■俳優・鈴木亮平の“すごさ”とは

――ドラマ版から引き続き、主演は鈴木亮平さんが務め、再タッグになりました。

実は亮平さんとはなにかとご縁がありまして。私がドラマ部に配属されたばかりの新人ADのときに、日曜劇場『天皇の料理番』(15年)というドラマで初めてご一緒してから、ディレクターになってから『テセウスの船』(20年)、チーフ演出になって『TOKYO MER』と節目節目で支えていただいてます。初めての映画監督作品の今作でも主演として現場を引っ張っていただいて、胸を借りてばかりです……。

――振り返ってみると縁を感じますね。役柄によって体型まで変えてしまう役作りのストイックさなどで知られる鈴木さんですが、これまで様々な役柄の鈴木さんを見てきた松木監督だからこそ知る“鈴木亮平のすごさ”とは?

いろんなところを俯瞰で見ている視野の広さ、手を抜くことを知らないストイックさ、人としての器の大きさですね。体の大きさもですが、全部が“でっかい”んですよね(笑)。どの作品でも現場の状況や自分の役を含めて周りを見ていて、現場のすみずみまで意識が行き届いています。新人のスタッフが困っているとすぐに気づいて声をかけている姿もよく見かけました。

あとは皆さんもご存知の通り、“この人に妥協という言葉はあるのだろうか”と思うほど全く手を抜くことを知らないんです。今作でも、私が火の勢いを少し弱めようとしたら、亮平さんから「それでいいんですか?」とたき付けられたり(笑)。こっちが妥協してもバレてしまう。普通ここまでストイックですごい俳優さんだと、自然と近寄りがたくもなると思うんですが、どんなに追い込まれた現場でもいつでもオープンな雰囲気なのもすごいところ。お芝居に熱が入って現場が萎縮してしまいそうになると、クレーンに激突したり、滑って転んだりお茶目な部分を見せてきて、それもずるいんですよね(笑)。

『TOKYO MER』の喜多見は、亮平さんに当て書きしたキャラクターと伺っていますが、本当に喜多見と亮平さんは似ていると思います。作中のセリフでもあるように「あの人がいればなんとかなる」という安心感があります。

■SixTONESジェシーは“コミュ力おばけ” 演技の順応力にも驚き

――また、ドラマキャストに加えてTOKYO MERメンバーにジェシーさんが参加されました。チームに新たな風を吹き込んだような印象でしたが、監督から見たジェシーさんの印象はいかがでしたか?

一言でいうと“コミュ力おばけ”ですね。ドラマからずっとやってきたある種、完成されたチームに入ってくるのってプレッシャーもあったと思うんですけど、スッといつの間にか溶け込んでいました。 もちろん、亮平さんをはじめMERメンバーの皆さんがウェルカムな雰囲気で受け入れてくれたことも大きいと思うんですけど、参加しているという雰囲気ではなく、元々いましたみたいな空気感で、制作側にも一切気遣いをさせないコミュニケーション能力には、助けられました。また、画という面でもMERメンバーは皆さん身長が高いんですけど、ジェシーさんも身長が高くて手足が長いので、見た目・見栄えも違和感がなくてハマっていましたね。

――イメージ通りといいますか、さすがですね。演技の面ではどういった印象を持たれましたか?

小手先のテクニックでという方ではなくて、シンプルかつナチュラルにお芝居をされている印象です。ドラマからのキャスト陣はドラマから何度も医療シーンのリハーサルを重ねてきたのですが、今作ではあまりリハーサルの時間をとることができなかったんです。ジェシーさん演じる潮見も医師だったので、短いリハーサルで手術シーンに参加してもらうことになってしまって。

手術シーンって手元を気にしすぎると、お芝居がおろそかになってしまったり、難しいんですが、ジェシーさんは気後れすることなくあっという間に順応していて驚きました。すごいことをやっているのに、すごいことをやっている感がない自然体な感じが魅力だと思います。

■もう1人の主人公・TO1、登場シーンにこだわり

――さらに、今作の象徴ともいえるERカーも劇中ではキャストに劣らない活躍でした。先日行われた完成報告会見でも登場しましたが、ERカーへのこだわりはありますか?

今回、作中でYOKOHAMA MERが乗るYO1という新たな車両が登場していますが、TO1はドラマ版から変わらず同じ車両を使用しています。個人的にTO1はTOKYO MERのメンバーでもう1人の主人公だと思っているので、劇場版冒頭のTO1登場のシーンはとても思い出深いです。

ドラマ当時もTO1が走っているカットをたくさん撮影してきたんですが、どうしても都内ではのびのび走ることができなかったんです。ですが、今回、南紀白浜空港さんが旧滑走路を貸してくださり、思い切り走らせてあげることが実現しました。全力で走っている姿を初めて見たときは感慨深かったですね。

■ヒットの理由は「フィクションとリアリティの両立」

――最後に、今作はドラマ版が「コンテントアジア賞2022」のベストアジアドラマ部門で最優秀賞、「第109回ザテレビジョンドラマアカデミー賞」最優秀賞を獲得するなど、昨今ではあまり多くないオリジナル脚本のドラマが映画化されるほど多くのファンを獲得しましたが、その理由は何だと考えますか?

分析が得意ではないので、個人的な意見にはなりますが、やはり黒岩さんの描かれる世界観、そしてフィクションとリアリティの両立なのかなと思います。

私自身、原作がある作品にも多く携わってきましたが、オリジナル作品は、手探りで作る怖さがあるのと同時に、何にも縛られずに世界観を一から作り上げることができる楽しさもあります。黒岩さんはとても懐の深い脚本家さんで、現場で起こる化学反応を大事にしてくださって、現場で生まれたセリフも脚本に取り入れてくださいました。そうして、のびのびとやらせてくださったおかげで皆さんに愛される『TOKYO MER』の世界観をつくり上げることができたのかなと思います。

また、医療をテーマにしたドラマ作品で、ここまでエンタメに振り切ってやる作品も多くないなか、『TOKYO MER』はかなり大きく振り切って制作しました。そんな中でも医療ドラマとして成立したのは亮平さんはじめとするキャスト陣の医療シーンの技術や演技力の高さのおかげだと思います。

かしこまったことを言ってしまいましたが、結局理由としては単純に観ている方がドキドキ、わくわくできるところだといいな、と思います。劇場版もぜひドキドキわくわくを楽しんでもらいたいです。

■松木彩
2011年にTBSに入社。ドラマ『天皇の料理番』(15年)、『カルテット』(17年)、『テセウスの船』(20年)などを制作。ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』でチーフ演出を務め、同作で第109回ザテレビジョン ドラマアカデミー賞監督賞を受賞した。劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(28日公開)が全国東宝系で公開中。