ホンダの新型SUV「ZR-V」には強敵が多すぎる。トヨタ自動車のロングセラー商品「RAV4」「ハリアー」、完成度抜群の日産自動車「エクストレイル」、マツダの上質な新車「CX-60」など、数えだしたら枚挙にいとまがないほどだ。ZR-Vはどこでライバル達との違いを出すのか。公道試乗で探った。

  • ホンダ「ZR-V」

    遅れてきた本命? ホンダが2023年4月に発売する「ZR-V」の特徴とは

人気の「ヴェゼル」とは異なるアプローチ

ホンダの国内SUVラインアップは現在、小型車「フィット」をベースとする「ヴェゼル」と「アコード」がベースの「CR-V」の2モデルだけ。「前者では小さすぎるし後者では少し大きすぎる」というユーザーに的を絞り、その間を埋めるべく新たに登場するのが「シビック」ベースの「ZR-V」だ。

  • ホンダ「ZR-V」
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  • 「ZR-V」のボディサイズは全長4,570mm、全幅1,840mm、全高1,620mm、ホイールベースは2,654mm

「世界に、あたらしい気分を」を標榜して公道デビューするZR-V。国内外の各メーカーがエース級のクルマをそろえるミドルサイズSUV市場は群雄割拠の様相だが、ZR-Vはどんな新しさを持つクルマなのか。

開発責任者の小野修一LPLは、100以上あった開発コンセプトの中から残った「一張羅」「凛」「直」の3つでデザインモックアップを作り、最も人気が高かった「一張羅コンセプト」をZR-Vの基本にしたという。大切な人に会う時に着る「一張羅」は自分を表現できるものであり、他とは絶対的に違うものでもある。それを開発メンバー全員の共通認識とした。

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    「ZR-V」は一張羅?

次のフェーズでは、クルマが持つ絶対的な価値だけでなく、コロナ禍や戦争(ロシアによるウクライナ侵攻は開発時には始まっていなかったが)など、世界に蔓延する不安要素を和らげ、新たな一歩を踏み出すきっかけとなるクルマとなってほしいとの願いから、「異彩解放」というグランドコンセプトを掲げた。「異彩を放つ」の彩は「個性」という意味で捉えていて、ユーザーとクルマだけでなく、その開発者も含めた全ての個性を解き放つ新しいSUVを作りたいとの思いを凝縮した言葉なのだという。

「ZR-V」は視界のいい「シビック」か?

さて、話が抽象的すぎた。

ZR-Vの実車を目の前にした印象はというと、やはりその顔つきにまず目がいく。中央のちょっと突き出た低い位置に6角台形のフロントグリルがドンと収まり、上側にホンダの「H」ロゴ、左右に切れ長のヘッドライトがつながるその表情は2010年にデビューしたハイブリッドスポーツクーペ「CR-Z」を思い出させるし、大胆なバーチカル(垂直)バーが並ぶフロントグリルとの組み合わせは、見る人によってはマセラティの「レヴァンテ」や「グレカーレ」、あるいはメルセデスAMGのパナメリカーナグリル装着モデルを彷彿させるのでは。コンパクトSUVのヴェゼルがグリルレスなすっきりとしたイメージの顔つきで人気を博しているのに対して、ZR-Vは大きく異なるデザインで勝負した感じだ。

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    正面から見た「ZR-V」は欧州車を思い起こさせる

サイドのウエストラインは一世代前のCR-Vほど丸い前傾姿勢ではなく、かといって最新のヴェゼルのように明確な水平基調でもない。リアハッチの傾斜もそれに倣う形で、ルーフラインが最奥まで伸びたCR-Vと、クーペのように寝ているヴェゼルの中間といったところ。ダイナミックなフロントデザインに対して、ボンネットより後ろのボディ自体はオーソドックスなSUVらしい形状となっている。

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    ボンネットより後ろのボディはSUVらしい形状だ

インテリアは一言でいうと「背の高いシビック」だ。3本スポークステアリングにフード付きのメーターパネル、左右いっぱいまで広がった上下に薄いメッシュタイプのエアコンルーバーの組み合わせはまさにシビック。SUVらしくアイポイントは高い位置にあり、水平基調のウエストラインが四方に広がるので当然ながら視界は良好だ。

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    インテリアには既視感が。「シビック」にかなり似ている

着座姿勢は足を前方に投げ出すようなセダンライクでスポーティーなセッティングになっていて、走り大好きのホンダファンにもしっかりと訴求できる。シートの作りもいい。スイッチ式のシフトやドライブモードスイッチを備えた左右対称のセンターコンソールは中央部分が中空になっており、柔らかな形状のパッドで覆われたユニークなデザインとなっている。

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  • 着座姿勢はセダンライク

開口部の段差がないラゲッジルームは使い勝手がよく、リアシートの背面を倒すと座面が連動してダイブし、ほぼフルフラットに近い床面が現れる。取り外したパーセルカバーはそのまま床下にぴたりと収納可能。広大なスペースはフロントタイヤを外した2台のスポーツサイクルを積み込んだり、キャンプ道具一式を積み込んだりといった使い方のほか、車中泊にも余裕で対応できるそうだ。

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  • ラゲッジは広々としていて使い勝手も良好

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  • 「ZR-V」はSUVらしい積載性を確保している

神経直結? 「ZR-V」の走りはどうなのか

ZR-Vは2モーターのハイブリッド車「e:HEV」とガソリンエンジン車の2種類。ハイブリッドは2.0Lエンジン(最高出力104kW/141PS、最大トルク182Nm)とモーター(135kW/184PS、310Nm)を組み合わせる。ガソリンエンジンは131kW/178PS、240Nmの1.5Lターボだ。それぞれに4WDとFFモデルがある。

試乗したのは最上位グレードの「e:HEV Z」(4WDモデル)。スイッチ式ギアセレクターを押してDレンジに入れ、エンジンが作動しない静かなEVモードでスルスルと公道に乗り出す。

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    e:HEVはスイッチ式ギアセレクター、ガソリンエンジン車はシフトノブとなる

車速が乗ってくると、エンジンで発電した電力だけでなくバッテリーからの電力も合わせて走行用モーターを駆動するので、強めの加速が味わえる。高速に乗ってクルージング状態になると、エンジンと車輪がクラッチで機械的に直結して燃費を抑えた走行を行うようになる。

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  • 状況に応じて走り方を変える「ZR-V」

走行状況に応じてパワーフローは刻々と切り替わるが、その流れはインジケーターを見れば把握できる程度でショックは全く伝わってこない。走り自体は実に滑らかだ。エンジンは加速に連動して澄んだ快音を発してくれるので、まことに気持ちがいい。1時間半ほど走ってメーターで確認すると、燃費は18km/Lほどの表示となっていた。

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  • パワーフローはインジケーターを見れば把握できる

4WDシステムはプロペラシャフトで後輪と直結する機械式。作動割合はリア寄りにかなり強めにセットされている感じだ。アクセルを踏み込むとボディは素早くダイレクトに反応する。例えばぐるりと回り込んでいくような横浜ベイブリッジの合流部分では、リアがすぐに向きを変えてぴたりと姿勢が決まるというFRスポーツカーのような感覚まで味わうことができる。ZR-Vの4WDを味わってしまうと、FFモデルしかないシビックよりもこっちの方がスポーツ度が高いのでは、と思ってしまうほどだ。

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    4WDの「ZR-V」は「シビック」よりスポーティーかも?

試乗後にはZR-Vのパワートレイン開発を担当した開発戦略統括部 アシスタントチーフエンジニアの斉藤武史氏に話を聞いた。アイルトン・セナがドライブした時期にF1のエンジン開発に携わっていたというベテランだ。当時は2万回転が当たり前という時代だったそうだが、新型ZR-Vについては「神経と直結するような気持ちのいい走り」にホンダらしい走りへのこだわりが詰まっているとのこと。「ホンダミュージック」と称されるエンジン音については、「エンジン剛性や燃焼速度、吸排気系など、さまざまなファクトはありますが、ホンダが作り上げると自然にあの音になるんです」と教えてくれた。

ZR-Vの価格はFFの「X」グレードが294.91万円で最も安い。試乗した最上位モデルは411.95万円だった。価格面でシビックとあまり差がないのも驚きだ。ミドルクラスSUV市場に遅れて登場した観もあるホンダの新型車だが、乗ってみた実感として、確実にオススメできる1台だ。

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