子どもが保育園から小学校に上がると、多くの共働き世帯では「小1の壁」に直面します。小学校に入学すると保育園に預けていた時と比べて、仕事と子育ての両立が難しくなってしまう問題です。「小1の壁」には、環境の変化に戸惑う子ども側の問題、仕事に影響する親側の問題のほか、対処するための出費など、家計への影響もあります。ここでは、FPの立場から、「小1の壁」によって新たに発生する出費や働き方の問題など、「小1の壁」が家計に及ぼす影響を解説します。

  • 「小1の壁」で家計はどう変わる?

    「小1の壁」で家計はどう変わる?

「小1の壁」とは

小学校に上がると、子どもを預かってもらえる時間が保育園時代より短くなるため、多くの共働き世帯で、仕事と子育ての両立が困難になります。これが「小1の壁」です。

小学校は登校時間が決められているため、親の都合で早めに預けられた保育園と違い、親が家を出る時間よりも子どもの登校が遅い場合は、出社時間を調整する必要が出てきます。下校に関しては、学童保育に預けられたとしても、18時前後で閉所してしまうため、迎えが間に合わないなどの問題が出てきます。

他にも、環境が変わって子どもが学校に馴染むまでは手が掛かったり、宿題に親のフォローが必要になったりと、おおよそ全部を任せられた保育園時代と比べて親の負担が増します。

こうした問題を解決するために、フレックスタイムや時短勤務がありますが、時短勤務は小学校に上がるまでとする企業も多く、現状の問題とリンクしていません。

会社側がこうした問題に対処して、出社、退勤時間を調整してくれれば解決しますが、そうでなければ、雇用形態を変える、退職するなどの道を選択せざるを得なくなります。

最初にお伝えしておきますが、「小1の壁」を理由に、パート勤務や退職などの選択は極力避けましょう。そうした選択が、生涯賃金を大きく下げることになります。「小1の壁」は期間限定です。子どもは数年で成長し、大抵のことはできるようになります。そのため、次にお伝えする方法でまずは問題解決を図りましょう。

「小1の壁」を乗り越える方法

その1 フレックスタイム制、時短勤務を利用する

まずは、勤務先がフレックスタイム、時短勤務の制度を設けている場合は、制度の利用を申請してみましょう。このような制度がない場合でも、会社が柔軟に対応してくれるケースもあります。両方が無理でも、夫がフレックスタイム制を利用して朝の面倒をみる、妻が時短勤務で子どものお迎えを担当するなど、夫婦で協力することで対処できる可能性があります。

また、在宅勤務を認めている会社であれば、そちらの道を探ってみてもいいでしょう。小学校3年までの3年間だけ在宅勤務に切り替えるなど、期間を決めることで認めてもらいやすくなるかもしれません。

その2 ベビーシッターサービスを利用する

フレックスタイムや時短勤務は人手が少ない中小企業では難しく、そもそもそういったことができない職種もあるでしょう。この場合、ベビーシッターサービスなどの利用を検討してみましょう。「そんなお金はない」と思うかもしれませんが、ここでの出費をためらわずに、「小1の壁」を乗り切れば、キャリアが継続することで、この期間の出費以上の恩恵が得られることは間違いありません。

ベビーシッターは、乳幼児だけでなく、多くのサービスで小学生まで対象となっています。そのため送迎などを目的に利用することもできます。また、国による「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」によって、労働者がベビーシッターサービスを利用した際に、費用の補助(内閣府ベビーシッター割引券)を受けることができます。

ベビーシッターは、ベビーシッター派遣会社やシッターマッチングサイトなどで依頼することができます。また、家事代行サービスの一部では、ベビーシッターサービスもあります。ここで重要なのは、信頼できるシッターさんを選ぶことです。この点の見極めは「全国保育サービス協会」に加入しているシッターサービスを利用するといいでしょう。「全国保育サービス協会」に加入するには厳格な審査を通る必要があるので、保育の質が担保されます。また、協会に加入しているところは、前出の「内閣府ベビーシッター割引券」を利用できる場合が多いので、この点でも有利です。

*内閣府ベビーシッター割引券とは

小学校3年生までの児童が対象で1人あたり1回2200円の割引が受けられます。1日1人につき2枚、1ヵ月24枚まで(1ヵ月最大5万2800円の割引)利用できます。兄弟がいる場合は人数分利用でき、たとえば2人兄弟なら、1日最大4枚の利用で8800円の割引が受けられます。ただし、1家庭につき1ヵ月24枚が上限であることは変わりません。

利用にあたっては、割引券導入済み企業の従業員である必要があります。導入済の企業でない場合も、従業員からの働きかけで導入してもらえることもあるので、総務部などに掛け合ってみるといいでしょう。

*ファミリー・サポート・センター

他にも安価に利用できるサービスとして、地域の相互援助で成り立っている「ファミリー・サポート・センター」があります。援助を行いたい人と援助を受けたい人を結びつけて運営する組織です。料金は謝礼という形で、依頼会員から援助会員に支払います。金額は各自治体、時間帯、内容によって異なります。

<料金一例>(1時間あたりの基準額)
月曜から金曜: 700円~900円
土曜・日曜・祝日: 900円
※八王子ファミリー・サポート・センターの場合

ファミリー・サポート・センターは料金がリーズナブルであることがメリットですが、援助会員が近くにおらず、なかなかマッチングしないケースがあったり、預かりは基本援助会員の自宅になるので、そこでのお迎えは必要になったりするなど、留意すべき点もあります。

その3 民間の学童保育・習い事をさせる

公立の学童保育は、預かってもらえる時間が18時~19時が限度であるため、迎えが間に合わないケースがあります。民間の学童保育は、遅くまで預かってくれるところが多く、夕食の提供をしてくれるところもあります。また、長い時間預かるため、習い事のようなカリキュラムが組まれている民間学童も多くあります。そのような学童は料金が高めですが、習い事も兼ねていると思うとそれ相応の金額と感じるかもしれません。

習い事の中には、送迎サービスが付いている習い事もあります。学校に迎えにきてくれて、習い事が終わると自宅へと送り届けてくれるサービスは、共働き世帯には有難いサービスです。ただし、費用がかかるので、週1、2回通わせて、他のサービスと併用していくのがいいでしょう。

「小1の壁」が家計に及ぼす影響

「小1の壁」を乗り越えるための方法は、どれも家計に影響を及ぼします。時短勤務になった場合は、当然収入が減ります。ここでは、公立の学童保育を利用するケース、民間の学童保育を利用するケース、ベビーシッターを利用するケースで1ヵ月の費用を比較してみましょう。

  • 公立の学童保育、民間の学童保育、ベビシッターサービス、ファミリー・サポート・センターの月額を比較 参考: 厚生労働省「令和4年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」

公立の学童保育は、自治体や施設によって差がありますが、利用料の徴収を行っている学童保育(放課後児童クラブ)25,810 施設のうちの48.4%が月額4,000円~8,000円未満となっています。その他におやつ代等の実費徴収がありますが、実費徴収なしが36.1%と最も多くなっています。

民間の学童保育は多種多様です。公立の学童保育が安全な居場所の提供が主目的であるのに対し、民間の学童保育は子どもを預かるだけでなく、教育サービスの提供も行っている施設が多いため、学びの場として利用することができます。このように利用目的が異なれば、単純な料金比較はできません。

民間の学童保育は学習プログラムやオプションサービスが充実しており、サービスを増やせば料金も上がっていくシステムです。親としては、子どもにいろいろやらせたいと思いますが、子どもの気持ちを優先して、必要なサービスを選びましょう。

ベビーシッターサービスは、「内閣府ベビーシッター割引券」を利用できるか否かで、費用に大きな差がでます。利用できる場合は、ファミリー・サポート・センターの料金とあまり変わりません。

費用がかかっても長い目でみれば得をする

「小1の壁」を乗り切るために、月に5万円の出費が生じたとしても、それによってキャリアが途絶えなければ、あとから簡単にその費用は回収できるでしょう。

ニッセイ基礎研究所「大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計」によると、大学卒の女性が同一企業で休職することなく働き続けた場合の生涯賃金は2億5,570万円ですが、2人の子を出産し、それぞれ産休・育休を1年取得し、復職後には時短勤務を利用したとしても、生涯賃金は2億円を超えます。一方、第1子出産後に退職し、第2子就学時にフルタイムの非正規雇用者として再就職した場合の生涯賃金は9,973万円、出産を機に退職し、子育てが一旦落ち着いてからパートで再就職した場合は6,489万円となります。辞めずに続けた場合と比べて、生涯賃金が1億円以上下がってしまいます。

日本では、一旦離職をすると、正規雇用での再就職が難しくなり、特に女性の場合は非正規雇用やパートなどで仕事を続けるケースが多くなります。あとから、「あの時……」と後悔しないように、利用できる制度は積極的に活用し、外部のサービスも取り入れながら、「小1の壁」を乗り切ってほしいと思います。子どもの成長は目覚ましく、大人が思っている以上に社会に順応していきます。子どもの自立心を育てる意味でも、"子育てに全振り"は避けて、ある程度の出費も受け入れながら、両立を目指していきましょう。