国土交通省、北海道、JR北海道、JR貨物が、函館本線函館~長万部間で貨物列車の運行維持方針を確認したと報道された。この区間は北海道新幹線の並行在来線としてJR北海道からの分離が決まっており、このうち新函館北斗~長万部間について、沿線自治体はバス転換の意向を示していた。今後は貨物列車専用路線として費用負担等を協議するという。

  • 新函館北斗~長万部間は貨物路線として維持される方針となった

整備新幹線の着工条件の中で、並行在来線をJRから分離することが定められている。北海道新幹線も新函館北斗駅まで開業した際、江差線がJR北海道から分離され、第三セクターの道南いさりび鉄道になった。

2030年度末に予定される札幌延伸で並行在来線となる区間について、JR北海道は函館本線函館~小樽間を経営分離すると表明。長万部~小樽間については、沿線自治体の協議会でバス転換が決定した。函館~長万部間については、函館~新函館北斗間を第三セクターで維持する一方、新函館北斗~長万部間は需要が小さく、維持費負担が大きいことから、自治体側は鉄道維持に消極的で、長万部町はかねてよりバス転換の方針を町の広報誌で表明している。このままだと、並行在来線を沿線自治体が引き受けないという、きわめて珍しい事例になる。

ところが、この新函館北斗駅から長万部駅までの在来線区間は、北海道と本州を結ぶ貨物列車が走行できる唯一のルートの中にある。貨物列車は上下51本を運行しており、NHKの報道によると、2022年度に北海道から本州へ輸送された鉄道貨物は186万トン、本州から道内へ輸送された鉄道貨物は191万トンもあるという。

貨物列車は「北海道の農産物を出荷するため」だけでなく、「本州方面からの宅配貨物、加工食品、出版物を送り届けるため」にある。しかも本州から北海道に運ばれる貨物のほうが若干多い。だから、貨物列車の運行終了は道内経済にとどまらず、本州にも大きな影響を与えることになる。

貨物列車の運行を続けるためには、誰かが線路を維持する必要がある。貨物新幹線というアイデアもあったが、実現可能かどうかはこれからの開発次第である上に、2030年度末までに開発が間に合いそうにない。

■4者協議、それぞれの立場

JR北海道は並行在来線分離の建前があるし、かねてより地方路線について「当社単独による維持困難」と表明している。ならば当事者のJR貨物が各地の港湾貨物線のように自主管理すべきところだが、JR貨物のしくみとして長大な路線を維持する費用は出せない。JR貨物も「当社単独による維持困難」を表明した。

しかしながら、道内の農産物出荷困難の懸念や、ウクライナ紛争による食糧安全保障の観点から、道内の農業団体や経済界から貨物列車維持の要望が高まった。とはいえ、「誰かが残してくれるだろう」という楽観論もあり、コスト負担を表明する企業・団体はない。そこで、沿線自治体が路線維持に消極的と判明した2022年11月から、国(国土交通省)、北海道庁、JR北海道、JR貨物による4者協議が始まった。

協議は路線を維持する方向で、4回にわたって行われた。7月26日の4者会合で鉄道貨物の存続方針が再度確認された。年内にも有識者会議を設置し、費用負担のあり方を含む結論を2025年度中にまとめる。あわせて物流事業者や沿線自治体にヒアリングを実施し、課題を整理する。

4者からの公式発表がなく、協議の詳細は不明なので筆者の憶測になるが、北海道の立場としては、いままでの鉄道関連の協議から見て当事者意識が希薄だ。しかし、道内産業振興のために鉄道は必要と認識し、第三セクター設立に出資する可能性を探るだろう。国土交通省としては、鉄道局で使える予算がないため、内閣府の支援を仰ぐなどで第三セクターに対する補助金制度を検討することになるだろう。

JR北海道は経営から距離を置きつつ、鉄道現場の実務者として保線などの業務を請け負うことになる。運行主体となるJR貨物は、アボイダブルコストルールにいくら上乗せできるか。上乗せ分を運賃にどこまで加算できるか、検討することになるだろう。

■JR貨物はアボイダブルコストルールを崩せない

アボイダブルコストルールは、列車を運行する会社が、線路施設を保有する会社に対して支払う「線路使用料」の計算方法であり、「回避可能経費」ともいう。JR貨物の場合、JR旅客会社や第三セクター鉄道の線路を走行するにあたり、「もし貨物列車が走らなかったら回避できたコスト」だけを線路使用料として支払う。

アボイダブルコストルールによる線路使用料は、レールや架線の摩耗に対する経費など直接的な費用にとどまり、信号設備の維持費や駅員の人件費など「貨物列車がなくても発生する費用」は免除される。JR旅客会社としては、間接費用も含めた路線維持費を払ってもらいたいところだが、実際は10%程度だといわれている。第三セクター鉄道については若干の割増がある。

線路を保有する会社にとって、アボイダブルコストルールは不公平かもしれない。旅客列車と貨物列車の運行本数によってアボイダブルコストを案分するため、旅客列車を増発するほどJR貨物のコスト負担は減り、その分が旅客列車のほうに上乗せされる。運行本数の少ない第三セクター鉄道にとって、旅客列車を増発しにくい要因でもある。

鉄道業界から見て、JR貨物は不公平で肩身の狭い立場といえるが、物流全体で見た場合、JR貨物を含めた全体にとって、もっと不公平な存在がある。道路によるトラック・バス輸送である。トラック輸送会社もバス会社も、道路における上下分離の「上」の部分であり、「下」の部分は国道なら国、都道府県道・市区町村道なら各自治体が建設・維持している。つまり、トラックもバスも道路に費用を払っていない。

もちろん異論はあるだろう。高速道路や有料道路は直接費用を負担しているし、自動車関連税は道路にも使われているから、間接的にコスト負担はあるともいえる。しかし、運賃に対して鉄道ほど大きな経費ではない。

こんな不公平な状況だからこそ、JR貨物の上下分離とアボイダブルコストルールが定められた。JR貨物はこうして、道路交通と不公平な競争をしている。

■北海道の鉄道維持費はすべて「北海道開発予算」に組み込むべき

北海道については、もっと不公平な制度がある。国の「北海道開発予算」である。北海道の道路は国道・道道も含め、そのほとんどが国の予算で建設・維持されている。国土交通省が公開している「令和5年度北海道開発予算」で、道路整備予算は約2,189億3,400万円。鉄道はどうかというと、項目としては「港湾空港鉄道等」で約230億2,300万円とあるものの、内訳は「港湾」約174億4,500万円、「空港」約55億7,800万円のみ。合算すると項目予算額になるから、鉄道に関する予算は計上されていない。

北海道庁自身が予算化した道路橋梁予算は約712億2,163万円。北海道はこの他に「道路新設改良費」として122億7,100万円を計上しているが、これは地方債で賄う形になっている。鉄道に関しては、「新幹線鉄道整備事業費」として約191億1,300万円が計上されている。これも地方債だ。新幹線に関する地方債は国の地方交付税交付金が適用されるので、実質負担はもっと小さい。そして在来線に対する予算は計上されていない。

これだけの数字を見て、新函館北斗~長万部間の維持費は年間「数十億円」(NHK報道)だという。国の北海道開発予算のうち、道路整備予算は約2,189億3,400万円だった。貨物路線の維持費なんて「はした金」のように見えてくる。

道路は救急車、消防車、パトカーも走る。だから鉄道よりも公共性が高い。その理屈はわかる。しかし、物流も公共性は高い。鉄道はそもそも公共交通というカテゴリーだ。そう考えると、新函館北斗~長万部間に限らず、JR北海道の「残すべき路線」とされた路線はすべて国の「北海道開発予算」に組み入れるべきではないか。

北海道開発予算は、1950(昭和25)年に施行された「北海道開発法」にもとづく「北海道総合開発計画」を実行するための予算である。北海道開発法は、「北海道の資源・特性を活かして我が国が直面する課題の解決に貢献するとともに、地域の活力ある発展を図るため、国が策定する計画(北海道開発局)」とされる。73年も続く法律の下で、なぜ鉄道だけが除け者になっているのだろう。

本州以南の鉄道事業者からみると、それでは「JR北海道がずるい」と思えるかもしれない。しかし、道路の時点ですでに北海道は優遇されている。いまさら鉄道を優遇しても問題にならない。日本国にとって、北海道は特別に予算が付けられ、優遇される土地である。それは農業だけでなく、訪日観光や対ロシア国防など多岐にわたる。

筆者はかつて本誌記事で、北海道の農業出荷のためなら農産荷主や流通業者など参加し、応益者が負担するPFI方式を提案したが、NHKが報じているように本州からの輸送も多いことを考えると、農産だけの問題ではない。北海道にとって必要な鉄道は、国にとっても必要だ。国がしっかり維持管理すべきだろう。