函館市議会は7月14日の本会議で、本年度一般会計補正予算案を全会一致で可決した。この予算案に北海道新幹線の函館駅乗入れに関する調査費約3,774万円が含まれる。大泉潤市長の公約実現に向けて、いよいよ実務が動き出す。ただし、一部議員から予算額や実現性の疑問が呈された。その報道を追っていくと、どうも構想の内容が理解されていないように思える。

  • 北海道新幹線H5系と「はこだてライナー」

まず調査費用として計上した予算の使途について。調査本体は民間調査会社が行う。その委託費用と、委託のための諸経費となる。具体的な調査内容として、整備費、旅客見込みや将来収支の推計調査、並行在来線の影響分析、沿線の環境影響などが含まれる。

調査会社の選定はプロポーザル方式で行う。プロポーザル方式は複数の委託候補者から企画を提案してもらい、最も優れた提案と会社を採用する方式である。「最も安い委託先」を選ぶ費用競争式に対して、プロポーザル方式は企画競争式とも呼ばれている。競争入札よりも費用が大きくなりがちだが、調査会社のぼったくりにはならない。企画提案は「これだけの調査が必要で、この金額でやりますよ」あるいは「その予算ならこれだけの調査をしますよ」という形になる。函館市はその企画と予算を吟味して調査会社を選ぶ。

調査すべきことをすべて函館市がわかっていて、調査の実務だけなら費用競争型でも良いが、何をすべきかも提案してほしいから企画競争型になるわけだ。ただし、精査するためには無知ではいられないから、函館市側の担当者もいまは猛勉強をしているはずだ。

北海道新聞の7月5日付記事「新幹線調査費『捨てるようなもの』 自民市議 乗り入れを疑問視 大泉市長『起爆剤必要』」は噴飯物だった。この発言の主は自民党系の市議会最大会派、新市政クラブの金沢浩幸氏。「市長がJR北海道や道、国土交通省と話し、既存の資料を分析することで結論は得られる」と金沢議員は述べたという。

いや、その「結論」が「函館駅乗入れ推進」になるわけで、調査費用はその裏付けのために実施する。金沢議員は北海道新聞の取材に対し、「調査しても乗り入れは無理」と語ったとのこと。どうして無理なのかという根拠は示していないようだ。

これは乗入れ否定派だった前市長と、前市長を支持する自民党議員に共通する傾向があり、選挙のときから「巨額の費用がかかる」「工事期間が長すぎて不便を強いられる」「はこだてライナーはJR北海道との約束でなくせるはずがない」などと主張していた。しかし、すべて具体的な根拠を示していなかった。「はこだてライナー」に関しては、約束を示す書面もない。

その一方で、新幹線函館駅乗入れ案は元日本鉄道建設公団の実務経験者が具体的な工事手法、建設費の試算、運行計画について示しており、市民に向けた説明会も実施していた。新幹線をリレーする役割の「はこだてライナー」はいらない。ただし、「はこだてライナー」は函館~新函館北斗間のローカル輸送も担っている。その役割を担う列車を新設すれば済む話だろう。

「はこだてライナー」に使用される733系は交流20,000V(50Hz)対応だが、北海道新幹線は交流25,000V(50Hz)対応で仕様が異なる。電圧が変わると、規格外の電車は使えないが、733系を25,000V対応に改造すれば使える。あるいは733系をJR北海道に返却して、気動車でローカル輸送を実施し、それを「はこだてライナー」と名づけてもいい。

  • 「はこだてライナー」に使用される733系

北海道新聞の7月8日付記事「新幹線函館駅乗り入れ 調査費 自民系が批判 函館市議会委*補正予算案は賛成」によると、新市政クラブの出村ゆかり氏は予算案が高額すぎることから、「JRに問い合わせたら済む案件だ」と発言したという。乗入れをめぐって「過去に可能性がないと結論が出ている」とも主張したと報じられている。

どちらも間違いだ。まず、「JRに問い合わせたら済む案件だ」という考え方が楽観的すぎる。それでは建設費や運行費の分担、運行にあたっての諸条件が「JRの言い値」になってしまう。個人レベルで例えるなら、家を建てるときに「建築会社さん、金額と納期を教えて」だけで済ませる人はいないだろう。どんな家を建てたいか、建築費の相場など、発注主としても情報を持っておかないと、不利な条件や納期、割高な金額になってしまう。

税金を投入する路線改良であれば、なおのこと事前にしっかりとした情報を握っておく必要がある。「鉄道路線をつくってほしい、ついては仕様と金額を教えてほしい」、そんな呑気な事例は聞いたことがない。

乗入れをめぐって「過去に可能性がないと結論が出ている」という主張も、事情をわかっていない。過去に可能性がないと結論が出たことは事実。しかしそれはフル規格新幹線を新設して分岐する話で、総額1,000億円以上という話だった。今回の在来線乗入れ案は在来線の改良にとどまり、費用は10分の1以下になるだろう。だから新たな可能性が出てきたわけで、新たに調査する必要がある。

ついでに言うと、構想を実施するかしないかを判断するための調査は、結果にかかわらず「捨てるようもの」とは言わない。筆者の知る限り、「捨てるようなもの」と言える調査予算は、静岡県の「東海道新幹線静岡空港実現のための調査」だった。2014~2019年度に4,750万円を使ってきた。2016年度においては、名目上は予備費として10億円を取り置く形で確保したとも報じられている。JR東海は「やらない」と言っているにもかかわらず、説得材料を作るために税金を捨ててきた。これは大いに批判されるべきだろう。

それに比べれば、北海道庁もJR北海道も「函館市から正式な話があれば検討する」という意向を示している。「正式な話」の根拠として、調査結果は必要になる。

ともあれ、予算案は全会一致で可決。つまり新市政クラブも賛成した。問題点は調査予算の可否ではなく、金額だったということらしく、市長の覚悟を確認したかったかもしれないし、安易な予算増額を警戒したことともいえる。大論賛成各論反対かもしれないが、予算は執行される。今後、予算の使い道が厳しく監視されるはずで、そこは函館市がしっかりと実行すべきことだ。

■他の沿線自治体も「情報不足」か

ところで、北海道新幹線函館乗入れ案について、北海道新聞の7月8日付記事「4市町長アンケート 新幹線函館駅乗り入れ割れた回答 道南でのメリット共有が鍵 函館市、丁寧な説明必要」が興味深かった。「4市町」とは長万部町、八雲町、北斗市、七飯町のことで、北海道新幹線の札幌延伸区間および函館乗入れ案の沿線自治体である。

長万部町と八雲町は賛成を明言した。函館駅へ行く際に乗換えがなくなり、もっと便利になる。一方、北斗市は賛否を示さず、「函館市の問題」とした。七飯町は「どちらともいえない」との回答だった。

北斗市にとっては、すでに新函館北斗駅があり、北海道新幹線延伸によって札幌方面が便利になる。従来も北海道新幹線から函館駅へ行く人は新函館北斗駅で乗り換えるだけで、北斗市にとっては影響がない。函館~新函館北斗間で新幹線に乗れば料金は割高になるものの、在来線として列車を運行するはずだから問題ない。

七飯町も七飯駅を通る在来線の列車があればいい。新幹線に関心がなかったとしても当然だろう。むしろ七飯町としては、並行在来線の旅客営業がなくなりそうな大沼公園駅を心配しているかもしれない。これは並行在来線問題だから、今回は簡単に済ませるが、北斗市と連携して並行在来線の列車を大沼公園駅まで残し、新函館北斗駅を拠点とした道南観光開発を考えてほしい。

気になったこととして、北斗市・七飯町ともに「はこだてライナー」廃止の懸念について、「情報不足で回答できない」としていた。その上で住民の移動手段の確保を求めている。

何が気になるかといえば、「情報不足」という言葉と、道新が「はこだてライナー廃止の懸念」を抱き、北斗市と自治体に意見を求めたことだ。北斗市と七飯町、さらには北海道新聞も、函館乗入れ案の概要を理解できていないように受け止められる。とくに道新の記事や社説を追っていくと、「新函館北斗駅(北斗市)で車両を連結・切り離し」「はこだてライナー存廃」などの文言がいまだに出てくる。

「はこだてライナー」の役目と代替手段については前段でも述べたが、「新函館北斗駅で車両を連結・切り離し」はもうないと考えていい。当初の案で「ミニ新幹線」を強調したため、ミニ新幹線なら秋田新幹線や山形新幹線のような途中駅の分割・併結も可能というイメージが定着してしまったものと思われる。しかし、「ミニ新幹線」という呼称は、過去の「フル規格新幹線は高額」というコストを対比するために使われていた。分割・併結案も、いまは「東京~新函館北斗~函館間のスイッチバック、函館~札幌間の直通で対応できる」という方向になってきている。

北海道新聞の7月2日付記事「<記者の視点>動き出した大泉・函館市政*公約実現 市民の幸福考えて」では、「はこだてライナー」が「新函館北斗-函館間を最短15分でつなぐのに対し、新幹線乗り入れで函館-東京間、函館-札幌間はどれだけ短縮できるのか。乗り換えがないメリットは、つぎ込む予算やエネルギーに見合うのか」と疑問を呈している。

函館駅乗入れ構想は、「現在の15分をどれだけ短縮できるか」ではない。乗換えなしで直通する利点が大きいという話である。日本鉄道建設公団(現在の鉄道・運輸機構)による「新幹線直通運転化事業調査報告書」の中で、「通常の乗り換え1回の解消は、乗車時間が30分程度短縮される効果と同等の価値を有する」と示されている。これを道新は理解できていないようだ。道新は発案者の鉄建公団OBや市の担当者に取材していないように思える。もし取材しているとしたら、前市長派の「無理」という先入観がはたらいている。これは前出の市議も同じで、理解が浅い。

ただし、道新や市議、近隣自治体まで情報不足、認識のずれが起きているという状況は、それぞれの認識不足だけではないだろう。これだけの範囲を考えると、原因は大泉市長と市の担当者がしっかり説明していないからではないかとも考えられる。函館市民と議会には構想の詳細を説明して、改めて賛同を得てほしい。近隣自治体にも利点があることを説明し、不安を解消すべきだ。