市民グループ「芸備線魅力創造プロジェクト」は9月23日、庄原市でシンポジウム「芸備線・木次線~魅力を活かす方法を考える」を開催した。庄原市と芸備線対策委員会が後援、みよしSL保存倶楽部が協賛した。

  • シンポジウムの翌日(9月24日)、備後落合駅まで運行された「呑み鉄鈍行ちどり足」号。現在、キハ40系は定期運用で備後落合駅まで乗り入れないため、参加者にとって貴重な体験となった(筆者撮影)

開催費用はクラウドファンディングで調達され、249人が参加し、当初の目標だった200万円を超える311万9,000円が集まった。「上積みされた金額は、備後落合駅の転車台保存に向けた調査やトイレの改修など関連施設整備に向けた費用の一部、『呑み鉄鈍行ちどり足』号に続く団体貸し切り列車の運転や議論する場としての後継企画『芸備線カフェ』の運営費用にあてる」とのこと。「呑み鉄鈍行ちどり足」号はシンポジウムの翌日(9月24日)、三次駅から備後落合駅まで運行された。

9月23日に行われたシンポジウムは午前・午後の2部構成で、午前は筆者を含む登壇者5名がそれぞれ「芸備線・木次線の現状認識と魅力」や「地域づくりとして鉄道の役割」などを紹介した。登壇者の発言趣旨をまとめた。

■六角精児さん「芸備線は日本の原風景、観光列車の促進を」

鉄道ファンで知られる六角精児さん(ミュージシャン、俳優)は、芸備線の魅力について、「山と川と田んぼ、山と山との間に土地があって、家がこうひしめき合うようにあったりして、そこに川が流れている」「民家の屋根の、瓦の屋根の端っこについてる、模様みたいなのを1個1個見るのが結構好き。車窓を眺めながら、地方色がはっきりわかるのも面白い」と話す。派手な風景ではないが、日本らしい素朴な風景がずっと続いているところが芸備線の良さだという。

「速度が遅いというなら、いっそ各駅に長時間停めて、日本一遅い列車を作ってみてはどうか」と六角さん。芸備線だけでなく、自身が応援している只見線についても紹介した。2011(平成23)年に大雨で橋脚が流されたが、実際に乗ろうという人だけではなく、住民の熱意が福島県とJR東日本を動かした。「只見線の沿線は日本の原風景が詰まっている。そして芸備線も、只見線とは異なる色合いを持っている。日本の原風景ランキングに入れたい」と六角さんは話す。

「山陰本線の長門市~幡生も日本海の景色をしっかり見られるから好き」という六角さんは、木次線についても「芸備線に比べても山の中を走っていて、三段式スイッチバックは日本にそうあるものではないし、(その価値を)JR西日本はもっと気づくべきだと思います。奥出雲おろち号がなくなってしまうことが非常に残念で、亀嵩駅の蕎麦、神社のような駅舎、こういう面白さもあるので、観光列車を促進させたほうがいい。皆さんも頑張らないといけない気がする」「観光列車っていうのは、本当に失敗も成功もするだろうから、こういう言い方は語弊があるかもしれないですけど、恐れずにやるということが大切なことだと思います」と熱く語った。

「芸備線のほうにも言えることだと思うんですけども、現状は非常にやっぱり厳しいと思いました。僕は去年、備中神代から備後落合を経て、宍道のほうに抜けたんですけど、芸備線は地元の方は1人しか乗ってらっしゃいませんでした。あとは鉄道マニアの人が18きっぷで乗ってたんです。18きっぷで乗ってるものが乗客の人員の中に含まれてないというのが、僕は不思議だなと思ってるんですけども。本当にたくさん乗ってるんですよ」

「新見から広島まで芸備線に乗ったときに、奥さんと2人で乗ったんですけども、広島に着く頃には満員で、車窓も見られない状態だったんです。嫁さんに、『私をどうしてこんなとこに連れてくるんだ』って言われたことがありまして(笑)。ただ、去年乗ったときは、やっぱり昼間の芸備線は厳しいなと思いました」

「乗客の乗降者数が本当に少ない山間部というものを、観光なりなんなりっていう手段で考えていかなきゃ仕方ないと思うんです。庄原や西城のように、もちろん車で移動してらっしゃる方が多いとは思うんですが、芸備線について、必要か必要ではないかにかかわらず、周りの方に考えていただく機会が必要だと思います」

「これは全国的な問題です。これから先、後期高齢者になっていったときに、免許を返納しなければならない。鉄道がなかったらどうなるのか、日本の毛細血管がなくなったらどうなるのか、 そういうことを考えていかなきゃいけない。バスで代替え運転なんて、たぶん運転手さんがいないという世の中になってきてますから、それは信用できないことになってくる。やっぱり鉄道です。その地方、隣の町の雰囲気を伝えてくるのは鉄道です。僕は希望としてなんですけども、鉄道について考えていただきたいなと思ってます。以上、鉄道ファンからの声でした」

■「鉄道がなくなる理由は赤字ではなく無関心」

続いて筆者も登壇。木次線の観光列車の話を受けて、木次線ワイン列車と、その後の沿線の取組みを紹介した。筆者と木次線との関わりは、2016年3月の「これからのJR木次線を考える会」から。木次線開業100周年を記念したキックオフイベントで、当時すでに「奥出雲おろち号」の老朽化が課題となっていた。また、三江線の2018年の廃止が決まり、次は木次線という危機感もあった。

  • シンポジウムの登壇者、(写真左から)司会の藤井尚子氏(フリーアナウンサー)、六角精児さん、筆者、平尾順平氏、西田学氏、やまもとのりこ氏(「道の駅奥出雲おろちループ」藤原駅長撮影)

「おろち号が明日にも壊れて運休するかもしれない。それなら早く次の観光列車を仕立てて、しばらくは同時に運行して、おろち号が終わっても新しいほうが継続する形にしたい。1がゼロになるとダメージが大きいけれど、2が1になるくらいなら観光列車ロスもやわらげる。そこで、このときの取材から、奥出雲ワイナリーのワインと木次乳業のチーズを組み合わせた『木次線ワイントレイン』を発案しました。でも僕は言うだけで実行力がないので、取材でお世話になった旅行会社さんにお願いしました。雲南市役所や見学先の木次酒造など、地元の方々にたいへんなお世話になりました。しかし告知が行き届かず集客は失敗します。良い列車だと思うでしょう? これ話すたびに『いいね』『乗りたいね』と言われるんですけれども」

「その後、余所者には任せちゃいられないと思ったのか、地元の『奥出雲女子旅つくる!委員会』が木次線に注目してくれて、カフェスタイルの『おくいずも女子旅列車』が成功します。ロングシートのキハ120に畳タイルを敷いて、その上にカーペットを敷いて、座席にも布を被せて、靴を脱いで寝そべったりできる。地元のカフェの協力でスイーツと紅茶が出ます。取材したとき、車内に大きなぬいぐるみがあって、誰が持ってきたかとスタッフさんに聞いたら、当時の木次駅の駅長さんが家から持ってきてくれたって。JR西日本木次鉄道部もしっかり応援してくれていました。良い関係ができていると思います」

「出雲大東駅を管理する住民団体『つむぎ』による各種イベントや、木次線利用促進協議会の取組みも活発です。木次駅に『き+ハートマーク』で『きすき』と読ませる駅名標を置かせてもらって、写真を撮りに来る女性もいます。キーホルダーを販売してますね」

「こうした活動がJR西日本に認められ、米子支社から非公式に『いまのところ木次線廃止は検討していない』という話もあったそうです。僕はその話を聞いて本当に良かったと思いました。ただし、それもコロナ禍の前の話です。コロナ後のいまは状況が変わり、やはり赤字路線は整理したいという流れになっているようです。とくにスイッチバックがある出雲横田~備後落合間は輸送密度が小さくて心配です。一方で、車両にも『き+ハートマーク』のロゴが付いたラッピングをしてもらうなど、協力関係は続いているようです」

「六角さんが挙げた只見線は、アマチュアカメラマンの星賢孝氏が只見線を撮り続けて、SNSで世界に発信し、台湾まで出かけていって写真展をやって、訪日観光客の獲得に結び付きました。国内外から只見線を訪れて、風景を楽しむ人たちは、只見線沿線だけではなく福島県の経済に貢献します。それを福島県がちゃんと評価して、復旧費や上下分離後の長期費用負担に応じました。いまやこれがローカル線存続の処方箋になっています」

「芸備線について言うと、広島県や岡山県は利用促進を頑張っているとアピールしていますけれども、もはや利用促進は僕ら市民の仕事です。県の仕事は『鉄道が必要だ』という市民の声に耳を傾けて、お金を用意することです。福島県はそれをやりました。先例ができてしまいましたから、もう自治体がお金を出さないと民間企業であるJR西日本の鉄道は維持できません」

「もうひとつ、福井県のえちぜん鉄道の例を挙げます。えちぜん鉄道は京福電鉄経営時代に重大事故を起こし、国から運行停止命令が出ました。運行再開は安全設備の整備が条件でした。京福電鉄は営業赤字を理由に安全投資を拒み、廃止となりました。ところが廃止してみると、鉄道の乗客がバスと自家用車に転換したため、道路が渋滞します。車の免許を持つ家族が、こどもの通学や老人の病院送迎によって、働く時間、家事の時間、自分自身の時間を奪われて、家族の負担が増加しました。だから鉄道の復活を望む声も多く、福井県と沿線自治体が第三セクターを設立して復活させた経緯があります」

「木次線、只見線、えちぜん鉄道の例をみると、地域に鉄道があることで鉄道に乗らない人も恩恵があると理解すれば、自治体が頑張ってくれてローカル線は残ります。鉄道は赤字だから廃止されるのではなく、地域の関心がなくなるから廃止されるんです」

■平尾順平氏「災害時も、海外旅行も、バスより鉄道が安心」

特定非営利活動法人「ひろしまジン大学」の代表理事を務める平尾順平氏は、広島から芸備線・木次線経由で出雲市駅まで乗り継いだとき、所要時間に驚いたという。

「7時間2分もかかったんです。この距離でこの時間なんだと思った。僕は都市で暮らしていて、移動がいつの間にか手段になってしまって、移動を楽しむことを忘れている。窓を開けてみたり途中駅で降りたりとか。出雲坂根駅で延命水を取りに行ったら、うっかり列車が出そうになって、運転手さんがもう2分も過ぎちゃったよって。待ってくれる列車って初めて乗りました。このやり取りで、この地域のすごく余裕みたいなものを感じました。街中ではありえない。列車に乗ったからこそ、都市部の人間が忘れかけているなにかがあると思いました」

「現状で言うと、芸備線の平日って人がいない。昨日、備後庄原駅付近を1時間くらい歩いたけれども、すれ違った人が2人だけ。こんなに車社会なんだっていうことを気づいたときに、芸備線と木次線は重なる部分があると思いました」

「地域づくりの面から見て鉄道の役割として、広島は2014年と2018年にかなり大きな土砂災害を経験しました。私の住む地域も被災したんですけども、芸備線も止まったんですが、徐々に復興して交通は復活して、高速道路なんかも通り始めていたんですけども、住民の方々が一番喜ばれたのは、 電車が通ったとき、列車が通ったときだったんです」

「(鉄道の復旧で)ちゃんとつながっているんだって実感できたと仰った方が多くて、道路はあるんですけども、そこに線路がつながり列車が走るようになったとき、精神的な気持ちの部分での安心感や喜びをすごく感じました。災害があったからこそ、気づけた部分もあるんです」

「私は学生時代にユーラシアの旅をしたんです。いろんな国で、バスと列車が一番よく乗ったんですけど、圧倒的に列車なんですね。なぜかって言うと地図にあるからなんです。バス路線ってまったく地図に出ていないので行先が不安です。地図に鉄道が載っている。列車の路線が見えると行こうって思えるんです。行けばなんとかなる、移動ができる」

「小学校4年生の息子がいるんですけども、小学校1年生のときに1人で友達の家に行くっていうくらい電車好きなんですね。芸備線で広島から向原まで行ったんですけども、親としては訪問先に、『何時何分に着くのでよろしくね』って言える。時刻表を見て、いまどこを通ってるんだな、大体この時間に着くなとわかる。この安心感は鉄道ならではです」

■西田学氏「キハ120をトロッコ改造すれば木次線に入れる」

庄原市周辺地区まちづくり協議会会長の西田学氏は、備後庄原駅前の再開発事業について、駅とバス停留所を接近させた一体的な整備を実施したと報告した。備後庄原駅は庄原市が駅業務を委託されており、行政側としては備後庄原駅ではなく、庄原市交通交流施設(備後庄原駅舎)として扱っているとのこと。

「備後庄原駅は区画整理をして18億円かかりましてきれいになりました。昭和61年頃、急行『たいしゃく』が走っていた頃に再開発しようって話があったんですが、計画が大きすぎて進まず、平成18年から再開しました。なんで18億円もかけたんだと市議会の方々も質問されたりしてましたが、汽車は少ないですけど、バスはたくさん入ってくるということで、バスと汽車が一緒になって展開しています。汽車は少ないですが、備北交通さん、広電バスさんが平日200便の発着、 休日は100便も入っています。汽車は10便ぐらいです」

「汽車駅の真ん前からバス乗れるっていうのはなかなかないらしく、駅舎の中に、なんと、備北交通のパスピー(ICカード)のチャージ機があります。じつはこの駅舎が大正12年の芸備鉄道開通のときのまんまです。思いきって新築しようって話もありましたが、そりゃもったいないですよって理解をしてもらって改造させてもらいました」

「このきれいな駅舎に魂を入れるというか、少しソフト事業もみんなで頑張ってやらなきゃと、まちづくり協議会ができました。主管の都市整備課さんの若いスタッフが頑張っています。たとえば保育所の皆さんに飾り付けしてもらったり、乗ってもらったり。広島カープさんにも協力していただきました。大きな枠組みでは、木次線芸備線利用促進会議でローカルライブトレインをやりました。紀勢本線の事例を参考にモニターツアーということで、たくさんいらっしゃいました」

「青春18きっぷ有効期間の広島行は、すごい人です。乗りこぼしが出るんじゃないかとかいう感じで、もう満員ですが、これも利用者数にカウントされていません。そして日常利用ではダイヤもひどくて、乗りたくても乗れない。高速バスで東城は備後庄原から30分、1日5便ぐらい出てます。JRで行くと日帰りできません。同じ町なのに。それから、広島から庄原ライナー(芸備線快速)に乗ってから来られた方が、駅から帝釈峡に行けません。2次交通がまったくないんです。どうかしなきゃいけないんです。帝釈峡とか、県の森とか、東山とかあるんですが、なんせ、そこまで行けない」

「そこで列車そのものを、コンテンツにならないか。たとえば四国のアンパンマントロッコみたいな、岡山から琴平まで瀬戸大橋線を走っている。キハ31とキハ32を改造しています。芸備線も、キハ120の200番台は鋼製車体で窓も開くので、このトロッコ列車みたいに改造して、列車に乗ること自体を観光としたらどうかという提案です。そうすると芸備線も乗れるし、木次線のスイッチバックも走れる。昔、日立ポンパ号って列車があって、全国を巡回するショールーム列車があったんです。このキハ120トロッコで全国を回って、備後庄原や備北を売り込みたい」

■やまもとのりこ氏「公共交通は元気な社会にしていくために大事なもの」

ローカル鉄旅ライターのやまもとのりこ氏は広島県を拠点に活動している。芸備線について、「中国地方でいちばん長いローカル線」というキャッチフレーズを考案した人だ。芸備線(備中神代~広島間)は44駅・159.1km。姫新線(姫路~新見間)は158.1km。僅差で芸備線のほうが長い。著書に『ローカル線で行こう! 鉄旅ガイド』『中国地方 ローカル線の旅ガイドブック』がある。

「鉄道にほとんど興味がない私がなぜこのような本を出すようになったかと言いますと、三江線の沿線に住んでる友達がいて、『とてもいい路線なんだよ。1回乗ってみてよ』って言われまして、2015年の全通40周年のイベントで、三次駅から乗ったんです。普段乗る人は少ないとは聞いてたんですが、イベントがあるせいか、満席なんです。1つだけ、ボックス席が空いてたんです。で、そこへ座りました」

「斜め前に座ったおじさんが、どっから来たって言うんで、広島市から来ましたって言ったら、そのおじさんが、いま話題の安芸高田市の、前の前の市長さんでした。すごく鉄道の大切さをわかってらっしゃって、 広島市内に公務でお出かけになるときも芸備線を使われる。その日も『他のスタッフは車で行ったけど、俺は三江線で行かないと』って。その隣に座ってた人が、広島県内でもあの色々活動してる鉄道研究家の方だったんです」

「広島市から来て初めて三江線に乗るっていうことを知った途端に、その市長さんと助役さんと鉄道研究家がずっと車窓の見どころを案内してくれるんです。その見どころをずっと聞いてるうちに、じつはその時、私、ものすごい疲れて眼精疲労もひどかったんですけど、江の川の眺めや、山々の景色を見てたら、目の疲れも取れて、 なんか元気になったんですよ。式典会場の浜原駅で降りたときには、すっかりリフレッシュして」

「三江線すごくいいなと思って、これ、みんな乗らないのもったいないなって思ってたんです。その後、本を出すきっかけになったのが、じつは芸備線です。芸備線に乗りに行ったら、庄原市西城町の人たちで、芸備線全通80周年のプロモーションビデオを撮影するっていう日だったんです。『今日じつはビデオの撮影なんです。みんな町で外から手を振ってくるんで、手を振り返してくれますか』って」

「田園風景とか、渓流とか、瓦屋根が並ぶ街並み、のどかな風景なんですよね。『あー、いいな』っていう風景の中で、みんなが一生懸命手を振っていました。駅以外も、田んぼの向こうから、小学校のグラウンドの横から、商店街から、それを見て涙が出てきまして、感動して。景色ももちろんいいんだけど、この交流っていうんですか、なんか手を振ってくれる喜び。80周年おめでとう。おめでとう言いながら、たまたまその自分の前に座ってたのが、なんかすごいあのいかめしい顔した男の人も手を振りながら泣いてました。やっぱり手を振ってくれるってすごい喜びですね」

「このローカル線に乗る人を増やしたい。自分はライターだから、本を出せばいいじゃんって思ったんです。鉄道旅にはそういう魅力があると思ってます。なので、この全国にたくさんいる鉄道ファン、そして私みたいな鉄道ファンじゃない人でも、日常生活で忙しくしていて、のんびり景色を見ながら旅をしたい人たちを呼び込めるようなアピールをすれば、ローカル線に乗ることそのものが観光の目的になると思います」

「インバウンドでいうと、備後落合駅もいろんな外国のお客さんが来るらしいんです。外国人観光客の皆さんは、日本に来るときにジャパンレールパスという、JRなら乗り放題のきっぷを買っています。だからできる限りJRで行けるところに行きたい。JRがないところは目的地の候補から外れちゃうんです。JRの通ってる路線があるって、目的地にしてもらえるということです」

「私は運転免許がありません。家族もみんな免許がありません。広島市内で日常生活してる分には困らないんですけど、広島県内大半はそうじゃないです。車がないと生活が難しい。運転免許がある人は、『芸備線、話題になってるけど、自分には関係ない』と。ローカル線問題も、『自分は車に乗るから関係ない。自分のことじゃない』みたいに言われることが多いんです。でも、車に乗ってる人も、いつか免許を返納する日が来ます。車を運転しなくなっても移動する必要はあるんです」

「免許を返納したときに、公共交通がなくなっちゃってたら、出かけるとことができずに家に閉じこもっちゃうのか、病院に行くときだけ誰かに頼んで連れてってもらうのか。公共交通があれば、自分で好きなときにお出かけして、 買い物して、お食事して、友達としゃべったり、いろんな見物したり楽しんだりして、歳を取っても地域経済に貢献することができて、地域経済が良くなって、自分もお出かけするんで元気になって、医療費も少なくなって、保険もの負担も減ると」

「公共交通は運んでもらう人だけのものじゃなくて、いい社会にしていく、元気な社会にしていくために、大事なものです。もちろん観光路線があるっていうことで観光の目的になるということもそうですけど、そういう風に地域や人を元気にしてくれる、そういう大事なものです。みんなで考えないといけない」

「10月1日から、再構築協議会制度が始まって、日本で一番最初に芸備線を話し合いたいという風にJR西日本さんが仰います。このことは、芸備線がどうなっていくかっていうことが、日本のローカル線、公共交通の行方を占うっていうか、大きな影響力を持ってると思います。だから、芸備線のことは日本全体に影響する問題なので、やっぱり、関係ないで終わらさずに、一生懸命知恵を出し合っていきたいと思います」

■この声が「再構築協議会」に届いてほしい

9月28日、JR西日本の長谷川一明社長は会見で、芸備線の備中神代~備後庄原間について、改正地域公共交通活性化再生法に則り、10月の早い時期に国に対して再構築協議会の設置を要請する考えを示した。

その翌日、9月29日にJR西日本は「データで見るJR西日本」の2023年版を公開した。芸備線の備中神代~東城間の平均通過人員は89人/日、東城~備後落合は20人/日、備後落合~備後庄原間は75人/日。木次線の出雲横田~備後落合間は54人/日となった。2022年版と比較すると、備中神代~東城間が9人/日減少となったものの、東城~備後落合が7人/日の増加、備後落合~備後庄原間が9人/日の増加、木次線の出雲横田~備後落合間が19人/日の増加となった。再構築協議会の設置基準の1,000人/日には及ばないものの、微増となっている。

10月3日、JR西日本は備中神代~備後庄原間について「再構築協議会」の設置を国土交通大臣に要請したと発表した。「再構築協議会」は鉄道の存廃を協議する場ととらえがちだが、本来は「地域の人々が円滑に移動できる手段」を検討する場である。だから鉄道にこだわる必要はなく、地域にとっても、訪問者にとっても、便利で、欲を言えば楽しい、そんな公共交通が整備されることが大切といえる。9月23日に行われたシンポジウムの参加者は鉄道ファンが多く、バスには懐疑的な声もある。しかしバスだって地域のために頑張っている。一方で、定時性や案内に関して解決すべき課題も多い。「再構築協議会」はそうした改善の場でもある。

筆者は「再構築協議会」によって、地域にとって最適な交通手段が整備されることを願う。鉄道ファンとしては、その検討の上で鉄道が残る枠組みができたら良いと思っている。今回のシンポジウムの声が「再構築協議会」に伝わることを願っている。