2023年も住宅ローン固定金利が上昇傾向で、固定と変動の金利差が拡大し、変動金利人気が続いている。一方で、4月から日銀総裁が植田氏に代わるため、変動金利の見通しに不安を感じるユーザーも多い。

住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を提供する株式会社MFSは、住宅ローン金利に関するメディア向け勉強会を開催した。勉強会の内容を踏まえて、住宅ローン利用者と銀行の最新の動向、マイナス金利が万が一解除された場合の変動金利への影響を紹介する。

■固定金利が上昇する一方で、変動金利は下落傾向

足元の住宅ローン金利の動向を見ると、10年固定金利は1.46%、フラット35は1.96%に上昇している。一方、変動金利は日銀のマイナス金利政策の継続により、0.40%に下落した。4月以降の銀行の動きとして、金利水準は大きな変動はなさそうとの見通しだ。

一部銀行では金利以外の差別化を模索する動きも出ている。たとえばイオン銀行は住宅ローン契約者に、イオンでの買い物を5%OFFする特典を提供している。従来、対象期間は借入から5年までであったが、完済までに引き延ばされた。

このように、金利以外のサービスによって利用者を獲得する動きは、今後他の銀行でも広まる可能性がある。

■ユーザーからはネット銀行の支持が多い

先月モゲチェックが主催した「ユーザーが選ぶ本当に良い住宅ローンランキング2023」では、auじぶん銀行とSBI新生銀行が3冠を達成、PayPay銀行が1冠であった。7つの部門すべてをネット銀行がトップを獲得した結果だ。

モゲチェックでの事前審査申込件数の銀行別シェアは、トップ3でシェア5割、トップ5で2/3を占める寡占状態だ。ネットで比較して申し込む場合、上位の人気のある銀行に集中する傾向が見られる。

新規借入サービスを利用した方を対象としたアンケートでは、変動金利を希望するユーザーが直近でやや減少した。この理由としては、日銀の次期総裁が雨宮氏ではなく植田氏になったことで、今後の金利動向に不安を感じるユーザーが増えたからではないかと推測される。

■SVB(シリコンバレー銀行)破綻のきっかけとなったMBSについて

SVBが3月10日に経営破綻となり、アメリカの銀行の破綻としては過去3番目の規模として大きく報道された。破綻原因は、SVBが運用先として投資していたのがMBS(住宅ローンを束ねた債券)であり、この運用に失敗したことだ。

MBSは金利が上昇するほど、債券価格の下落幅がより一層大きくなる商品だ。たとえば金利が1%上昇して債券価格が10%下落すると下落幅は金利上昇率の10倍だが、3%上昇して債券価格が45%下落すると、下落幅は金利上昇率の15倍とより大きくなるイメージだ。

この原因は、金利が上昇すると住宅ローンの借り換え件数が減少するためであり、期限前に返済するユーザー数が減る。その結果、MBSの償還時期が後ろ倒しになり、金利上昇に対する下落度合いが高まる性質を持つのだ。

■変動金利の決まり方

住宅ローンには「基準金利」という定価のようなものがあり、そこから引き下げ幅を引いたものが適用金利だ。たとえば基準金利が2.475%で引き下げ幅が2%なら、適用金利は0.475%となる。

引き下げ幅は完済まで一定のため、基準金利が下がればそれに連動して適用金利も下がる。逆に、基準金利が上がると適用金利も上がる。

よって変動金利で借りた後、その金利が上がるかどうかは、基準金利の動向次第だ。

モゲチェックではユーザーから「どの銀行の基準金利が上がりにくいか」という質問を受けることがあるそうだ。これに対しモゲチェックの塩澤氏は、銀行は同じビジネスモデルのため、日銀が利上げすれば、どの銀行も同じように上がると回答している。

■基準金利の決め方は4パターンある

基準金利の決め方は4つあり、(1)短期プライムレート連動、(2)リテールビジネス状況を踏まえ判断、(3)TIBOR連動、(4)長期プライムレート連動だ。

4パターンある決め方

(1)の短期プライムレート連動は、法人融資の最優遇金利(期間1年内)であり、3大メガバンクや地銀、住信SBIネット銀行が採用している。(2)のリテールビジネス状況を踏まえ判断は、資金調達・営業コストから総合判断する方法で、ネット系銀行が採用している。

(3)のTIBOR連動は銀行間でお金を貸し借りする金利のことで、地域金融機関のごく一部が採用している方法だ。(4)長期プライムレート連動は法人融資の最優遇金利(期間1年超)で、一部のJAが採用している。

マイナス金利解除後に金利はいつ上がるのか

モゲチェックでは、(1)はマイナス金利解除後、少しタイムラグを置いてから上がると考えている。(2)と(3)はマイナス金利解除後に上がり、(4)はイールドカーブ・コントロールが修正されると上がるとの見立てだ。

変動金利を仮に0.5%とすると、YCC撤廃後に(4)は0.25%増えると考えられる。ゼロ金利が解除されると、(2)と(3)が0.1%、(4)は0.25%上がる可能性がある。

さらに日銀が0.25%の利上げに踏み切ると、(1)が0.15%、(2)と(3)と(4)が0.25%上がるだろう。0.5%の利上げとなると、(1)~(4)のすべてが0.25%上がると考えられる。

ただし、現在は低金利競争を仕掛ける銀行数が以前より倍増しているため、ネット銀行は基準金利引き上げを我慢する可能性がある。その場合、(2)は(1)に近い動きとなり、大差のない状況になる可能性も十分ある。

モゲチェックの塩澤氏は、住宅ローンの商品の比較として「メガバンク・地銀」VS.「ネット銀行」という構図で語られることも多いが、そのような比較よりは商品性(適用金利・団信)での比較のほうが重要だと語る。

■変動金利とどう向き合うか?

2023年も金利は大きなテーマであり、モゲチェックでは変動金利の向き合い方として「金利上昇をポジティブに捉える」ことを提唱している。変動金利上昇によって家計負担増加が予見されるのであれば、今のうちから家計を見直し、支出のカットにつなげることが可能だ。

また、金利上昇は景気が良くなりつつある証であり、賃金も上昇すると考えるのも大事だ。日銀の黒田氏も植田氏も、”賃金上昇を踏まえた物価上昇”を合言葉としているため、金利だけが一方的に増えて支払いができなくなるようなことはないだろう。