11月16~18日にかけて、「大阪公立大の新キャンパス前に大阪メトロが新駅検討」と報道された。新駅の建設予定地は地下鉄中央線の森之宮検車場だという。

  • 新駅検討地は地下鉄中央線の森之宮検車場付近(地理院地図を加工)

11月26日現在、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)の公式サイトに情報はない。しかし、大阪市長は記者会見で「2025年の大学新キャンパスオープンに合わせたい」と語り、大阪府知事もABCテレビの取材に対し、「新キャンパスが開設される2025年には間に合わず、大阪IRが開業をめざす2029年までの間になるとの見通し」と時期を明らかにしている。

新駅検討地とされる森之宮検車場は、大阪城公園の東側に位置する。中央線の森ノ宮駅から分岐し、北へ向かったところに地上の車両基地がある。検車場は簡単に言うと車両の基地。電車の留置だけでなく、定期点検も行われる。

森之宮検車場の西側でJR大阪環状線の森ノ宮電車区が隣接している。東側では、大阪公立大学の中核となる新キャンパスの建設が進む。大阪公立大学は、大阪府と大阪市の行政二重化を解消するため、大阪府立大学と大阪市立大学を統合し、今年開学した。新キャンパスは中庭を囲むように、13階建て・11階建て・7階建てのビルが建つ予定となっている。

2016年まで、森之宮検車場に車両工場もあり、車両解体を伴う全般検査や、モーター・台車・ブレーキの分解整備を実施していた。これらの車両工場機能は、四つ橋線の緑木検車場に隣接する車両工場に移設されている。森之宮検車場にあった車両工場跡地は解体工事が進み、ほぼ更地に。ここが新駅になると予想される。新駅の駅名は未定だが、「大阪公立大学前」が濃厚とのこと。

車両基地に隣接して設置された駅といえば、東京メトロ千代田線の北綾瀬駅(1979年開業)や、JR西日本の博多南駅(1990年)が思い浮かぶ。北綾瀬駅は車両基地建設時に駅設置も予定されていた。近隣の住民が増え、駅の要望が高まったために設置された。綾瀬~北綾瀬間は東京メトロ千代田線の支線として扱われる。

博多南駅は山陽新幹線の博多総合車両所に隣接する。当初、駅の予定はなかったが、付近が市街地化されたため、住民の要望で設置された。博多~博多南間の列車は山陽新幹線の車両を使うものの、在来線扱いで路線名は「博多南線」。乗車券200円の他に自由席特急券100円が必要で、「300円で乗れる新幹線(車両)」として知られる。

中央線の森ノ宮駅から「大阪公立大学前」新駅までの区間は支線扱いか、それとも博多南線のような路線名が与えられるか。列車の運行形態は森ノ宮駅から新駅までの往復だけか、新駅からコスモスクエア方面へ乗換えなしで行けるか。いずれも未発表だが、中央線の夢洲延伸、近鉄奈良線直通構想も含めて興味深い。

■ごみ処理場老朽化問題から始まった大阪城東部地区再開発

森之宮検車場と大阪公立大学を含む大阪城東部地区では、再開発が始まっている。2012年に大阪府が行政計画として決定した「グランドデザイン・大阪」によって、大阪城公園と周辺のにぎわい創出と森之宮周辺の活性化が図られる。文化・観光・学術・交流機能が集積する東西都市軸上にあり、西側の臨海部開発地域に対して東側の拠点が大阪城東部地区となる。

  • 大阪城東部地区まちづくり計画。2020年9月現在のゾーン区分(地理院地図を加工)

まちづくりにおいて公共交通の整備は重要。大阪城東部地区では、西側を南北方向にJR大阪環状線が通り、大阪城公園駅と森ノ宮駅がある。中央線は東西方向を通り、森ノ宮駅がある。その他、長堀鶴見緑地線も森ノ宮駅を通る。これらの駅があるからこそ、大阪城東部地区の再開発が決まったと言ってもいい。それほど便利なところに、もうひとつ駅ができる。大阪城東部地区の中心ともいえる場所である。

ますます便利になるとはいえ、なぜもうひとつの駅が必要か。報道によると、大阪公立大学が新駅を要請し、大阪市高速電気軌道が応じたという。そこには同社の「森之宮検車区を維持したい」という思いがあるかもしれない。その思いを読み解くために、大阪城東部地区まちづくりの経緯を追ってみよう。

発端は森之宮検車場の北側にあったごみ焼却場(森之宮工場)の老朽化。解決策として、近隣の下水処理場南側に移転し、建設する計画だった。しかし2009年、当時の市長が計画を凍結した。そこで市は改めて「廃止」「現地敷地を拡張して建替え」「近隣移転予定地建替え」の3案に絞る。その結果、現地建替えと決まった。

ただし、この決定も2012年に変更され、ごみ焼却場(森之宮工場)計画そのものが廃止となった。背景として、2010年に東淀工場が稼働し、大阪府市統合本部が周辺市も含めた広域的なごみ処理体制を構築する方針となったことが挙げられる。2014年に大阪市・八尾市・松原市環境施設組合が発足。各市のごみ処理が組合に移管される。2019年に守口市も加わり、大阪広域環境施設組合となった。その結果、森之宮地区で2つのごみ処理工場用地が空地になった。

この空地の活用をめぐり、2016年に「大阪城東部地区のまちづくりの方向性(素案)」が取りまとめられる。その素案に森之宮検車場の敷地がすべて含まれていた。JR大阪環状線の森ノ宮電車区については今後協議し、ひとまず上部空間を活用させてもらうとして、大阪市交通局(現・大阪市高速電気軌道)の土地は再開発しよう、となった。大阪市中心部の一等地を電車の車庫にしておくなんてもったいない。これは東京都の田町車両センターを「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」にする理由と同じだろう。

森之宮検車場を空地にするため、別の場所に検車場を用意する必要がある。その算段はできていた。中央線の夢洲延伸構想だ。臨海部埋立地のひとつである夢洲に検車場を設置し、森之宮検車場の所属車両を移す。鉄道延伸計画も古く、1999年に環境影響手続きを始めていた。2008年の大阪オリンピック誘致が始まり、夢洲をメイン会場にする想定で、夢洲延伸構想が再起動する。このときの地下鉄中央線(建設・保有は大阪港トランスポートシステム)延伸計画に検車場が盛り込まれた。

その後、オリンピック誘致に失敗し、地下鉄延伸計画も再び凍結されたが、2014年に夢洲へIR(統合型リゾート)を誘致する構想が始まると、地下鉄延伸計画が再起動する。夢洲検査場計画も引き継がれた。この経緯があってこそ、2016年の「大阪城東部地区のまちづくりの方向性(素案)」である。「夢洲に代替地を作るから、森之宮から出て行ってね」というわけだ。これを受けて、まずは森之宮検査場の車両工場を閉鎖し、緑木検車場へ機能を移転した。

いずれ森之宮検査場は再開発のため、すべてを明け渡す必要がある。ところが、このプランには問題があった。2018年に大阪市営交通が民営化され、大阪市高速電気軌道が発足すると、同じ年に2025年大阪・関西万博の招致が決定。夢洲延伸計画も正式にスタートした。しかし、計画上の夢洲検車場の規模が小さく、万博輸送で増発することを考えても車庫の容量が足りない。大阪市高速電気軌道としては、森之宮検車場を手放したくないだろう。同社の株主は大阪市なので、株主の意向には沿わなければならないが、夢洲検査場で足りない容量だけでも森之宮検車場の機能を維持したい。

そんな状況下で、2020年に大阪公立大学の森之宮新キャンパス整備方針が決まった。場所はごみ焼却場(森之宮工場)の移転予定地。統合前の大阪府立大学と大阪市立大学はそれぞれ複数のキャンパスを持っており、新たに核となる新キャンパスを設置する方針だった。森之宮新キャンパスは2025年の開設を予定している。

大阪公立大学の森之宮新キャンパスが決まったことで、大阪城東部地区のまちづくり構想も大きく変化した。2020年9月、大阪市は「大学とともに成長するイノベーション・フィールド・シティ」をコンセプトとして「大阪城東部地区のまちづくりの方向性【概要】」を発表。対象地域を4つのゾーンに分けてテーマを設定する。大阪公立大学は再開発の核となる「イノベーション・コア」の中にある。

大阪公立大学としては、目の前に地下鉄の車庫があり、線路があるなら駅を設置してほしいと考えただろう。大阪市高速電気軌道にとっても、新駅を設置すれば森ノ宮駅への連絡線を残せる。もう少し線路を残せば電車の車庫も維持でき、夢洲検査場からあふれた電車を収容できる。これで森之宮検査場の全面撤退から逃れられる。「高輪ゲートウェイシティ」でも、JR東日本の留置線は残されている。

まちづくり構想の土地利用計画によると、森ノ宮検車場の電車留置線部分とJR森ノ宮電車区は「拡張検討ゾーン」と位置づけられている。「当面は鉄道施設として継続し、上部利用によって大阪城公園駅とイノベーション・コアを結ぶ連絡デッキをつくる。将来は上部利用範囲の拡大や土地利用転換も検討する」という。

不動産の価値を考えても、たしかにここを電車の車庫にしておくことにもったいなさを感じる。車庫はそのままにして、上部に公園や建物を作ったほうがいい。地下鉄の検車場は夢洲に移転できるとして、JR西日本の森ノ宮電車区は移転できるか。「高輪ゲートウェイシティ」の再開発では、上野東京ラインによって田町車両センターの車両を埼玉県や神奈川県へ移すことが可能になった。JR西日本だって同じ夢を見ていると思う。

ただし、森ノ宮電車区は大阪環状線などの車両だから遠方に移しにくい。筆者は「桜島線(JRゆめ咲線)を夢洲へ延伸して新たな電車区を作る」「大阪駅北側で整備中の『うめきた公園(仮称)』の地下空間に電車区を作る」「関西本線(大和路線)の東部市場前駅付近にある百済貨物ターミナルを立体化して電車区をつくる」くらいしか思いつかない。

どれもお金がかかりそうで、それなら森ノ宮電車区のまま、上部に人工地盤をつくったほうが良さそうに思える。東京の新宿駅上部にできた「新宿南口交通ターミナル(バスタ新宿)」のような建物をいくつか建設できるだろう。

「大阪公立大学前」新駅のニュースを追ってみたら、JRの車両基地再編まで見えてきた。なにわ筋線や夢洲延伸も含めて、新しい大阪と鉄道の姿に興味が深まっていく。