JR北海道の新型車両737系が、室蘭本線で5月20日から運用を開始した。同社の通勤形電車で初めて、ワンマン運転に対応。バリアフリー設備や各種インテリアを改善し、サービスが向上しているという。最新型車両に実際に乗車してみた。

  • JR北海道の新型車両737系(写真左)がデビュー。前面の配色はH100形(同右)とよく似ている(筆者撮影)

737系はおもに室蘭本線の室蘭~東室蘭~苫小牧間で運用され、最高速度は120km/h。これまで同区間の普通列車として運用されてきたキハ143形をすべて置き換えるとともに、H100形も一部を置き換え、同区間を走る普通列車の約8割が737系による運転となった。これまでと比べて、東室蘭駅から苫小牧駅までの所要時間が最大17分短縮されている。

座席に座れる人数は、キハ143形(2両)の96席に対し、737系(2両)は93席で微減となったが、車内をオールロングシートとしたことで混雑緩和に貢献。通勤通学需要も多い室蘭本線の利用者にとって、大きな変化となるだろう。

737系がどのように運転されているのか確認するため、札幌駅から東室蘭駅まで785系の特急「すずらん」で移動した後、東室蘭駅から登別駅まで737系の普通列車(東室蘭発苫小牧行)に乗車した。時刻表で室蘭本線のページを確認すると、5月19日まで気動車での運転を表す「D」を表記していた列車番号が、5月20日から電車での運転を表す「M」に変わっている。現地へ向かう途中、737系が停車する各駅で時刻の変更に関する案内が大々的に張り出されているところも見かけた。

  • 室蘭本線を走行する737系。奥の煙突は王子製紙の工場(筆者撮影)

新旧の時刻表を見比べれば、スピードアップしていることは明らかだが、乗り心地をはじめ、ワンマン運転のしくみがどのようになっているのかも気になる。今回の乗車を通して、これらも確認しておきたいと思った。

15時22分頃、737系の普通列車が東室蘭駅の4番線ホームに到着した。クモハ737形・クハ737形の2両編成で、新型車両らしく走行音は静か。ホームで待つ乗客も、真新しい電車を物珍しそうに眺めている。ドアとホームとの段差はかなりあるが、これは車両の問題というよりホームの問題だろう。

すぐにドアが開くかと思いきや、車外スピーカーから「業務放送。この放送は、東室蘭発苫小牧行普通列車向けの放送です。系統を確認し、ドアを開けてください」という内容の業務放送が流れた。運転士は放送に従って確認作業をした後、ドア扱いを行う。ワンマン運転にもさまざまなスタイルがあるが、このような放送はあまり聞いたことがない。

半自動ドアのスイッチを押して、車内に入る。オールロングシートの車内は、たしかにこれまでの車両よりも広さを感じさせた。片側2ドアの構造となっているため、山側の座席はとにかく長い。数えてみると、座席は優先席3席を含めて27席も続いていた。一方、海側は客室中央付近に車いす・ベビーカー利用者向けのフリースペースが設けられている。運転席そばのドア横には、ごみ箱が設置されていた。

  • 737系の車内はオールロングシート(報道公開にて編集部撮影)

  • 客室中央付近にフリースペースを設置(報道公開にて編集部撮影)

  • ドア付近にゴミ箱も用意されている(報道公開にて編集部撮影)

吊り革は低身長の利用者向けのものも多く、ユニバーサルデザインを取り入れた仕様になっている。車内の窓はUV加工が施され、上の部分のみ開く。トイレはクハ737形の連結部付近にあり、内部はバリアフリーを考慮した仕様でかなり広い。車内情報装置はドア上ではなく、運転室部分にのみ搭載されている。

外観を見ると、車体前面はやや流線形風の形状になっており、スピード感を想起させる。車体側面の「さくらいろ」とされる淡いピンクの塗装も印象的だった。主要機器類はグレーで、まだ汚れは少ない。フルカラーLEDの行先表示器をカメラで撮影してみると、シャッタースピード1,000分の1秒でもはっきりと文字を視認できた。

  • クモハ737形の車体側面。シングルアームパンタグラフ1基を備える(筆者撮影)

  • アルミ合金の車体に、淡いピンクの塗装を施した車体側面。床下の機器類は冬季を考慮してか、厳重に保護されている(筆者撮影)

15時39分、普通列車は定刻通り東室蘭駅を発車した。平日午後の時間帯ということもあり、乗客は学生と高齢者がほとんどである。

運転席後方の窓は黒く、カーテンが省略されている様子。始発駅では乗務員用扉の脇にある開閉スイッチを操作してドア扱いを行うが、途中駅ではワンマン運転用のミラーを確認しながら、運転席上のスイッチでドアを操作していた。無人駅に停車した際は運転室付近のドアのみ開き、乗車時は整理券を受け取り、下車時は運賃箱にきっぷや運賃を入れて下車する。VVVFインバータの音は静かで、ブレーキもなめらかだと感じた。シートの座り心地はやや硬いと感じたが、長時間乗車する場合は、むしろこれくらいのほうが良いのかもしれない。

幌別~富浦間で、列車は120km/h近くまで加速した。首都圏で言えば京急電鉄の快特並みのスピードだが、揺れはかなり少ない。札幌駅から東室蘭駅まで乗車した特急「すずらん」の785系は、持参していた水筒がテーブルから落ちかけるほど揺れていたが、737系では同等と言えるほどの揺れは発生しなかった。最新の車両に乗ると、車両開発の技術進歩を感じずにはいられない。

  • 室蘭市内を行く737系。室蘭~東室蘭間はカーブが多いため、ゆっくりと走る(筆者撮影)

トンネルの前で737系が警笛を鳴らすと、キハ261系1000番代で使用しているものと同じような音がした。その後、15時56分に登別駅に到着。有人駅なので車内改札はなく、他の乗客に続いて筆者も下車した。東室蘭~登別間は、これまでの気動車運用だと20分かかっていたが、737系の普通列車は16分で結んでいる。スピードアップと乗り心地の向上を両立した、現代の鉄道技術の粋を味わったような気がした。

737系は室蘭本線(室蘭~東室蘭~苫小牧間)での運用に加え、朝6時台に札幌駅を出る東室蘭行、夜の20時台に東室蘭駅を出る札幌行の普通列車をそれぞれ1本ずつ設定している。こちらも乗車する機会があれば、車内の様子など確認したいと思った。

  • 苫小牧駅構内に留置されているキハ143形と、発車を待つ737系(筆者撮影)

苫小牧方面へ向かう途中、白老駅でも下車。構内の電光掲示板にて、737系で運転される普通列車に車両のイラストを掲出し、新型車両が来ることをアピールしていた。室蘭本線は観光の需要も大きく、車両を一新したことで沿線利用者のみならず、観光客にも新たなイメージを植え付けていくことになるだろう。737系の今後の活躍に期待したい。