広島市安芸区で運行されている「スカイレール」こと「広島短距離交通瀬野線」について、「運営会社が2023年末をめどに運行を終える方針を決めた」と報じられた。ニュータウンの住民も驚いたと思うが、この報道に鉄道ファンらもざわついた。まさか廃止されるとは思わなかった。

  • スカイレールは全国唯一のシステムを採用している

スカイレールはJR山陽本線瀬野駅に隣接するみどり口駅と、高台のニュータウン「スカイレールタウンみどり坂」に設置されたみどり中街駅、みどり中央駅を結ぶ新交通システムの路線。「スカイレールみどり坂線」または運営会社のまま「スカイレールサービス」と呼ばれることもある。

国土交通省鉄道局監修の『鉄道要覧』を見ると、「軌道(懸垂式モノレール)」の章で事業者を「スカイレールサービス株式会社」、路線名を「広島短距離交通瀬野線」と記載している。懸垂式。動力は電気で440V。キロ程は1.3km。平均速度は15km/h。全区間通しの所要時間は約5分とされている。

地方のローカル線が廃止される場合、赤字や減便、自治体の議会で存廃を論議されるなどの予兆がある。その後で運営会社が廃止や見直しを表明すれば、「やっぱりそうなるか」と受け止められる。しかし、スカイレールのようなニュータウンの生活手段と化した路線が廃止されるとは思わなかった。いや、過去に似た例がある。愛知県の桃花台新交通だ。ただし、桃花台新交通の場合、開業から一度も黒字の年度がないという予兆はあった。

  • 瀬野駅の後背地にスカイレールの線路が見える

スカイレールの運賃は大人170円・こども90円。2020(令和2)年度の乗客数は約46万7,000人で、営業収入は5,200万円、営業費用は1億7,400万円。つまり1億2,200万円の赤字だった。スカイレールも経営は厳しかったようだ。

以前は住宅街から瀬野小学校に通う小学生のために通学専用車両を設定しており、大人は乗れなかった。しかし2011年、「スカイレールタウンみどり坂」内に「みどり坂小学校」が開校すると、通学輸送が激減し、通学専用車両も廃止となった。これも収入減少につながったかもしれない。

  • 定員25人、最大37人まで乗車可能だという

運営会社のスカイレールサービスは、電気自動車の路線バスに転換する検討を始めている。中国新聞によると、11月12日から住民説明会を開始しており、「当初の経営見通しが甘かったのではないか」「なくなるのは寂しい」などの意見が出たという。積極的な存続希望があれば記事になるはずで、住民はあきらめの心境だろうか。

■「軌道」も鉄道ファンにとって趣味の対象

スカイレールは懸垂式モノレールとロープウェイ、リニアモーターを組み合わせた特殊な構造になっている。線路は懸垂式モノレールに似た鋼製桁を採用。ただし、車両に動力はない。車輪が通るモノレール線路の他に、ロープウェイのような循環式ワイヤーケーブルがあり、車両側のアームがワイヤーケーブルをつかむと引っ張るしくみになっている。駅に到着すると、アームはワイヤーケーブルを手放す。駅構内はリニアモーターの加減速装置で停止または発進する。

このシステムは神戸製鋼所と三菱重工業によって開発された。建設費の安さが特徴で、ゴムタイヤ式新交通システム(AGT)の約3分の1だという。総工費は約62億円だった。輸送力は毎時2,200人以上。半径30mの急カーブを設置でき、最大27パーセント(270パーミル)の勾配に対応。ニュータウンの路線だが、箱根登山ケーブルカーより急な勾配となっている。

  • スカイレールでは、複線の線路の外側に走行用橋桁があり、内側に推進用ロープがある

スカイレールについて「鉄道マニアらに人気」と紹介する報道もあった。その理由は、スカイレールが軌道法にもとづく路線だから。分類としては路面電車と同じである。軌道と鉄道のおもな違いは公道上に設置するか否か。ただし、軌道は道路併用軌道だけでなく、専用の軌道を持つ路線もあり、適用範囲が広い。道路の真上につくられたモノレールや新交通システムも軌道、道路の真下につくられた地下鉄も軌道として扱う場合がある。

軌道は旧建設省の所管で、道路交通を補助する交通機関と定義されていた。鉄道は旧運輸省の管轄だった。現在、両省は統合されて国土交通省となったが、軌道と鉄道の区別は残り、軌道は特許制度、鉄道は許可制度と法的な扱いも違っている。スカイレールは軌道法にもとづく路線の特許を得て建設された。住民説明会で運営会社は、「支柱や駅舎は市の所有のため協議する」と応えたという。なるほど、市が道路に準ずる施設として支柱などを整備したから、「軌道特許」となったわけだ。

鉄道ファンの多くは、鉄道とともに軌道も趣味の対象として定義している。一方、ロープウェイやリフトのような乗り物は索道に分類される。索道と鉄道は法律で分離できるため、筆者のように索道を趣味の対象としない人は多い。それでも乗り物は好きだから、見かければ乗るように努めている。スカイレールはロープウェイのようでいて、国土交通省の分類は軌道(懸垂式モノレール)だから趣味の対象になる。廃止となれば、鉄道ファンにとって一大事ということになる。

■家を買ったら「ハシゴ」を外される? 住民説明会はどうなるか

スカイレールの廃止は、各地で議論される「地方ローカル線廃止問題」とは異なる。地方ローカル線は自治体の交通政策問題だが、スカイレールの場合は「不動産開発者と住民の約束」であり、それを不動産会社の子会社が終わらせるという話である。

「スカイレールタウンみどり坂」の開発は積水ハウスと青木建設(現・青木あすなろ建設)によって進められた。最寄り駅はJR山陽本線瀬野駅。ただし、山の斜面上につくられたため、標高差が200mもある。階段を含む歩行ルートもあるが、上りはきつい。道路はつづら折り状で右へ左へのカーブが続き、距離も伸びる。そこで住民の交通手段としてスカイレールが一緒に計画された。運営会社のスカイレールサービスは積水ハウスが過半数を出資しており、積水ハウスの連結子会社になっている。

つまり、スカイレールは「住宅地を売るためにつくられたサービス」であり、住民も「スカイレールがあるから」土地や住宅を購入した。そのスカイレールがなくなるとは、「2階に上がったらハシゴを外された」ようなものではないかと思う。

報道では、住民の声として、「車を使うから仕方ない」「路線バスになると不便になりそう」「街の素敵なものがなくなって寂しい」などと紹介している。これはスカイレール利用者のソフトな話で、実際に土地家屋を購入し、ローンを組むなど契約した人は「話が違う」と憤るだろう。資産価値が下がるからだ。

類似の路線として、千葉県の山万ユーカリが丘線が挙げられる。不動産開発会社の山万が「ユーカリが丘」を開発し、土地を販売するためにつくられた路線だが、子会社とはせず、山万の一事業部としたところにスカイレールとの違いがある。鞍馬寺が運営する鞍馬寺ケーブルカーと合わせ、珍しい運営形態で話題に上ることがある。たとえ赤字であっても、地域の事業者本体が路線の運営に責任を持つという方式を採用している。

一方、スカイレールを運営するスカイレールサービスは、不動産会社と資本関係はあるとしても別会社だ。この枠組みは、開発を担当し、資本参加もしている神戸製鋼と三菱重工の意向かもしれない。両社は他の場所でもスカイレールの販売を検討していた。いわば実験的プロダクトの第1弾であり、業績が良ければ追加の投資が行われた。スカイレールは日本で初めてICカード定期券を導入し、QRコード式乗車券も採用している。ただし、単体で赤字となれば、事業を継続できない。

輸送サービスの責任はある。ならばコストの安い電気バスにしたい。ここは鉄道事業者が赤字路線をバス転換する話と似ている。親会社の約束はどうかというと、不動産開発事業者にとって、分譲物件を販売したら事業終了は当然の話。あとは中古販売に関わる程度になる。こうして「スカイレールの約束」はゆらいでいく。

不動産情報サイトの住民の声を拾うと、「歩いて40分の道のりが5分で行けるから便利」と評価する一方で、「中間駅のみどり中街駅の付近は斜面で、利用するためには坂道がキツイし、頂上駅から利用する場合と同じ料金は不満」という声もあった。電気バスなら停留所を増やせるから便利かも知れない。

  • 見晴らしが良く爽快な車窓。緑の多い景色で住環境も良さそうに思える

しかし、「資産価値が損なわれるから残してほしい」という意見は予想される。自分は利用しないが残してほしい。これは地方ローカル線存続問題と似ているように見えて、実際には違う。「鉄道がある街でいたい」という情緒ではなく、「資産価値を守るために残したい」という思いだろう。情緒は説得できるが、資産価値が絡むと難しい。スカイレールがなくなったために減少した価値を賠償しろという話になりかねない。

住民は土地家屋の購入契約時、不動産会社から「重要事項説明書」を提示されたはず。そこに「将来スカイレールは廃止され可能性がある」と記載されていれば、住民側は文句を言えない。ここも他の鉄道廃止とは異なる点だろう。

法的にも簡単に廃止できない。前述の通り、スカイレールは軌道としてつくられた。鉄道の廃止は届出制だが、軌道を廃止する場合は国土交通大臣の許可が必要になる(軌道法第22条の2)。手続きはほぼ同じであるものの、鉄道の場合は利用者などの意見聴取、軌道の場合は政策判断で認められない場合もあり、大臣権限で運輸審査会に諮る場合もある。許可の有無について、当事者の行政不服申立てができる。

■住民負担鉄道が発足したら画期的

ところで、「スカイレールタウンみどり坂」の開発に関わった積水ハウスは、他にも高台に住宅を開発し、ユニークな移動手段を提供している。山梨県上野原市の「コモアしおつ」は、最寄り駅であるJR中央本線の四方津駅と「コモア・ブリッジ」でつないだ。「コモア・ブリッジ」はエスカレーターと斜行エレベーターを装備している。

同じくJR中央本線の猿橋駅付近には、JR東日本と清水建設が開発し、分譲した「パストラルびゅう桂台」があり、かつて「シャトル桂台」という小型モノレールを運行していた。法令上は斜行エレベーターとされ、鉄道事業ではなかった。しかし、「シャトル桂台」は故障から復旧できず廃止に。現在は垂直エレベーターが設置されている。

「コモア・ブリッジ」「シャトル桂台」はどちらも不動産管理会社が運営し、住民専用で無料だった。マンションのエレベーターと似たしくみで、住民は施設管理料を毎月支払っている。「コモアしおつ」は管理組合の加入が条件となっていて、1区画あたりの費用として入居時に100万円、月額管理費6,500円が必要。この中に「コモア・ブリッジ」の経費が含まれている。「パストラルびゅう桂台」では、エレベーター施設管理費として1区画あたり月額4,500円が必要になる。

もしスカイレールを存続させるなら、「コモアしおつ」や「パストラルびゅう桂台」のように、住民が月額管理費を支払い、スカイレールサービスが運行管理を受託、乗車は無料、という形態も考えられる。これも全国で初の事例となり、趣味的にも魅力が増すと思うが、どうだろうか。もっとも、そうなると、住民から「管理費を下げるため、経費の安い電気バスにしましょう」となるかもしれない。

スカイレールは鉄道ファンにとって興味深く、そしてモヤモヤする路線である。日本唯一のしくみは面白いし、懸垂式モノレールのように高いところを走るので眺望は良い。鉄道ファンとしては行きたい。筆者のように「日本の鉄道路線にすべて乗る」と志したからには、行かなければならない路線のひとつだろう。

しかし、実際に行くとなると、住民ではないから遠慮してしまう。公共交通機関なので誰が乗ってもいいのだが、終着駅の周辺は住宅だけ。観光施設も飲食店もない。余所者になった感がある。定員25人、座席8席という小さな車両で、地元の方々との相席は気まずいかもしれない。

これから乗りに行く場合は、日中の空いている時間を狙い、住民との相席は避け、みどり中央駅に着いたらすぐに折り返そう。撮影するなら駅と車両のみ。住民にカメラを向けるなどの迷惑行為は絶対にやめてほしい。