万6317円です。一方私立は、学校教育費が317万8,224円、学校給食費が2万1,625円、学校外活動費が110万3,956円となり、総額は430万3,805円です。

「過熱する中学受験」などとニュースで報じられることが多くなっていますが、東京などの首都圏での話であり、地方では公立が一般的です。

高校の教育費

全日制の高等学校3年間の公立(国公立)と私立別の教育費総額をみてみましょう。

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    全日制の高等学校3年間の公立(国公立)と私立別の教育費総額 出所: 文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-結果の概要」をもとに筆者作成

公立は、高校3年間で学校教育費が93万4,242円、学校外活動費が60万8,874円となり、総額は154万3,116円です。一方私立は、学校教育費が224万1,545円、学校外活動費が91万4,856円となり、総額は315万6,401円です。公立は私立の約半分となっています。

大学の教育費

最後に、国公立大学と私立大学別の大学4年間の教育費(学費)をみてみましょう。

<国公立大学>

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    国公立大学の大学4年間の教育費(学費) 出所: 文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-結果の概要」をもとに筆者作成

<私立大学>

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    私立大学の大学4年間の教育費(学費) 出所: 文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-結果の概要」をもとに筆者作成

4年間の合計は授業料と施設設備費4年分に入学料を足した金額です。公立大学と私立大学の学費は平均額を提示しています。公立大学入学料は地域外からの入学者の平均です。

国立と公立はほとんど差がなく、4年間で243~254万円となっています。一方私立大学の場合は、学部よって差はありますが、文科系学部の平均額は407万9,055円、理科系学部の平均額は551万1,961円となっています。

大学まですべて国公立だったら教育費総額817万円

それでは、ここまでの教育費を合計して、幼稚園から大学まですべて国公立だった場合の教育費総額を出してみましょう。

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    幼稚園から大学まですべて国公立だった場合の教育費総額※大学は国立大学の学費 出所: 文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-結果の概要」をもとに筆者作成

幼稚園から大学まですべて国公立だった場合の教育費の総額は約817万円となりました。幼稚園だけ私立でその他は国公立だった場合は約862万円となりました。

参考として各項目には私立の教育費も提示しているので、「中学から私立」、「大学だけ私立」など、お子さんの進学コースにあわせて教育費の総額を計算してみてください。

この他に考えられる教育費は、大学の検定料や通学費、教材費などです。大学4年間を想定すると、国公立コースでも総額は1,000万円近くになるかもしれません。家から大学に通えない場合は、下宿、アパートなどの住居費や生活費も見積もる必要があるでしょう。

以上のことから、学費が安いとされる国公立の学校に通った場合でも、教育費に800万円~1,000万円程度かかると推定できます。「公立に進めば大丈夫」とはもはやいえない金額になっているのではないでしょうか。