JR西日本は8月2日、岡山県と広島県が主催する「JR芸備線の状況等に関するヒアリング」の席上で、国土交通大臣に「再構築協議会」の設置を要請すると表明した。芸備線の備中神代~備後庄原間が対象区間となる。

  • 芸備線(太線)のうち備中神代~備後庄原間(赤線)を対象に「再構築協議会」が設置される(地理院地図を加工)

「再構築協議会」は、利用者数の減少等によって鉄道事業者が鉄道路線を維持できないとき、鉄道運営のあり方や、鉄道以外の交通手段に転換する方法を自治体と協議する会議である。10月1日に改正される「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」において、地方公共団体または鉄道事業者が国土交通大臣に設置を要請できる。

鉄道路線の廃止に関して、地方公共団体と鉄道事業者が協議会を設置する。JR西日本としては、乗客数が少ないために鉄道事業から撤退したい。そこで沿線自治体の岡山県と新見市、広島県と庄原市に「協議したい」と申し入れた。しかし、鉄道以外の交通手段を含めた検討に応じてもらえない。そこで国土交通大臣に「再構築協議会」を設置してほしいとお願いすることになった。

国土交通省が「再構築協議会」を設置できる路線の目安は輸送密度1,000人/日未満だという。JR西日本が公開しているデータを見ると、芸備線全体の2021年度の輸送密度は1,106人/日だが、備中神代~東城間は80人/日、東城~備後落合間は13人/日、備後落合~備後庄原は66人/日だった。ちなみに木次線の出雲横田~備後落合間も35人/日で、これらはJR西日本の中でもとくに少ない区間となっている。

2022年の輸送密度も、コロナ禍の移動自粛でさらに減っているはず。2023年はコロナ禍から回復しても、沿線人口の低下によって大きな回復は望めそうにない。

■最短で2024年春に廃止か

備中神代~備後庄原間は今後どうなるか。最も可能性の高い決着は鉄道廃止で、代行バスや乗合タクシーが地域の公共交通を担う。次にBRT(バス高速輸送システム)化。芸備線の線路を舗装してバス専用道とし、一般道路よりも速いバス路線にする。公共交通維持の責任として、JR西日本が関与する。

鉄道路線維持の可能性も微かに残る。「再構築協議会」すなわちバス転換ではない。たとえば、自治体が線路施設を保有し、JR西日本が列車の運行を継続する上下分離式もある。この場合、JR西日本が自治体に線路使用料を払うことになるが、只見線の復旧区間(会津川口~只見間)のように「運行収支が赤字の間は免除」としなければ、JR西日本は納得しないと思われる。

決着がいつになるかはわからない。「国土交通大臣に再構築協議会を要請」というしくみは10月1日からで、「再構築協議会」がどの程度の期間になるか、前例がない。法律では、「再構築協議会」の設置にあたり、国土交通大臣が自治体の意見を聞くことになっている。

自治体が「再構築協議会」の設置に賛同しなければ、「再構築協議会」が設置されないか、設置されても自治体欠席のまま検討が行われる。いずれにしてもJR西日本の要望が採択されるだろう。この場合、10月中にJR西日本が廃止届を提出すれば、1年後の2024年10月に廃止される。JR西日本が代替交通を用意するなどで自治体と合意できれば、半年繰り上がって2024年4月に廃止となる。

鉄道路線の廃止は届出制になっており、国土交通省は公聴会を開いた上で受理できる。ただし、国鉄を引き継いだJR各社は、JR会社法にもとづく国土交通省の告示によって、「路線の全部又は一部を廃止しようとするときは、国鉄改革の実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を関係地方公共団体及び利害関係人に対して十分に説明するものとする」とされている。

JR西日本、JR東日本、JR東海、JR九州は完全民営化され、JR会社法から外れた。しかし、2001(平成13)年12月1日に「新会社がその事業を営むに際し当分の間配慮すべき事項に関する指針」が示され、これまで通り「十分に説明するものとする」となっている。「再構築協議会」こそが「十分に説明する」場である。自治体が参加しない場合は「説明を拒否」したことになるから、JR西日本にとってどうしようもない。説明責任の努力はしたことになるだろう。

■いままでの集客施策は「効果あり」も、1,000人/日には遠い

赤字ローカル線問題の手順として、当初は鉄道事業者から沿線自治体に「鉄道路線を見直したい」という意向が伝えられる。これに対し、芸備線の場合は沿線自治体が「存廃論議には応じられない」という主張を貫いている。「JR西日本は全体で黒字であり、いままで通り内部補助によって赤字路線を維持すべき」という考え方である。

しかし、JR西日本は赤字路線を整理したいという意向だけではない。ぎりぎりのコストで維持している現在の状況が、地域の最適な交通機関として機能していない。もっとふさわしい公共交通のあり方があるのではないかと問うている。

まずは芸備線が地域の交通にふさわしくあるためにどうすべきか。そのために利用者を増やそう。ここまでは自治体もJR西日本も一致した。そこで「芸備線 庄原市・新見市エリアの利用促進等に関する検討会議」が始まった。岡山県、広島県、新見市、庄原市、JR西日本岡山支社、JR西日本広島支社が参加し、2021年8月に第1回を開催。2023年7月20日までに6回開催されている。

検討会議では、生活需要を増やす試みと観光需要を増やす試みが実行された。一例として、列車通学ではない高校生22人にモニターとして列車通学を実践してもらった。列車の増発、路線バスの増発と列車の乗換えに配慮したダイヤ改正、予約型乗合タクシーの対応地域拡大等も行った。

しかし、高校生のうち列車通学に切り替えた生徒は2名のみ。バスの利用者は期待したほど増えず、乗合タクシーの利用者は順調に増えているものの、地域内利用者が多く、鉄道利用に結びついていない。自治体は成果を強調したが、利用者が1人から2人になったことを「200%になった」と言うようにもので、輸送密度1,000人/日に届かなかった。

観光需要の拡大施策は成果があり、JR西日本も認めるところ。ただし、イベントに頼る利用者増は限定的である。鉄道関連イベントで400人が集まり、うち100人が鉄道利用だったという結果も、自治体としては成功ととらえているようだが、鉄道のイベントにもかかわらず、過半数がマイカー利用者だった。これは成功と言えるだろうか。そんなイベントを毎週やる体力も自治体にはなさそうに思える。

集客施策があったとはいえ、JR西日本が鉄道を維持できるほどではない。継続すればいずれ1,000人/日を超えるとしても、いつになるかはわからない。そこでJR西日本は、「芸備線 庄原市・新見市エリアの利用促進等に関する検討会議」の第4回で、「特定の前提(鉄道)を置かない、将来の地域公共交通の姿」を議論したいと提案した。しかし、自治体の幹事会が検討した結果、第5回で「本検討会議は、利用促進を検討するために設置した会議であるため、それ以外の議論はしない」との結論が伝えられた。

■もはや自治体側が利用促進を前提とする段階ではない

JR西日本は国に対して問題解決の協力を要請した。そこで岡山県と広島県は合同で、2023年2月1日から「JR芸備線の状況等に関するヒアリング」を実施している。岡山県、広島県、JR西日本、国土交通省、芸備線沿線自治体が参加する。自治体側はJR西日本に対し、芸備線の全路線収支の開示と、内部補助による持続可能性について説明を求めたが、JR西日本は自治体が納得できる説明をできなかったようだ。

JR西日本にとっては、全路線収支はともかく、内部補助について、本来、民間企業が自治体に開示する義務はない。黒字の区間は追加の設備投資が必要で、赤字路線を補填すれば砂漠に水を撒くようなもの。そもそもJR西日本は赤字問題だけでなく、鉄道がふさわしいかという議論をしたい。5月に開催された第2回も進展なし。そうした平行線の結果、第3回の8月2日、JR西日本から「再構築協議会」の設置を要請、となった。

JR西日本の表明に対し、岡山県の担当者はNHKの取材に、「協議会がいいものなのか、デメリットがあるのか、まだ判断できない。利用促進は引き続き取り組む必要がある」と話したという。広島県の担当者は、「利用促進が大前提、JR西日本に対してはすべての路線の収支公開と内部補助の内容を明らかにするよう求める」とした。両県とも「国から意見照会があれば他の自治体と協議して対応を決める」とのことだった。

ここまでの経緯は2018年に廃止された三江線によく似ている。協議が進まない中で、2016年にJR西日本は公式サイトで「鉄道事業はどのような形態であっても行わない」と意思表示した。かなり強いメッセージだったと筆者は記憶している。

筆者は、もはや自治体側が利用促進を前提とする段階ではないと思う。鉄道を残すなら、上下分離など自治体の負担も考えるべきだ。まずは残すと決定し、それからJR西日本も交えた利用促進策を官民協働で積み重ねていくべきではないか。

参考になる路線として、JR東日本の只見線を挙げる。災害不通となった区間に対し、福島県が国の支援を受けて工事費を負担し、上下分離で線路の維持費も負担。列車の運行についても、赤字の間は線路使用料を求めないことにした。それでも福島県は、「只見線とその沿線には国内外からの観光集客力があり、間接的に県の経済に貢献している」と考えている。

「再構築協議会」の検討結果の内容によっては、国が支援することになっている。とはいえ、上下分離となると自治体の負担も大きい。それは血税であるから、県民に納得できる説明と施策が必要になる。

岡山県と広島県は、瀬戸内海沿岸に比べて県北地域の施策が十分だっただろうか。まずは人口減少という結果に対する反省があって、その上で経済と観光の施策を示し、「県北地域の経済発展のためには鉄道が必要」という結論に導く必要がある。両県の北部経済連合を設置して取り組んでもいい。

芸備線を維持するか否かという問題より、両県の県北部に対する政策の問題である。両県には、県北地域を「鉄道がふさわしい地域にしていく」覚悟があるだろうか。