――井上さんといえば、去年から今年にかけて白倉さんや松浦さんが手がけられた『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)の脚本を全話書かれたことで、特撮ファンに強いインパクトを与えました。従来の「スーパー戦隊」の枠を痛快に打ち破り、ギャグとアクションとサスペンス、さらに少しホロリとさせるドラマで魅了した『ドンブラザーズ』の成分が今回の『パラダイス・リゲインド』に入っていたりするのでしょうか。

白倉:私としては、はっきり分けているつもりでしたけどね。でも田崎監督も『ドンブラザーズ』を手がけていましたし、知らないうちに「暴太郎成分」が入り込むことはあるかもしれない(笑)。

松浦:あくまで制作時期の問題だけでいえば、まさに『ドンブラザーズ』と『パラダイス・リゲインド』は連続していました。僕としても『ドンブラ』が終わって「よし!次は『ガッチャード』をやったるぞ!」となっている隙間に『555』が殴り込んできた感じでしたし(笑)。

白倉:『ドンブラザーズ』最終回の打ち合わせをしているときに、大先生に「このあとは『555』がありますから!」って強く言いました。そうでないと大先生は「ドンブラザーズが終わったら、長い旅に出たい」とか言ってたし(笑)。いやいや、旅行に行くのは構いませんから、『555』を書いてくださいね!と念を押していたんです。

――井上さんの脚本を得て、まさに完全復活を果たした『パラダイス・リゲインド』ですが、白倉さん的には『555』の新作を作るにあたって「勝算」のような思いはありましたか。

白倉:『555』の新作を作ろうとしたのには、昨年の『オーズ』10周年記念作『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』(2022年)の存在が大きい要因としてあります。VシネクストとしてこれまでVSシリーズや周年作品、スピンオフ作品を作ってきましたが、すべてが等しくヒットしていたわけではないですから。『復活のコアメダル』の成立の仕方を見て、このありようは『555』にあてはまるかな、と思ったんです。ある意味『パラダイス・リゲインド』企画成立は、『オーズ』のおかげということができるでしょう。

――しかしVシネクスト『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』(2022年)の「結末」については、ファンの間でやや賛否が分かれたように認識しています。今回の『パラダイス・リゲインド』のストーリーについては、現段階ではまだ詳細を明かすことができないでしょうけれど、そのあたりはいかがでしょうか。

白倉:『オーズ』って、映司(演:渡部秀)とアンク(演:三浦涼介)の明るく楽しい「バディもの」に見えつつ、かなり悲壮というかハードな内容ではあるんです。『オーズ』と『555』の共通点は、主人公(巧と映司)の胸の中がぽっかりと欠落していること。とてつもなく空虚なんです。しかし、巧に比べても、映司のキャラクター性って非常に難しい。彼のことを一面的に見られていた方は、『復活のコアメダル』の内容にショックを受けたかもしれません。ですが、作り手はそういった反応まで読み込んで、いわば確信犯的にあの作品を送り出しているはずなんです。反面、『555』のほうは『オーズ』ほど難しくはなく、いわゆるファン心理と作り手の思いとの「乖離」が少ないと思いますから、『オーズ』とは送り出し方も受け取り方も違ってくると思います。

――乾巧役の半田健人さん、園田真理役の芳賀優里亜さんといった『555』オリジナルキャストが結集されました。みなさんのスケジュール調整などはいかがでしたか。

松浦:それが、ほとんどスケジュールで苦労することがなかったんです。キャストのみなさんのご協力のおかげだといえます。僕たちが撮影したい期間と、キャストのご都合が運命的に合致し、スムーズに進行することができました。

白倉:スケジュールは本当にうまいぐあいにはまっていたよね。村上(幸平/草加雅人役)が舞台に出演中だったから、そこだけ調整したくらいかな。

松浦:忙しいといえば、田崎監督は『ドンブラザーズ』を終えてすぐ今回の『パラダイス・リゲインド』にかかり、その後すぐ『仮面ライダーガッチャード』のパイロット(第1、2話)を撮っていますから、監督が一番大変だったかもしれません。

――テレビシリーズで灰になって死んだはずの草加雅人が普通に生きていて、真理たちと一緒にクリーニング店で働いている姿を見た段階で、当時を知るファンは思考がバグるような気がします。「これは本当にテレビシリーズの直接の続編なのか? それとも実はパラレルな物語なのか?」と。

白倉:そこも完全に「計算」のうちに入っています。そもそもテレビシリーズで真理は草加が灰になるところを見ていませんから。戻ってきた草加を受け入れても不自然ではない。

松浦:そういうところ、大先生は緻密に描きますよね。意外……と言ったら失礼ですが、実はかなり当時を覚えていらっしゃって驚きました。先ほど白倉さんが話していたように、『555』は少年少女の物語だというのを、当時の巧や真理たちの年齢を越えてしまった今、観返すとすごく理解できます。子どものころの『555』のイメージは、とにかくクールでスタイリッシュ。ですがいま改めて全話を観返すと、それこそ『ドンブラ』にも通じる愛嬌や、俗っぽい楽しさが随所に感じられたんです。食卓を囲み、洗濯のバイトにも励む(笑) 青春の楽しさというか。

白倉:『555』には大人も出てくるけれど、メインではなかった。子ども同士で合宿をしているような雰囲気が常にあった気がします。松浦が言ったように、巧、真理、啓太郎、草加が食卓で朝飯を食べている日常のシーンなんて、すごく面白い。草加が混じっていて、ぜんぜん和気あいあいな感じがしない(笑)。

――「食べ物」つながりですと、仲間の木場勇治や長田結花(演:加藤美佳/現:我謝よしか)を失った海堂直也(演:唐橋充)が、ラーメン屋を営みながら「若いオルフェノク」たちの面倒を見ているというのは、いかにも海堂らしい行いだなと思えました。ヒサオ/モスキートオルフェノク(演:柳川るい)、コウタ/ゲッコーオルフェノク(演:土師野隆之介)、ケイ/クイナオルフェノク(演:松澤可苑)といった本作の新キャラクターについて詳しくお聞かせください。

白倉:若いオルフェノクの彼らは、今回のストーリーに必要な存在でしたね。

松浦:「少年少女の物語」という『555』が本来持っていた「魂」の部分は、彼らがいてこそ表現できるんだと思います。実際、愚直に『555』を愛するファンからすれば「誰やねん」という、知らないキャラクターたちではあるんですけど(苦笑)。みんなはシンプルに20年後のたっくん(巧)たちだけの話が観たいのではないか、となるところに「それじゃ『555』にならないよね」とばかりに、ヒサオやコウタ、ケイという、「新たな少年少女」を書いてくる大先生のすごさです。彼らの存在こそが『555』の精神性に必要なんだ、と。

白倉:少年少女が集い、疑似家族を形成するというのが『555』の骨子だからね。

松浦:そういう部分を複層的に見せて、20周年記念作でしかやれない「新しい疑似家族」を作り出せたのはよかったですね。かつて子どもだった巧たちが「親」世代になった物語は『555』20周年でしか見せることができません。まぁ、愚直なファンである僕は、あの3人の登場に最初こそ面くらいましたけれど(笑)、改めて自分の中でかみ砕き、必要な存在だと実感しました。

――世界を旅している啓太郎(演:溝呂木賢)からクリーニング店を任されている甥の菊池条太郎(演:浅川大治)は、現在俳優を引退されている溝呂木さんに代わるキャラクターですが、真理たちから聞いていたものの、実際には会ったことのない乾巧に対してレジェンド的な憧れを見せるという、とてもいい人物像になりました。

松浦:条太郎、ケイ、コウタ、ヒサオ、そして仮面ライダーミューズ/玲菜(演:福田ルミカ)はオーディションで、スマートレディの進藤あまねさんは、こちらからお声がけしたキャスティングでした。どちらも松浦がメインとなって動いたのですが、中でも条太郎はずっと不安でした。啓太郎の甥に見える俳優さんなんて、果たして見つかるのだろうかと。最終的には、白倉さんから年齢を下げてみるのがいいんじゃないかという提案があり、浅川くんに決まりました。他の新キャストとの区別もついて、すごく良かったですね。なんだかいちばん「息子」感がありました(笑)。