2024年2月2日に期間限定上映される東映Vシネクスト『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』は、2003年に放送された特撮テレビドラマ『仮面ライダー555(ファイズ)』の20年後を描く作品である。人類の進化形というべき怪物オルフェノクの襲撃と、それに対抗する人々との戦いを描く中で、オルフェノクでありながら人間として生きようとする者、希望に満ちた夢を抱く仲間を守るために凄絶な戦いの道を歩む者、愛する人の心を奪うためどんな卑劣な手段をも駆使する者など、さまざまな事情を抱えた個性豊かなキャラクターがおりなす群像ドラマが子どもから大人まで、幅広い年齢層の興味を惹きつけた。

  • 左から白倉伸一郎(しらくら・しんいちろう)1965年生まれ。1990年に東映入社後、『鳥人戦隊ジェットマン』(1991年)でプロデューサー補に就き、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(1992年)でプロデューサーとなる。以後『超光戦士シャンゼリオン』(1996年)『仮面ライダーアギト』(2001年)『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021年)『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)など、プロデューサーとして多くの作品を手がける。松浦大悟(まつうら・だいご)1996年生まれ。2019年、東映に入社。『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021年)『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)『仮面ライダーガッチャード』(2023年)ではプロデューサー補として幅広い業務をこなし、今回Vシネクスト「仮面ライダー555 20th」でも白倉氏と共にプロデュース業務を担当する。 撮影:大塚素久(SYASYA)

あれから20年、愛すべき乾巧、園田真理、草加雅人はいまどこで何をしているのだろうか。そして彼らを襲う新たな脅威とは……。先日ついに完成の日を迎えた『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』を記念して、チーフプロデューサーを務めた白倉伸一郎氏と、プロデューサー補の松浦大悟氏にインタビューを敢行。20年後の『仮面ライダー555』がいかにして企画され、作り上げられていったのか、気になるその行程をうかがうとともに、作品に込められたメッセージと深淵なるテーマについて、熱く語りあってもらった。

――『仮面ライダー555』放送20周年記念作品の製作は、どのようにして決まったのでしょうか。

白倉:もともと、単独作品の10、20周年作品というのは『忍風戦隊ハリケンジャー』(2002年)の10周年(10YEARS AFTER)が実現し、「こういう企画もありえるんだな」という気運が高まったところから始まっています。スーパー戦隊が地ならしをしてくれたからこそ、こういった作品が成立したのかなと思っています。

松浦:『555』の10周年(2013年)のころだと、周年記念の新作という発想はそこまでありませんでしたね。

白倉:影も形もなかったね(笑)。そして、この10年くらいで急速に進歩発展してきたメディアに、サブスクによる「配信」があります。いつでも好きな時間、好きな場所で映像作品を観ることができる世の中になり、配信を通じて新しいファンが生まれ、裾野が広がったのも背景としてありました。確実に、10年前よりは作りやすい環境になっているでしょうね。

松浦:キャラクターの流れをつかむため、TVシリーズを観返すのであればこんなところがありますよ、と言えるようになりましたよね。その点では各種配信サービスの発達はとてもありがたいです。僕自身、配信で『555』を改めて全話観てから制作に臨みました。

白倉:それはすごい!

松浦:というかそもそも、なぜ今日僕が烏滸がましくも、白倉さんの隣で一緒にインタビューなんて受けているのか……。

白倉:いやいや、何をおっしゃる。

松浦:なんだこいつは、邪魔をして、などとファンの方に怒られそうなのですが……(苦笑) でも一つだけ言えるのは、僕は『555』を子どものころ観ていた「直撃世代」ですので、プロデューサーであると同時に、あのころ『555』が大好きだった子ども世代としても、今日はお話出来たらと思います。

白倉:当時『555』を観ていた子どもが、今や作り手側に回るようになるまでの歳月が過ぎたってことですよね。20年という時の重みを感じます。

松浦:田崎竜太監督(田崎監督の「崎」は立つ崎が正式表記)からうかがったのですが、僕だけでなく、撮影現場や合成会社にも『555』を観ていなかったらこの業界にはいない、というスタッフたちがたくさんいらっしゃったそうです。みなさんこぞって「『555』の新作なら、ぜひやらせてほしい!」という声が多かったとか。

白倉:松浦は当時、何歳だった?

松浦:6、7歳のころでしょうか。僕はもちろん、のめりこんで観ていましたが、『555』に関しては親もハマっていたように思います。

――これまでにも、『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦』(2014年)や『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』(2015年)など、ライダー大集合映画に仮面ライダーファイズ=乾巧が登場し、活躍した例がありました。それだけ『仮面ライダー555』という作品そのものの人気が高かったといえますね。

白倉:しぶといんですよ『555』は。誰とは言いませんが、たとえ死んでもまた生き返るという(笑)。乾巧はいろいろな作品で甦っていますよね。

松浦:直撃世代として、今回の作品にとりかかる前に気になっていたのは『仮面ライダー4号』での乾巧の「結末」についてでした。白倉さんに「4号のことは忘れていいんですか」と聞いたら、「忘れる!」と力強い答えが返ってきて(笑)。それは半分冗談にしても、今回は、テレビシリーズ以来となる大先生(脚本家・井上敏樹氏のニックネーム)直筆の脚本ですから、テレビ最終回から直結した「その後」の物語と考えていただいて大丈夫です。

――放送当時から20年ということで、作中のキャラクターたちも同じ年月を積み重ねてきたことになるわけですが、今回はそういった部分を意識されたりしたのでしょうか。

白倉:20年という時間の経過をどうやってお見せするか、これが今回の作品を作るにあたり、一番考えたところです。2003年にテレビシリーズを観ていた方たちは、キャストと一緒に20年という時間を過ごしてきたから、あれから20年なんだなあというのを感覚的に理解できますが、配信などでごく最近『555』を観た方にはそれがない。両者とも『555』という作品を知っていることが前提だけど、作品に対する感慨が異なっている。そこをどう踏まえるか、ですね。昔からのファン、今のファンの両方が納得してくれる内容にしないといけない、歳月そのものをどういう形で作品の中に提示していくのかを考えていました。

――脚本の井上敏樹さんから、新しい『555』なら、こういうストーリーにしたいという要望はありましたか。

白倉:大先生と私たちプロデューサー側で、アイデアのキャッチボールをしながらストーリーを組み立てていきました。

松浦:例えば、乾巧はこの令和の世でもガラケーを使っているのか?とか(笑)。そういう些細な話も含め、20年の歳月を経るにあたり、いろいろと議論を重ねました。

白倉:『555』に単純な「続き」はないんです。2003年当時の『555』は未来のある〝少年少女の話〟だった。巧と真理が出会って旅をする、彼らにはまだ見ぬ未来が存在していたし、反対に木場勇治(演:泉政行)はオルフェノクになり、人間として生きる未来を絶たれていたり。しかし20年の時を経て、当時10代だった巧や真理も大人になり、もう未来ばかりを語る年齢でもなくなった。だから今はどうするのか。将来を考えることはあっても、それは10代のころの可能性に満ちた未来のことではないんです。

松浦:大人になった今、それぞれのキャラクター、ひいては当時少年少女だった僕ら世代も、「未来」だけでなく「今」をどう生きるかということを考えなくてはならない。

白倉:かつて子どもの物語だったものを、大人にして語り直す作業をしなければなりませんでした。『555』の続きでありながら、大人になった彼らの立ち位置をどう見せるかが、脚本をまとめる上でのハードルでした。

松浦:大先生の脚本はストーリーの随所に「大人」を感じさせてくれましたね。