マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。


2月に入って、米国の長期金利(10年物国債利回り)が上昇し、米ドル/円が堅調に推移しています。1月雇用統計などの経済指標が景気の堅調とインフレ圧力の根強さを示したからです。また、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が利上げを長期化させるとの観測も強まっています。

OIS(翌日物金利スワップ)というデータに基づけば、強かった1月雇用統計の発表前の2月2日時点で金融市場が織り込むメインシナリオ(確率50%超)は、「3月のFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げを行って、そこで打ち止め。そして、11月と12月のFOMCで0.25%ずつの利下げ」というものでした。

しかし、23日時点での金融市場のメインシナリオは、「3月、5月、6月のFOMCで0.25%ずつの利上げ(4月はFOMCの開催なし)、12月のFOMCで0.25%の利下げ」へと変化しています。

もともと、FRBは、インフレ抑制のために利上げを継続し、また利下げへの転換は容易ではないとのメッセージを発信してきました。金融市場で利上げ打ち止めや利下げ開始の観測が強まっていたことに対するけん制でした。そして、ここへきて、金融市場もようやくFRBの真意を理解し始めたと言えるのかもしれません。

22日に公表されたFOMC議事録は、後述するように利上げに積極的な、いわゆる「タカ派」色の濃い内容でした。そして、当該FOMC後に発表された経済・物価指標は、景気の底堅さやインフレ圧力の根強さを示すものが多くありました。そうした状況が続くならば、次回3月21-22日のFOMCでもインフレ抑制に向けた利上げ継続の姿勢が示されそうです。


FOMC議事録(1月31日-2月1日開催分、0.25%の利上げを決定)で注目されたのは以下。

0.50%利上げへの支持も

ほとんど全ての参加者(※1)が0.25%の利上げが適切だと考えましたが、「数人(a few)」は0.50%の利上げを支持するか、それに反対しないと述べました。先週、ブラード・セントルイス連銀総裁とメスター・クリーブランド連銀総裁が0.50%の利上げを支持したことを明らかにしましたが、その他にも0.50%の利上げを支持した参加者がいたのかもしれません。

(※1)FOMCに参加するのは、FRB本部の理事7人(議長や副議長も含む)と全12地区の連邦準備銀行の総裁12人の計19人。このうち、理事7人と地区連銀総裁5人(ニューヨーク連銀総裁と、1年ごとの輪番の4人の地区連銀総裁)の計12人が政策決定に対する投票権を持つ

インフレの上方リスクが重要なカギ

参加者は、インフレ率が2%に向けて下がり続けると自信が持てるまで、抑制的な政策金利が維持される必要があり、それには「時間がかかる」と考えていました。そして、多くの参加者は、不十分に抑制的な政策スタンスでは最近のインフレ鈍化の傾向が止まってしまう可能性があると指摘しました。先行きの金融政策に関して、インフレの上方リスクが重要なカギを握るとほぼ全員が考えていたようです。

金融状況の緩和により利上げ長期化も

金融状況(株価や市場金利など)は1年前に比べて非常にタイトだとの指摘はあったものの、多くの参加者はここ数カ月の金融状況は緩和していると指摘。数人はその結果として、より抑制的な金融政策が必要になる可能性を指摘しました。

23年中にリセッションの可能性も

22年後半にGDPが反発したこと(※2)に言及しつつも、10-12月期の国内民間最終需要(=個人消費+住宅投資+設備投資)がほぼ横ばいだった点が指摘されました。そして、数人の参加者は、23年にリセッション(景気後退)になる可能性は引き続き高いとの見解を持っていました。

(※2)7-9月期は前期比年率3.2%、10-12月期は同2.9%

IT企業のレイオフは問題なし!?

1月雇用統計(※3)の発表前ながら、労働市場は引き続き非常に強いと判断されました。数人の参加者は、IT大手数社がレイオフ(雇用削減)を発表したこと(※4)に触れ、その前の数年(=コロナ下)で大量に採用した反動だと指摘。幅広く労働需要が軟化していることを示すわけではないと判断しました。

(※3)NFP(非農業部門雇用者数)が前月比51.7万人増と、市場予想(18.9万人増)の約2.7倍
(※4)当該FOMCの前にも、マイクロソフトが1万人削減、アルファベット(グーグル親会社)が1万2,000人削減、アマゾンが1万7,000人削減などと報じられていた