第35回東京国際映画祭が10月24日~11月2日、日比谷・銀座・丸の内・銀座地区で開催される。上映会場を拡大、海外ゲストの招へいを本格的に再開し、上映本数は昨年の86本から110本へ増やす。また、東京宝塚劇場でオープニングセレモニーを初実施し、レッドカーペットも復活する。同映画祭を彩るフェスティバル・アンバサダーに2年連続で選ばれ、9月21日のラインナップ発表記者会見で世代間のギャップを埋める重要性などを訴えて報道陣の注目を集めた女優の橋本愛は「自分が生きている間に変わるかどうかわからないですが、自分の目で結果を見たいからやる、というのではなくて、もっとその先にある希望みたいなものを目的に据えながら命を使えるのはとても幸福です」と語っている。

  • 橋本愛

2年連続で同アンバサダーに任命されたことは「ありがたく光栄なこと。まさか、2年もやらせてもらえると思っていなかったです。驚いたのが一番大きいです」という橋本。「去年はアンバサダーとして何をすべきか模索しながら終わっていた印象が強いです。今年は少し自分の気持ちや意見を発信したいと考えています。もちろん自分が絶対正しいと思っているわけではまったくなくて『私の発信を通してどんなムーブメントが起きるのか?』とある種、実験みたいにやってみたいです」

35回を数え、日本屈指の歴史ある同映画祭については「単純に、日本映画が世界に出ていく機会がそんなに多くない中で、こうした催しがあると、作るほうも『もっと世界の人たちに見てもらえる』とモチベーションにつながります。そして世界の人たちと交流することで、もっと自分たちの世界も切り広がるまたとない機会です」と話す。

一方で橋本はこう語る。

「毎回参加させてもらうたびにすごく緊張します。アジア交流ラウンジなどもそうですが、いっそのこと逃げて帰りたい気持ちでいっぱいでした(笑)。でも『エイッ!』と飛び込んだら、自分の知らなかった世界が見えてきました。自分1人では来られなかった場に連れてきてもらったからこそ、大きく成長できる場だと思います」

違う見方をすると、同映画祭はカンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭など世界を代表する映画祭に比べて歴史が浅く、規模も大きくない。東京国際映画祭の課題を尋ねると「課題はまだ把握しきれていませんが、去年は是枝裕和監督(アジア交流ラウンジに登場)の言葉を聞いて『そういう問題もあるんだな』と感じました。私は映画祭そのものというより、日本で映画作りに携わる身として、思うことはたくさんあります」

そんな橋本が肌で感じる、日本の映画界に思うこととは何なのか。

「世間で取りざたされていることそのものになってしまうかもしれませんが、特にハラスメントの問題は、私自身が女性であることも含め、この身で強く感じるトピックのひとつです。労働環境などについても、まわりのスタッフさんたちを見ていると本当に『もっとちゃんと寝てほしい……!』という場面をよく見かけます。もう少しでいいから、余白をもった環境を作れたらいいなと思いますし、世界のモノづくりの現場について話を聞くと、すごくゆとりがあってうらやましいな、とも思ったりします」

近年、ハラスメント問題を中心に有名監督の名前があがり、一部週刊誌などでその実態が報じられている。旧態依然とした日本の映画界を良い方向へ変えていくことはできるのか?

「もちろんそれが簡単に実現できるなら、とっくの昔にされていると思います。でも実現していない。変えることがなかなか難しい中で、自分たちは何ができるか考えたとき、とにかく言い続けることなのかなと。光が当たれば、必ず影ができます。それは避けようのないこと。その影にさらに光を当てようとすると、また新たな影ができます。『それなら始めから光を当てることすらやめよう』という姿勢を多く見受けることもありますが、そうなってしまうと業界そのものが停滞してしまう。それは死とイコールだと思います」

さらに橋本は「影に光を当て続けることが大事です」と力説する。「毎回誰かが幸福であれば、他の誰かがこぼれ落ちてしまいます。そのこぼれ落ちた人々の声を聞き続ける、寄り添い続けることが大事なのではないかなと思います」