マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。


米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は12月13-14日、金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)を開催して0.50%の利上げを実施、FFレート目標水準(政策金利)を4.25-4.50%としました。過去4回のFOMCでは0.75%の利上げだったので、ペースダウンした格好です。事前に広く市場で予想されていました。

票決と声明文

票決は12対0。前回同様に全会一致でした。

声明文は前回と全く同じ(決定した政策金利の水準が異なるだけ)。冒頭の景気や物価の判断、金融政策のスタンス、今後の見通しとも一言一句同じでした。そして、前回新たに加えられた「政策金利の将来の引き上げを決定するのに、累積的な利上げの効果、金融政策が経済活動やインフレに影響するまでのタイムラグ、経済や金融情勢を考慮する」との一文が維持されました。「だから、利上げペースを落とす」と伝えたいのでしょう。

  • FOMC声明文

経済見通しは「弱気」に

FOMCの経済見通し(中央値)では実質GDP成長率の見通しが9月時点より23年と24年分が下方修正されました。とりわけ、23年の修正幅が大きく、経済成長を犠牲にしてもインフレを抑制するとの意思がみられます。失業率は23-25年が上方修正され、同様の意図がうかがえます。インフレ率(PCE)も上方修正。24年10-12月期でも前年比2.5%までの低下にとどまり、FOMCの目標に回帰するのは25年終盤との予想です。

  • FOMCの経済見通し

ドット・プロットが示唆する政策金利の軌道

「ドット・プロット(FOMC参加者の政策金利予想※)」の中央値は、23年末に5.125%、24年末に4.125%と、9月時点から上方にシフトしました(上記「経済見通し」では少数点2位以下を丸めた数字になっています)。とりわけ23年末に関しては、5.375%との見通しが5人、5.625%との見通しも2人いました(9月時点では5%超との見通しはゼロ人)。

(※)ドット・プロット: FOMCに参加する理事+地区連銀総裁の全員(定数19人)の金融政策見通し(向こう3年の年末までの政策金利の予想水準)を一人一つのドット(点)で表したもの。各個人の見解にすぎないが、市場はその中央値をFOMCのコンセンサスととらえる傾向がある。3カ月ごとに(FOMC2回につき1回)他の経済見通しと一緒に公表される。

ドット・プロットから政策金利の軌道を想定すると、少なくとも23年に入っても利上げは続くものの、そのペースは鈍化。早期打ち止めの可能性もありでしょう。そして、利下げが本格化するのは24年以降ですが、25年末でもいわゆる中立水準(長期=2.5%)を上回っているとの予想です。

  • FOMCの「ドット・プロット」

記者会見におけるパウエル議長の重大発言 パウエル議長は冒頭で、「政策金利は十分に抑制的な水準に達していない」、「まだやるべきことが多い」などと述べ、「利上げの継続が引き続き適切になる」との見解を表明しました。労働市場の需給が「極めてひっ迫している」ことが最大の根拠のようです。「インフレが目標に回帰すると自信が持てるようになるには、もっと多くの証拠が必要だ」と付け加えました。

一方で、パウエル議長は「経済成長が昨年の力強いペースから顕著に減速した」とし、「住宅や設備投資」を筆頭に挙げました。そして、「これまでの強力な利上げの効果は完全には出ていない」とも指摘しました。

パウエル議長は「今年はインフレに素早く対応することが非常に重要だったが、年末になってペースはあまり重要ではなくなった」と述べました。そして、ターミナル・レート(※)について、「FOMCの23年末予想(5.125%)が金利のピークを意味する」と指摘しました。この発言は水準に言及したことも重要ですが、もっと重大な意味を持っています。「23年末がピーク=23年中に利下げしない」と示唆したからです。市場では、早ければ23年半ばごろからFRBが利下げを開始するとの見方もありましたが、それをけん制した格好です。また、議長は「金利のピークの予想を引き上げないとは断言できない」とも述べました。

(※)ターミナル・レート: 政策金利の最終到達水準のこと。政策金利のピーク、あるいは利上げ打ち止め水準と同義。

はたして、FRBはいつごろ、どの水準で利上げを打ち止め、いつごろ利下げを開始するのか。経済やインフレの動向に不透明感が強く、今後の状況次第ではFRBの判断が大きく変わる可能性もあります。米国の金融政策の行方に大いに注目でしょう。