折しも26日放送の第12回のサブタイトルはズバリ「氏真」で、氏真が籠城する掛川城に徳川軍が攻め入り、家康と氏真が相まみえるという名シーンが展開される。今川家の御曹司でありながらも、自分の力量のなさに苦悩し、葛藤する氏真を時に激しく、時に物悲しく表現してきた溝端だが、第12回では特に、氏真の人となりが深掘りされる。溝端は、氏真役をオファーされた時点で、第12回までの脚本を受け取っていたと言う。

「第1回や第3回でヒールとして描かれてきた氏真ですが、自分の中では第12回から逆算して人物像を作り上げられたかなとは思っています。特に第6回と第12回では家康と氏真が対局に描かれています。自分から望んでいないのに天命に選ばれ、どんどん出世していく家康と、そう望んでいるのに才能と時代に見放され、落ちていく氏真。第12回では氏真の人生って何だろうという形で、現代と過去が交互に描かれていき、2人の決着がつきます。でも、2人は幼少期の頃から兄弟のように育ってきて、楽しい思い出もたくさんあるはずだし、戦国の世でなければ、ずっと仲良くお互いに手を取り合い、同じ目標に向かって邁進できたという点がなんとも切ないしもの悲しさもあります」

今川義元の血を受け継いだサラブレッドだが、劣等感の塊でもある氏真に、溝端はとてもシンパシーを覚えたそうだ。

「氏真は、自分がストイックにいけばいくほど、周りに人がいなくなり、人を信じられなくなるという心が不安定な人間です。家康のように、人に甘えつつも、周りに支えてくれる人がいて、自然と人が集まってくるような人格にきっと憧れがあったと思います。それは、僕自身にも共通する部分があって」と話し出すと、「第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞したことを機に俳優デビューした自身のキャリアを振り返る。

「ジュノンボーイということで、最初はアイドル的な人気を得てお仕事をたくさんいただけていましたが、自分の実力が追いついてないことにもだんだん気づいていきました。10代、20代の頃は映画に出ても30カットぐらいNGを出したこともありますし、仕事は順調だったけど周りが誰1人認めてくれないという孤独感がありました。自分の身の丈に合った仕事ができてないという葛藤ですね」と当時の思いを赤裸々に打ち明ける。

そして、「誰もはっきり『どこがダメだ』と指摘をしてくれない中で、蜷川さんだけが正面を切って『お前は下手くそだ! 才能がない』と言ってくれたことで、何かが吹っ切れたんです。才能がないならないなりに頑張ればいいんじゃないかと。そこから自分なりに、ちょっとずつできることを積み重ねていこうと思い、自分にあまり期待しすぎないようになりました」と、蜷川さんのおかげで変わることができたそう。「それが12回の氏真にすごく近いなと感じたんです。泥くさく生きてきたという部分もそうですし」と自身と氏真を重ねた。

また、今の自分について溝端は「結果的に人に恵まれたことが大きかったです。周りの人に救われました」と心から感謝する。

「蜷川さんだけじゃなくて、その後も吉田鋼太郎さんや横田栄司さん、藤原竜也さんなど、厳しくも温かく見守りつつ、ちゃんと応援してくれて、たまには叱咤激励もしてくれる先輩たちがいてくれたおかげで、いろんなことを乗り越えられました」

きっとそんな溝端が演じたからこそ、非常に深みのある氏真像が作り上げられたに違いない。最後に第12回の見どころについて「いよいよ自分が育ってきた今川家、故郷を家康が滅ぼす、すなわち今川家に終止符を打つ回となります。家康にとってもすごく大きな回で、氏真と家康の葛藤が描かれますが、ここまでずっと感情が高ぶり、最初から最後まで全編がエモーショナルな回というのはなかったのではないかなと。本当にいい意味でずっと緊張感がある回なので、そこをぜひ楽しんでいただけたらなと思います」とアピール。

また、才能がないと言われた氏真についても思いを馳せ「大谷翔平さんのように才能のある方はいっぱいいますが、ああいう風になりたいと思ってもなれない人のほうが多いと思います。もちろんなれた人も、なれた人なりに悩んでいくとは思いますが、なれない人だって同じだし、悩みというものは誰にだってついて回るものなんだなと。僕は第12回でそこに感動したというか、メッセージがバッチリ伝わってくると思います。僕はこの回がすごく好きなので、ぜひ見ていただきたいです」と締めくくった。

■溝端淳平(みぞばた・じゅんぺい)
1989年6月14日生まれ、和歌山県出身の俳優。2006年、第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞して芸能界入り。2007年にドラマ『生徒諸君!』(テレビ朝日系)で俳優デビューし、『DIVE!!』(08)で映画初出演にして初主演。以降、映画、ドラマ、舞台などで活躍。蜷川幸雄演出の舞台『ヴェローナの二紳士』(2015)では初の女役を演じて話題に。2019年に『スカーレット』でNHK連続テレビ小説に初出演。現在、Huluのドラマ「君と世界が終わる日に」Season4が配信中。NHKのドラマ『正直不動産スペシャル』が2023年度冬に放送予定。

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