2023年8月26日、宇都宮ライトレールが開業した。全国初の全線新設型LRTとして、開業前から多くの鉄道ファンらの注目を集めており、沿線住民も期待を高めていることがうかがえる。開業日でお祝いムード一色の宇都宮ライトレール「ライトライン」に乗車した。

  • 初めて一般の乗客を乗せて走った宇都宮ライトレールの営業列車(筆者撮影)

宇都宮駅に降り立つと、改札口付近の案内板に宇都宮ライトレールの案内が貼付されている。東口を見ると、休日の宇都宮駅と考えても人が多いように感じた。

■モダンな印象の「ライトライン」、加減速もなめらか

再開発された宇都宮駅東口は初めてだったが、大きな変貌を遂げていて驚いた。開放的でモダンな歩道橋部分に多数のテントが出ており、宇都宮ライトレールの開業を祝って飲食物やグッズを販売している。喧騒から離れて宇都宮ライトレールの沿線を歩いてみると、街を歩く人々から、「いやーすごい人だよ」「あの坂を列車が登るところはかっこよさそうだね」といった会話が聞こえてきた。

開業日の8月26日は、15時から一般利用者が乗車できる予定だったが、整理券は早々に配布を終了しており、宇都宮駅東口停留場から乗車することはできなかった。ただし、途中駅からは整理券がなくても乗車できたため、2つ隣の駅東公園前停留場から乗車することにした。

各停留場のそばにスタッフが常駐し、乗客の整理を行っている。筆者も指示に従い、停留場のホームに入った。

  • 宇都宮市の鬼怒通りを走る「ライトライン」(筆者撮影)

  • 流線形のデザインで、雷の光がモチーフのひとつに(筆者撮影)

15時22分、真新しいホームに電車が到着した。宇都宮ライトレールの車両HU300形「ライトライン」は、黄色と黒のコントラストが印象的な外観。ドアに備え付けられたICカード機器にタッチして乗車する。交通系ICカードであればすべてのドアから乗降可能だが、現金支払いの場合はホームで整理券を取った後、先頭車両の運転席後方にあるドアから降りる必要がある。

座席には座れなかったものの、車内は比較的余裕をもって立てるくらいの混雑である。間接照明が効果的に用いられ、モダンな印象を受けた。猛暑の中だったが、車窓を楽しみたい人が多いからか、誰もカーテンを下ろしていない。車内に設置されたLCDを見ると、下野新聞や足利銀行など、地元企業を中心とした広告映像が流れている。

「ライトライン」が発車すると、スタッフらは手を振って見送る。途中で「Welcome LRT」と書かれた旗を持った人々が、こちらに向かって手を振っている様子が見えた。地元の人々にとっても、待望の日だったのだろう。最新車両と真新しい軌道のおかげもあってか、加減速はなめらかであり、揺れもあまり気にならなかった。

■市街地・高架・鉄橋、変化に富んだ車窓風景

「ライトライン」は30km/h前後の速度で鬼怒通りを東へ進む。宇都宮大学陽東キャンパス停留場を出ると、しばらくして高架橋へとさしかかった。大きなS字カーブを描き、高架を降りると平石停留場に到着する。車両基地が近いこともあってか、テレビ局のカメラが駆けつけていた。

  • 高架から降りてくる「ライトライン」。周囲は暗くなり始めていたが、車体前面の種別・行先表示は鮮明に写った(筆者撮影)

平石停留場からは電車のみ走行する専用区間となり、40km/h程度まで加速する。このあたりから郊外らしい車窓風景が見られ、市街地からの変化を楽しむことができて面白い。平石中央小学校前停留場を出ると、「ライトライン」は鬼怒川橋りょうを渡り、釣りを楽しむ人々の様子を見ながら進む。鉄橋を渡り終えると、高架駅の構造となっている飛山城跡停留場に着いた。

■「ライトライン」の座席は長時間座っても疲れにくい仕上がり

島式ホーム構造の清原地区市民センター前停留場を出ると、「ライトライン」は左に曲がって北へ向かう。グリーンスタジアム前停留場を出ると、再び進路を東に変え、ゆいの杜東停留場付近で芳賀町に入った。周囲に工場やホームセンターが増えてきて、工業団地の雰囲気を感じられる。沿線の店舗でも宇都宮ライトレールの開業に関連したキャンペーンを行っているところが多い様子で、相乗効果を生んでいるように見えた。

  • 回送表示の「ライトライン」が目の前で一時停車した(筆者撮影)

芳賀町工業団地管理センター前停留場を出て左に曲がると、かしの森公園通りを北進する。慣れていないドライバーのために、「軌道内は車の走行ができません」と書かれた看板が立っていた。車内での乗客同士のコミュニケーションも活発で、たまたま隣の席に座った縁と出会いを楽しみながら、好きな鉄道の話に花を咲かせていた。

16時25分、終点の芳賀・高根沢工業団地停留場に到着した。乗車時間は1時間ほどだったが、変化に富んだ車窓風景は魅力的だった。

折返しの電車に乗車する場合は待機列に並ぶ必要があり、ホームにいても多くの人が並んでいる様子が見える。筆者も列に並び、乗車できるまで待った。

  • 芳賀・高根沢工業団地停留場で発車を待つ「ライトライン」(筆者撮影)

宇都宮駅東口停留場まで行く電車は混雑していたが、途中の平石停留場止まりの電車は空いていたため、そちらに乗車することにした。

「ライトライン」の座席に座ってみると、スポーツカーのような質感とデザインで、長時間座っても疲れにくい仕上がりになっていると感じた。16時50分に芳賀・高根沢工業団地停留場を発車し、終点の平石停留場まで乗車。日が傾いてきたものの、平石停留場は多くの人でにぎわっていた。

  • 「ライトライン」の車内(8月21日の試乗会・報道公開にて、編集部撮影)

停留場から少し離れて、線路沿いを歩く。少しずつ高架になっていく線路の脇は田んぼで、エンマコオロギの鳴き声とさわやかな風が心地よい。平石停留場付近にしばらくいた後、満員の宇都宮駅東口停留場行に乗り、宇都宮駅に戻る。駅に着いた頃には周囲も暗くなっており、名物の餃子店に行列ができていた。

開業初日はにぎやかに過ぎ去った。その後の報道を見ると、開業後しばらく運賃の支払い方法等でダイヤが乱れることもあったが、利用者数についてはおおむね順調とのこと。一方で、乗用車との接触事故が発生したことも報じられた。宇都宮市と芳賀町において、LRTと自動車交通の共存は始まったばかり。LRTが日常に溶け込むまで、どのような経過をたどっていくかが重要といえるだろう。今後の動向も注目して見ていきたい。