第71期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、二次予選の松尾歩八段-斎藤明日斗五段戦が3月29日(水)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、94手で勝利した斎藤五段が挑戦者決定トーナメント進出まであと1勝としました。

6筋の位をめぐる戦い

角換わり腰掛け銀の定跡形となった本局、後手となった斎藤五段は6筋の位を取る趣向を見せました。主流の変化ではないながらも複数の実戦例があり、先後同型を避けながらのちに自陣角を設置して盤面全体を支配する狙いがあります。この位を安定させては不満と見た先手の松尾八段がさっそく歩を突き返し、盤面左方で早くも戦いが起こりました。

手に乗って左銀を盤上中央に繰り出した松尾八段は、8筋に打った自陣角とこの銀との協力で後手陣の歩をかすめ取ることに成功。追われた角を手順に初期位置に戻して立て直しを図ります。先手の調子が良いように思われますが形勢は互角で、歩切れとなった後手の斎藤五段がどのような方針を立てるかに注目が集まります。

斎藤五段が反撃決め勝利

手番を得た斎藤五段は3筋の歩を突き捨てて反撃を開始します。戦いの中で先手玉が5筋に移動していたのに注目した動きで、直後の桂頭の歩打ちが素朴ながら厳しい反撃となりました。手にした桂で王手金取りをかけて駒損を回復した斎藤五段が形勢をリードして局面は終盤戦に突入します。松尾八段は1筋に成り込んだ馬が遊んでいるのが響いています。

優位に立った斎藤五段は軽い手筋を駆使して寄せの網を絞っていきます。手裏剣の歩の手筋で先手玉を危険地帯におびき寄せてから持ち駒の金銀を打って拠点としたのが、一見重たく見えるものの「王手は追う手」を避けた寄せの好手。最後は松尾八段の反撃をかわしきって勝利を手にしました。勝った斎藤五段は次局、自身初となる挑戦者決定トーナメント入りをかけて佐藤天彦九段―阿久津主税八段戦の勝者と対戦します。

  • 斎藤五段は直近10戦で9勝1敗と絶好調だ

    斎藤五段は直近10戦で9勝1敗と絶好調だ

水留 啓(将棋情報局)