第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、B級1組12回戦の羽生善治九段―横山泰明七段戦が2月14日(火)に東京・将棋会館にて行われました。対局の結果、96手で勝利した羽生九段が5勝6敗としてB級1組残留を確定させました。敗れた横山七段は4勝7敗となり、自身の残留を最終戦に託します。

横山七段の相掛かり研究

先手の横山七段は相掛かりの序盤戦に誘導します。後手の羽生九段が飛車先の歩を交換してきたタイミングで角交換を挑んだのが横山七段の作戦で、8筋の歩打ちをギリギリまで保留することでひねり飛車の要領で盤面左方から逆襲する狙いがあります。これに対し羽生九段は自陣三段目に歩を打って、低い陣形を保ったまま素直に駒組みを進めます。部分的には一度切った飛車先の歩を再度初期配置に戻す屈服形を強いられた格好です。

駒組みが進み、やがて先手の横山七段は1筋の歩を突き捨てて端攻めから戦いを開始しました。手順に1筋を詰めて後手玉を窮屈な形に押し込めたのは先手のポイントですが、この中で横山七段の香も上段に吊り上げられているため形勢に差はつきません。1筋制圧に成功した横山七段は、左辺にいた飛車も右辺に転回して雀刺しの要領で敵陣突破を図りました。

二度の香打ちで羽生九段がリード

自玉付近にプレッシャーをかけられた後手の羽生九段は、攻防の自陣角を打って局面のバランスを保ちます。この角打ちに満足した横山七段は方針を転換し、右銀を中央に進出することでこの角をいじめる作戦に打って出ました。端での攻防が相対化された結果、今度は盤面中央での攻防が活発になって局面は難解な中盤戦が続きます。

盤上は「横山七段の攻め対羽生九段の受け」という構図のまま終盤戦を迎えています。中央からの敵陣突破を図る先手の横山七段が銀を進出して後手陣への成り込みを見せたとき、羽生九段が打った自陣一段目の香が「下段の香に力あり」の格言通りの受けの好手。この数手後に再度同じ地点に放った香打ちも継続の好手で、辛抱を続けていた羽生九段が二度の香打ちで駒得を果たして優位に立ちました。

「屈伏の歩」が先手玉の死命を制する

受けながらリズムをつかんだ羽生九段は、好機に反撃に転じて有利を拡大します。桂の王手で先手玉を盤面左方に呼んでおいてから一転して8筋に歩を成ったのが挟撃体制を作る基本手筋でした。序盤の段階で打たされたように見えた自陣三段目の歩が約50手の攻防の果てに先手玉の逃げ道を阻むと金となっては、羽生九段の優勢は疑いようがありません。

最後は自玉に迫る火の粉を払いつつ、手にした角で掛けた王手が決め手となって羽生九段が落ち着いて着地を決めます。終局時刻は22時57分、受けても一手一手と認めた横山七段が投了を告げて羽生九段の勝利が決まりました。

これで勝った羽生九段は5勝6敗となってB級1組残留を確定させました。敗れた横山七段(8位)は4勝7敗となりました。同星の屋敷伸之九段(4位)と久保利明九段(10位)と合わせた3人の中から1人の降級者が出ます。最終13回戦は3月9日(木)に各地の対局場で予定されています。

  • 羽生九段は横山七段との対戦成績を1勝1敗の五分に戻した(写真は第33期竜王戦七番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

    羽生九段は横山七段との対戦成績を1勝1敗の五分に戻した(写真は第33期竜王戦七番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)