松本潤主演の大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で明智光秀役を演じ、出色の存在感を放つ俳優・酒向芳。悪人から善良な男まで、変幻自在に様々な役どころを演じてきた酒向が、“嫌な人”の役を演じるやりがいや、大河ドラマ『軍師官兵衛』(14)から近作では映画『ヘルドッグス』(22)まで、数多く共演してきた岡田准一とのエピソードなどを語ってくれた。

  • 『どうする家康』明智光秀役の酒向芳

『どうする家康』は、『コンフィデンスマンJP』シリーズなどの人気脚本家・古沢良太氏が新たな視点で、誰もが知る歴史上の有名武将・徳川家康の生涯を描く物語。第27回では光秀が抱いてきた信長に対する怨恨がピークに達する決定的な出来事が描かれた。それがあの「本能寺の変」を引き起こす引き金となりそうだ。

名だたる名優が演じてきた明智光秀役だが、酒向に今回の出演が決定した時の感想を聞くと「ああ、明智光秀かと思っただけです。それが徳川家康でも織田信長でも私のなかでは同じです」と決して浮き足立つことはなかったと語る。

「僕はどんな仕事をいただいても、特別に身構えることはありません。たとえ歴史上で名のある人物だったとしても、この役を私がやるんだな、と思うだけで、『わかりました』と言ってお引き受けするのが私の仕事です」と言うのは、いかにも職人気質の役者らしい受け答えだ。

大河ドラマ自体をあまり見ないという酒向。長谷川博己演じる明智光秀が主人公の『麒麟がくる』(20~21)でさえも見ていないと言うが、そこには理由があった。

「かえって見ない方がいいのかなとも思いますし、明智光秀についていろいろ調べるということもしません。不勉強だと言われればそうかもしれませんが、演じる人によってそれはまちまちだと思うので、私は与えられた台本のなかで想像してやるだけです」

そう言いつつも、これまでに一度だけ、自分が演じる歴史上の人物についてリサーチしたことがあったとか。それは原田眞人監督作『燃えよ剣』(21)で演じた幕末の会津藩士・外島機兵衛役を演じた時。ちなみに酒向は、容疑者役での怪演が注目された『検察側の罪人』(18)や、岡田准一主演映画『ヘルドッグス』などにも出演している原田組の常連俳優である。

「『燃えよ剣』で僕が演じたのが、実在の人物の役でした。そんなに出番は多くないのですが、舞台が会津ということで、何かこう会津の空気を自分の中に取り込みたいと思いまして。その人物が会津出身だったので、図書館に行って確かめたら、図書館の郷土史に出ていました。たった4、5行でしたが、それを見た時に『あー、本当に生きていた人なんだ』と改めて実感しました」

大河ドラマは『龍馬伝』(10)、『軍師官兵衛』、『青天を衝け』(21)に続いて『どうする家康』で4度目の出演となったが「大河を4回やったということは、そんなに実感としてはないです。引き受けたお仕事が4回であっただけで、私の中ではさして特別な思いはありません」と、ここでもマイペースな“酒向節”を炸裂させつつ、今回の古沢脚本については「読んだ時に面白いなと思いました」と称える。

「あまり大河らしくないなと思って台本を読みました。自分の登場回から読みましたが、古沢さんの照準の当て方が面白いなと。家康がこういう形で表現されることはこれまでなかったでしょうから、こういう家康がいるんだなと思いましたし、それが観る側にも伝わればいいなとも思いました」

自身が演じる光秀については、「台本の中ではあまりいい人として書かれてはいないですね。監督からもちょっと嫌味っぽく、ちょっと嫌な人という話がありました。でも、僕はもらった役に関しては好きになります」と語る。

「でなければ役と仲良くなれないので。いつまでもこの役は嫌いだなとか、自分の肌に合わないなと思うことは、自分に合わない服を着せられるようなもの。やっぱり自分に合った服を着たいし、もしくは自分で選んで着たいとなります。監督から伝えられた光秀のイメージを持ちながら、自分の中にあるものとすり合わせて演じていくという作業をしました」

善人、悪人問わず、いろいろなキャラクターを過不足なく、絶妙な塩梅で演じてきた酒向だが「どの役も同じようにやります」と確固たるセオリーを持っている。

「ほんわかした役もいただきますが、それはたぶん、プロデューサーや監督の中で、いつもと真逆の役をやらせたらどうなるんだろうか? という期待があるんじゃないでしょうか。いつも悪い人の役をやっている人がそうじゃない風の役で出てくると、見る側は『役の幅が広い』などと言いますが、僕自身はほとんどの俳優さんがそうなのではないかと思っています。ただ、見る側が1つのイメージをつけすぎるから、いつもその方向に行ってしまうので、僕自身は全く違うものをやらせた方が面白いと常々思っています」

では、嫌な人を演じるやりがいや面白さをどう捉えているのか? と聞くと「普段出すことがないものを出せることは気持ちがいいんです」と言う。

「一般的に働いていらっしゃる方は、自分の中のそういう嫌な部分は、普段は表に出さないですよね。例えば、お茶飲み場などで、こっそり上司の悪口を言ったりするでしょ。そういうことを我々は平気で堂々とできるわけです。だからいつも作品の力や役の力を借りて、思い切ってやります(笑)」