まだ一部で新型コロナウイルスによる渡航制限が残る上、世界各国での物価上昇、さらには空前の円安と、日本人の海外渡航には完全なる逆風が吹いています。それでも筆者は今回、「いまを逃したら次はいつになるかわからない」と、3週間半のヨーロッパ周遊旅行を敢行。

その一環として、2022年10月5日~12日までの約1週間、イタリアを旅しました。「物価上昇」と「円安」のダブルパンチが立ちはだかるいま、日本人旅行者から見たイタリアの物価はどうなっているのでしょうか。実体験をもとに検証してみました。

都市によって大きく異なるイタリアの物価事情

  • チンクエテッレの村のひとつ、ヴェルナッツァ

今回イタリアで訪れたのは、ベルガモ、フィレンツェ、チンクエテッレ、シエナ、ヴェネツィア、ヴェローナの6都市(地域)。

イタリアは過去にも3回ほど訪れており、これまでの旅から感じたイタリアの物価の印象は「日本と大きく変わらない」というものでした。ただ、イタリアの物価は都市によって大きく異なる点が特徴的です。

  • ヴェネツィアの大運河

特に、ミラノ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ローマといった大都市および観光都市は物価が高いことで知られており、こうした都市を訪れると、以前から「日本より高いな」と感じる場面が少なくありませんでした。

特に昨今は空前の円安。円安が進めば進むほど、円に換算したときの割高感も大きくなってしまいます。ただでさえヨーロッパ各国の物価上昇が取り沙汰される中、戦々恐々としながら旅に出たわけですが、実際のところ、現在のイタリアの物価はどうなのでしょうか。

結論からいえば、観光地の入場料があまりにも高くギョッとした瞬間もありましたが、工夫次第で意外と支出を抑えられることがわかりました。

※1ユーロは141.6円で計算(2022年10月8日時点のレート)。ただし宿泊費は円建てで決済されているため、決済時点でのレートが反映されています。

有名観光スポットを巡ればあっという間に諭吉が飛ぶ

  • フィレンツェのドゥオモと鐘楼

さまざまな有名観光スポットを訪れるのが、イタリア旅行の楽しみのひとつ。ですが、イタリアの主要都市では、とにかく観光スポットの入場料が高くつきます。

フィレンツェは巨大なクーポラを持つドゥオモ(大聖堂)が有名ですが、ドゥオモのクーポラとジョットの鐘楼、サン・ジョヴァンニ洗礼堂、ドゥオモ付属美術館に入場できる共通券の値段はなんと30ユーロ(約4,248円)。いくら世界遺産とはいえ、あまりにも強気です……!

ほかにも、ウフィツィ美術館の通常チケット20ユーロ(約2,832円)、ピッティ宮の通常チケット16ユーロ(約2,266円)など、フィレンツェの主要な見どころに入場しただけで、あっという間に諭吉が飛んでいってしまう計算です。

  • ヴェネツィアのサン・マルコ広場

当然、こうした傾向はフィレンツェだけではありません。物価が高いことで知られるヴェネツィアは、サン・マルコ広場の鐘楼にのぼっただけで10ユーロ(約1,416円)。ドゥカーレ宮殿、コッレール博物館、国立考古学博物館、国立マルチャーナ図書館に入場できるサン・マルコ広場共通チケットの通常価格はなんと30ユーロ(約4,248円 ※日時によって変動あり)。

わざわざイタリアまで行って「高い」を連発するのが無粋であることは百も承知していますが、イタリアの主要観光スポットの入場料は「有名だし、とりあえず入っとこうか」というノリで入れるレベルではありません……。

  • ヴェネツィアの運河

入場料というわけではありませんが、ヴェネツィア名物のゴンドラに乗るにもやはり相応の出費を覚悟しなければなりません。ヴェネツィアのゴンドラは所要時間に応じて公定料金が決まっており、日中は30分で80ユーロ(約11,328円)。一艘単位の料金なので、6人で乗ればそれほどの負担感はありませんが、2人など少人数で乗った場合はずっしりくる金額です。

外食は基本的に高く、お茶で2,600円の出費も

  • ベルガモ名物のラビオリ 13ユーロ(約1,841円)

イタリアに限らず、「サービス」を受けると高くつくのがヨーロッパ。円安になる前から外食は日本より高い傾向がありましたが、円安によってさらに割高感が強まっています。

イタリアの観光都市や大都市では、カジュアルなカフェやレストランでパスタ1皿とワイン1杯を注文しただけで、席料を合わせて20ユーロ(約2,832円)ほどかかってしまうのが常で、日本のような「気軽なランチ」にはなかなかお目にかかれません。

  • フィレンツェ旧市街のカフェで飲んだラテ 5.8ユーロ(約821円)

フィレンツェでは、ピッティ宮に近い旧市街中心部のカフェでラテを1杯頼んだところ、5.8ユーロ(約821円)。旧市街の端のほうなら、似たようなカフェでもカプチーノが3ユーロだったので、少し驚いてしまいました。

  • ヴェネツィアの「カフェ・フローリアン」で飲んだ紅茶 12.5ユーロ(約1,770円)

極めつけはヴェネツィアのサン・マルコ広場に面した「カフェ・フローリアン(Cafe Florian)」。ポットの紅茶12.5ユーロに音楽生演奏時のチャージ6ユーロが加算されて、計18.5ユーロ(約2,620円)。文化財級の歴史ある豪華なカフェとはいえ、お茶を飲んだだけで2,600円とは、あまりの高さに金銭感覚がおかしくなりそうです。スイーツもありましたが、20ユーロ以上したので注文しませんでした(笑)

  • フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅裏手のレストランで食べたリゾット 10ユーロ(約1,416円)

そんなイタリアでも、観光エリアから少しはずれると、比較的手頃に食事ができる場所もあります。例えば、フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅の裏側にあるレストランでは、ポルチーニ茸のリゾットが10ユーロ(約1,416円)でいただけました。生のポルチーニ茸がたっぷり入っていたので、「むしろ安い」と感じたくらいです。

  • フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅近くの中華料理店で食べたチャーハン 4ユーロ(約566円)

また、イタリアでは中華料理が比較的安く、フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅近くの店では、チャーハンが4ユーロ(約566円)前後、メインディッシュは6~10ユーロ(約850~1,416円)ほどで食べられました。 下手をするとカフェでコーヒーを飲むより安い中華料理ですが、お米の種類が日本と違うので、若干のパサパサ感はあるものの、味は上々。安い店は雰囲気やサービスは「それなり」ですが、中華なら日本とそう変わらない値段でおいしい食事がとれることも少なくありません。

日本でも立地や店の雰囲気によって飲食店の価格帯が異なるのは当たり前ですが、イタリアはその傾向がより顕著というか、極端に感じられました。

宿泊費も高め!安く泊まるならエアビー活用を

  • ヴェネツィア・メストレで泊まったAirbnb物件(1泊あたり約12,144円) ※2ベッドルーム、キッチン付きの貸切アパート

イタリア旅行中、滞在費の大部分を占めるのが宿泊費。昨今、ヨーロッパ各国でホテルの料金が高騰しているといわれていますが、やはりイタリアでも大都市や有名観光都市での宿泊は日本より割高に感じられるケースが多いです。

宿泊費を抑えるため、今回のイタリア旅行では民泊サービスの「Airbnb」を中心に宿探しをしました。

  • フィレンツェの路地裏

フィレンツェでは、交通の便を考えてターミナル駅である サンタ・マリア・ノヴェッラ駅近くに宿泊。2名1室、4泊で55,119円(1泊あたり1室約13,780円)でした。2人で宿泊した場合、一人当たり1泊7,000円弱と 聞くと「安い」と感じるかもしれませんが、実際に泊まってみると駅からは近いものの、古いアパートの1室で防音性はほぼなし。トラムがそばを通るだけで毎回地鳴りのような騒音が聞こえるという物件でした……。クオリティを考えると、「ものすごく高い」と感じたのが正直なところです。

  • フィレンツェのレップブリカ広場

フィレンツェの宿泊費が特に高かったのは、週末をはさんでいたせいでもあります。ホテル予約サイトの「Booking.com」で確認してみたところ、筆者と同時期の週末にフィレンツェで3つ星ホテルに泊まると、1泊1室3万円前後かかることがわかりました。もちろん一口に「3つ星」といっても料金には幅がありますが、今の日本で1泊3万円出したら、もっといいホテルに泊まれる可能性が高いでしょう。

  • ヴェネツィア・メストレで泊まったAirbnb物件(1泊あたり約12,144円) ※2ベッドルーム、キッチン付きの貸切アパート

過去の経験から、ヴェネツィアは特に宿泊費が高いことがわかっていたので、今回はヴェネツィアからバスで約20分のところにあるメストレ駅近くに宿泊。やはりAirbnbで宿探しをしたところ、2ベッドルームのアパートが貸切で3泊36,433円(1泊あたり約12,144円) でした。観光の際はバスでヴェネツィアに行かなければならないとはいえ、フィレンツェの物件に比べるとはるかに広く快適だったため、コスパは良好でした。

なお、ヴェネツィア本島に泊まる場合は、経済的なホテルの狭い部屋でも、1泊1室2万円以上は覚悟する必要があります。

  • ベルガモで宿泊した4つ星ホテル(1泊1室約15,000円)

ちなみに地方都市はどうかというと、ミラノから鉄道で1時間前後のところにあるベルガモでは、4つ星ホテルに泊まったところ、2名1室で1泊約15,000円でした。部屋は新しくきれいでしたが、「これで4つ星?」と思うほどベーシックなつくりだったので、「日本で同じ金額を出せばもっといいホテルに泊まれるだろうな」と考えてしまいました。

コロナ禍で日本国内のホテルが驚くほど値下がりしたせいで、いいホテルに安く泊まることに慣れてしまっていた人もいることでしょう。筆者もその1人なので、イタリアの宿泊施設は特に割高に感じられてしまいます。

交通費は工夫次第で格安移動も可能

  • イタリアの新幹線「フレッチャロッサ」

全土に魅力的な観光地が点在するイタリアでは、周遊旅行をした際の交通費も気になるところ。結論からいえば、イタリアの交通費は円安のいまも一部を除き比較的手頃です。

特に高速鉄道は早期予約で大幅に割引になるため、あらかじめスケジュールを決められるなら予約がおすすめ。筆者は1カ月半ほど前の予約で、フィレンツェからヴェネツィア・メストレまで、所要約2時間の高速鉄道のビジネスクラスに正規運賃の半額以下の33.9ユーロ(約4,800円)で乗車することができました。 日本でいえば新幹線のような位置づけの「フレッチャロッサ」でこの金額というのは、日本よりもずっとお得感があります。

  • トレニタリアの在来線

予約せずに当日切符を買って鉄道やバスを利用する場面も何度かありましたが、フィレンツェからシエナのバスが所要約75分で8.4ユーロ(約1,189円)、ヴェネツィア・メストレからヴェローナの鉄道が所要約75分で9.7ユーロ(約1,374円)など、特段「高い」とは感じないことがほとんどでした。

  • ヴェネツィアのヴァポレット

交通費が比較的安いイタリアとはいえ、例外もあります。そのひとつがヴェネツィアの「ヴァポレット(水上バス)」。なんと1回券が9.5ユーロ(約1,345円)もするんです。ヴァポレットはあくまでも公共交通機関であり、市民の「足」にもなっている乗り物にもかかわらず、たとえ1駅分、数分間の乗船でもちょっと乗るだけで 9.5ユーロというのはなかなか厳しいものがあります。

ただし、ヴァポレットはヴェネツィア本島を移動するときだけでなく、ブラーノ島などの離島に行くときも使えるため、25ユーロ(約3,540円)の24時間券の利用であれば許容範囲だと感じました。

イタリアの観光物価は少々高いが「まだまし」

  • シエナのカンポ広場

2022年9月にイタリアの消費者物価指数の変化率が8.9 %を記録するなど、イタリアにも押し寄せている物価上昇の波。実際に旅してみると、観光地の入場料などは2~3年前に刊行されたガイドブックの情報よりも軒並み値上がりしているなど、旅行者の立場でも物価の上昇を実感する場面が多々ありました。

イタリアの観光物価を総括すると、「観光」「外食」「宿泊」については基本的に日本より割高、「交通」については一部の例外を除いて日本より割安、というのが筆者の印象です。

  • ベルガモのヴェッキア広場

円安もあって「日本より高い」と感じることが多いという結果になりましたが、ヨーロッパ全体で見ると、イタリアの観光物価が特に高いとはいえません。筆者より一足先にパリやアムステルダムを旅していた知人からは、「ドミトリーでも1万円が普通」という恐ろしい報告が寄せられていました。それに比べると、イタリアは「まだまし」といえるでしょう。

有名観光スポットの入場料が高いのはどうしようもありませんが、「Airbnbを活用する」「観光地の中心から少し離れたところで食事をとる」「移動手段は早めに予約する」といった工夫をすることで、それなりの節約が可能です。

円安のいま、日本人にとっては、イタリアに限らず海外旅行全般が厳しい状況となっていますが、それでも「いま」行くとなれば、うまく工夫して乗り切るしかないですね。