2021年7月期に放送されたTBS日曜劇場『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』。「コンテントアジア賞2022」のベストアジアドラマ部門で最優秀賞、「第109回ザテレビジョンドラマアカデミー賞」で最優秀賞を獲得するなど高い評価を集めた同作の劇場版が28日に公開された。ドラマ版から演出を務め、劇場版では自身初の映画監督を務めたTBSの松木彩氏に、劇場版制作の裏側からドラマ大ヒットの理由、再タッグとなった主演・鈴木亮平のすごさを語ってもらった。

  • 劇場版『TOKYO MER』の松木彩監督 (C)2023劇場版『TOKYO MER』製作委員会

    松木彩監督 (C)2023劇場版『TOKYO MER』製作委員会

■ファン待望の映画化は横浜市バックアップで実現

――ドラマ版も演出された松木監督ですが、劇場版制作の一報を聞いたときはどのように感じましたか?

続編の話が浮上したのがドラマ終盤の撮影中。まさに佳境だったので、“今はそれどころじゃない! 目の前のドラマを完成させなかったら(映画にも)ならない!”という思いが強かったです。もともと黒岩(勉)さんの脚本がドラマできれいにまとまるように作られていましたし、まずはきちんとドラマを終わらせようと思っていたので、続編の話はあまり耳に入れないようにしていました。加えて正直、自分が映画を撮るということも想像していなかったので、改めて監督として『MER』の続編を作れるのは嬉しかったですが、怖さもありました。

――その怖さには、ドラマ『TOKYO MER』が作品として大きく成長したというのもあるのでしょうか?

そうですね。続編を望んでいただけるということはありがたいです。ドラマの放送が始まって、観てくださった方から「映画みたいなクオリティ」という嬉しいお声をいただいて、いつか劇場版でやれたらいいよねと夢物語程度に話していたものが実現するとは……といった思いです。

――今回の劇場版では横浜・みなとみらいを舞台にさらにスケールアップしたMERの活躍が描かれています。実在する場所や地名を出して、現地で撮影することにこだわったそうですね。

物語の特性上、ドラマ版のときは爆発がNGとか、事故が起こるとイメージがよくないという理由で実現しなかった撮影も多かったんです。ただ、今回は横浜市の皆さんが快く撮影を許可してくださって、改めてなんて懐の深い街なんだと……。劇中ではランドマークが燃えるというシチュエーションにもかかわらず、実際の展望室でも撮影をさせていただいて、横浜市に支えられて実現した映画といっても過言ではないです。

■火と水に囲まれた、気温40度の過酷な撮影現場

――また、ドラマ撮影時から賀来賢人さんや要潤さんが口をそろえて「過去一キツイ作品」と言っていた『MER』ですが、劇場版の撮影もかなり過酷だったとか。

ランドマークタワーの非常階段のシーンはとくにハードでしたね……。日本でも暑いと言われる群馬・伊勢崎に約11mの高さの階段セットを作って撮影をしたのですが、気温40度を超える猛暑のなか、狭い密閉された空間で火と水を使っていたので、演出のことだけでなく、安全面という意味でも緊張感のある撮影でした。多くのエキストラさんにも参加いただいているなかで、(鈴木)亮平さんが色んな方に気を配って声をかけてくださったり、スタッフも「ここ滑るよ!」と互いに注意喚起しながら、チーム一丸となって乗り切ったシーンですね。その過酷さがもたらした緊迫感が映像にも映し出されているかなと思います。

――キャストの皆さんもエキストラさんもただ階段を下りるだけでなく、要救護者役の人を運びながらだったり、ケガをしている役を演じながら行うのも大変ですよね。

要救助者役の方や運んでいる方を、受け身を取れるスタントさんにお願いするなど、スタントチームと密に連携を取って撮影を行いました。俳優部はもちろんですが、各セクションにも協力をしてもらいながら実現したシーンでもあります。

このセットを建てた倉庫を貸してくださった方もですが、みなとみらいの撮影でもたくさんの方にご協力をいただきました。今回そういったご協力をいただけたのも、ドラマを多くの方に観ていただいたおかげだなと感じます。

■劇場版からでもわかる作品づくり ドラマファンに向けた仕掛けも

――幅広い世代の方に支持されてきた作品だからこそ、このスケールでの劇場版が実現したんですね。

ドラマが放送されたのもちょうど夏休み期間で、まだまだステイホームの時期でもあったので、大人だけではなくて、小さい子たちにもわくわくしてもらえるような作品になれたらと思っていました。ドラマ放送時には、作品を観たお子さんが、亮平さん演じる喜多見先生に宛てて手紙を送ってくれたこともあって。私自身、ドラマ制作に携わってそういったことが初めてですごく嬉しかったのを覚えています。

――また、劇場版ではドラマとリンクして対比的に描かれているシーンも印象的でした。

ドラマのときから、どの話から観ても楽しめるような作りを意識していたので、基本的には劇場版から観てもわかるように、そして楽しめる内容になっています。ただ、ドラマから観てくださった方だけが気づくポイントというのもふんだんに用意しました……! 黒岩さんが脚本に書いてくださったものもそうですし、小ネタじゃないですが、個人的に仕掛けたものもあります。