マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。


米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)を1月31日-2月1日に開催。全会一致で0.25%の利上げを決定しました。これは金融市場が事前に予想した通りでした。

声明文では、インフレはいくぶん弱まったものの依然として高いこと、今後も利上げが適切と判断されること、利上げのペースよりもどの水準まで利上げするか(いわゆるターミナル・レート)が重要であることなどが指摘されました。

パウエル議長は市場の動きをけん制するか

利上げの有無や幅、声明文の内容以上に重要だったのは、FOMC後の記者会見でのパウエル議長の発言でした。パウエル議長はこれまで、インフレが2%の目標まで鈍化するとの確信が持てるまで(※)利上げを続ける意向であることや、FOMC参加者の誰一人として23年中の利下げを予想していないことなどを発信してきました。にもかかわらず、金融市場では、インフレのピークアウトを材料にFRBが早ければ3月に利上げを打ち止め、11月にも利下げを開始するとの見方が強まっていました。そうした市場の見方に対して、パウエル議長がどう異を唱えるかが注目されていました。

(※)FRBが重視するインフレ指標である、PCE(個人消費支出)デフレーター(食料とエネルギーを除く)は22年12月に前年比4.4%と、ピークである22年2月の5.4%から鈍化しているものの、2%の目標を大きく上回りました。

今後も複数回の利上げを示唆

パウエル議長は記者会見で、「景気は顕著に減速している」、「インフレは鈍化し始めた」、「(政策金利の)ピークはそれほど遠くない」などと述べる一方で、「労働市場は非常にタイトである」、「(政策金利は)まだ十分に抑制的水準にはない」、「引き続きやるべき仕事は残っている」、「物価目標達成のために抑制的なスタンスを当分の間維持する必要がある」などとも述べました。また、記者から声明文の「今後の利上げ(ongoing increases)」が複数形であることについて質問され、「a couple(2-3回、あるいは数回の意)」だと踏み込んだ発言もしました。

足もとの株高や市場金利の低下を容認

しかし、金融市場はパウエル議長の会見を好感しました。記者会見の途中から、市場金利が大幅に低下(国債価格が大きく上昇)、株価も上昇し、米ドルは下落しました。1回か2-3回かは別として、FRBが利上げの打ち止めを視野に入れ始めたと受け止められたのでしょう。そして、もう一つ、「金融状況(financial condition)」という言葉が需要なカギだったかもしれません。

前回12月に開催されたFOMCの議事録に次のようなくだりがあります。金融市場がFOMCの意図を誤解して、早期の利上げ打ち止め期待や利下げ開始期待から、市場金利が低下したり、株価が上昇したりすれば、金融状況が緩和してインフレを抑制しようとするFOMCの努力を阻害しかねないと。

そして、そうした経緯を知っているであろう記者から質問され、パウエル議長は「金融状況は過去1年間に引き締まっている(だから、懸念していない?)」と回答したのです。いわば、足もとの市場金利の低下(国債価格の上昇)や株高にお墨付きを与えた格好となったのです。

FOMCと市場予想のかい離はどう修正されるか

さて、足もとでFOMCの判断と金融市場の観測には隔たりがあるように思われます。FOMCの判断が正しく、金融市場が予想する以上に政策金利を高く長く維持するのでしょうか。それとも、FOMCの予想以上にインフレの鈍化が顕著になり、早期に打ち止めや利下げ開始へと舵を切ることになるのか。

今後の経済・物価情勢やFOMC関係者らから発せられるメッセージに大いに注目でしょう。

非常に強かった1月雇用統計

なお、3日には非常に強い1月分の雇用統計を受けて、長期金利が大幅上昇、米ドルも上昇しました(米ドル/円は1月中旬以来となる131円台乗せ)。いずれ、FOMCで打ち止めが決定され、ゆくゆくは利下げも視野に入るとみられますが、それまでは市場の思惑の変化を反映して相場変動の大きい状況が続くかもしれません。