改めて今回の取材を経て、安楽死に対する印象はどのように変化したのか。

「最初は、安楽死を希望する人たちの気持ちや、制度への考え方など、分からないことだらけだったのですが、取材を進めていくことで、まず死にたいと望む人たちは“生か死か”という二元論ではなく、いい生き方をしたいから、その手段として死があると考えているのだと知りました。

 だから、日本が安楽死制度を導入していいのかは分かりませんが、その選択肢について話したほうがいいのではないかと、強く思ったんです。そもそも日頃から死について話すことはあまりないので、周りに言えない空気もある。でも僕がそうであったように、気持ちのはけ口になる人がいることで発散できる部分もあるのではないか。今回の放送でも、自殺ほう助を受ける権利を手に入れたことで考え方が変わって、病気と闘い前向きに生きる決意をする矢島さんという方がいます。スイスでライフサークルの会員の方に話を聞いても、皆さん口をそろえて言うのが、“いつでも死ねると思えるだけで安心できる”ということだったんです。

 日本でその選択肢を持てるかどうかという話は別にしても、それについて話す機会があることで、少しでも気持ちが楽になれるのであれば、そういう環境づくりが必要なのではないか。そのためにはやっぱり、日頃から話すことが大事なんだということを取材を通してとても感じましたし、そうあるべきだと思い、今回の番組は、まさに“話す”きっかけになることを願って作っています」

  • 病状について母と話す矢島さん(40代/左) (C)フジテレビ

■残り数十秒の時間でもらった感謝の言葉

今回の取材でもう1つ気づかされたことは、取材対象者が貴重な時間を使って協力してくれることへの感謝だ。

「ある日本人の方を長期間取材させてもらい、安楽死に立ち会ったのですが、点滴のバルブを開けてから僕に、『山本さん、ここまでついてきてくれて、ありがとうございます』と言ってくれたんです。薬が投与されたら残り数十秒で眠りに落ちて、数分後に亡くなってしまうのに、その大事な時間を僕のために使ってくれているということに、ものすごく重いものを感じて…。取材をさせてもらうことは、その人の大切な時間を頂いているんだと、改めて気が引き締まる思いでした」

今後も、このテーマは追っていく考えで、「今回、取材に協力していただいた方々の多くは今も生きていらっしゃって、自分にはその人たちのこれからを取材させていただく責任があると思うので、この放送で終わりということはないです」と強調。

特に、前向きに生きる決意をした矢島さんについては、「本当に頑張って治療に励んでらっしゃって、オランダにいるパートナーも一緒に暮らしたいと言っているので、追いかけていきたいですね」と意欲を示しており、今後、BSフジでは2時間版の放送も予定されている。

●山本将寛
1993年生まれ、埼玉県出身。上智大学卒業後、2017年フジテレビジョンに入社し、『直撃LIVE グッディ!』『バイキング』『めざましテレビ』『Mr.サンデー』を担当。「FNSドキュメンタリー大賞」では『禍のなかのエール~先生たちの緊急事態宣言~』(20年)を制作し、『エモろん ~この論文、エモくない!?~』『オケカゼ~桶屋が儲かったのはその風が吹いたからだ~』といったバラエティ番組も手がける。

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