終盤で、瀬名が家康に木彫りの兎(ウサギ)を渡し、「兎は強うございますよ。狼(オオカミ)よりずっとずっと強うございます」と伝える場面が描かれたが、瀬名は家康の成長を感じていたと有村は語る。

「第17回で殿が『弱い心を置いていく』と言って瀬名に兎を預け、次に殿がそれを受け取るときは、殿の心が成長して強くなったときという認識でお別れしました。でも殿が兎を取りに来るのを待っていた中で、殿が誰かのためにひたむきに戦い続けている姿を見て、背中が大きくなってたくましくなっていくのを感じていて。瀬名がなぜ自害すると決めたかというと、そういう姿を見てきたからというのもあると思います」

そして、瀬名の家康に対するすべての思いを乗せてこのシーンに挑んだ。

「殿を置いて1人で死ねなかったら迷いが生まれていたけど、今の殿だったら絶対に大丈夫という気持ちで、『狼よりも強うございます』というところに気持ちを全部乗せたのですが、自然と涙がこぼれました。殿の立派になられた姿と、『信じているよ』という殿に対する思い……気持ちがうごめいた瞬間でした」

松本演じる本作の家康については、感情豊かで素直な性格が魅力だと笑顔で語る。

「こんなに感情豊かな武将を見たことがない。泣くときはものすごく泣くし、うれしそうなときはすごくうれしそうだし、何かごまかしたいときはごまかすのがダダ漏れている素直さもあったり、人間として愛おしいキャラクターに松本さんがしっかり落とし込んで演じられていて、こんなに素直な家康さんを見たことないなと。そこが魅力だと思います」

幸せを感じた家康とのシーンも振り返ってもらった。

「結婚し子供ができて、という幸せな日々は一瞬で終わってしまいましたが、あれがあったからこそ、いろんなことが効いてきたのだなと。また、瀬名が『絶対大丈夫』という意味で殿の手を握ったり、人を思うところがすごく幸せなことだなと思いました。要所要所で殿を思ってお祈りしていたシーンが印象に残っています」

しびれる展開が多い中、クスっと笑えるコミカルなシーンもあったが、有村は松嶋菜々子演じる於大の方とのシーンが印象に残っているそうだ。

「たぬきメイクを施してもらったり、お寺で踊っているところで殿と出くわしてやりとりをしたり、あそこは楽しくお芝居させてもらっていて、全編通して唯一楽しい、ほっこりする時間だったなと思います」

息子・信康役の細田と娘・亀姫役の當真あみとは、現場でも積極的にコミュニケーションをとっていたという。

「お芝居しながら、役というよりご本人に向けて『頑張れ!』と思っていました(笑)。あみちゃんはお芝居経験もまだそんなに多くなく、役者さんたちとお話しするのも緊張してできないとおっしゃっていたので、少しでもいい思い出を持って帰ってもらいたい、できるだけ寄り添えたらいいなと思いながら過ごしていました」