いま一番、先の展開が気になるテレビドラマとして『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(毎週日曜あさ9:30からテレビ朝日系で放送)のタイトルを挙げる人は多い。従来の「スーパー戦隊シリーズ」の枠組みの中で、「戦隊」としての約束事(人類を脅かす悪の怪人が出現/仲間同士が力を合わせて悪と戦う/巨大ロボットが活躍)を守りつつ、序盤に提示された謎がストーリーの進行とともに解き明かされていく展開や、ドンモモタロウ/桃井タロウ(演:樋口幸平)を中心とした強烈な個性を備える登場人物たちが自由勝手にうごめきあう濃密なキャラクタードラマに、メイン視聴ターゲットである子どもたちのみならず、高い年齢層の人々までもがひきつけられているようだ。

10月2日に放送されたドン31話「かおバレわんわん」では、ドンブラザーズのメンバーとしていつも「ヒトツ鬼」と戦っているにも関わらず、他の仲間たち……サルブラザー/猿原真一(演:別府由来)、オニシスター/鬼頭はるか(演:志田こはく)、キジブラザー/雉野つよし(演:鈴木浩文)との交流を一切持たず、互いの素性にまったく気づいていないイヌブラザー/犬塚翼(演:柊太朗)にスポットが当てられた。

ドンブラザーズの仲間ははるかがアルバイトをしている喫茶「どんぶら」を連絡場所としており、ここには押しかけ追加戦士というべきドンドラゴクウ/桃谷ジロウ(演:石川雷蔵)も顔を出している。嗅覚に優れているジロウは、イヌブラザーの正体が犬塚翼だと見事に言い当てるのだが、ほかの仲間たちはまったく信用しようとしない。視聴者的には「いよいよイヌブラザーの素性が仲間に知られることになるのか!?」と期待させられる導入だったが、ストーリーは思わぬ方向へと転がることになった。なんと犬塚翼がヒトツ鬼との戦いで、戦士になるために必要な特殊サングラスを落とし、偶然それを拾った売れないミュージシャン・乾龍二(演:山岸健太)がイヌブラザーに「アバターチェンジ」してしまったのだ。

スーパー戦隊シリーズ歴代作品で活躍するヒーローは、地球を征服しようと襲ってくる強大な敵に立ち向かう関係上、強化スーツの装着に耐えられるだけの超人的体力を身に着けていたり、人知を超えたスーパーパワーを与えられたり、特別な環境で超人的パワーを備えた人間だったりと、いろいろな「特別な条件」が揃って初めて変身できるタイプと、最低限の条件こそ必要なものの、とりあえず変身アイテムさえ持っていればヒーローに変身できるタイプ、2種類に大きく分けることができる。

強化服を着用する際に発生する高圧電流に耐える強靭な肉体と、悪を憎む強い精神力を備える『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)や、メンバー全員が肉体改造を施されたサイボーグの『ジャッカー電撃隊』(1977年)、500年前にバイオ粒子を浴びた人間の子孫でなければ変身不可能な『超電子バイオマン』(1984年)、体内に強大な生命力=ダイノガッツを秘めている者だけが爆竜チェンジできる『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003年)などは前者の代表格である。

一方、後者では『科学戦隊ダイナマン』(1983年)や『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006年)のように、もともと変身前でも高い運動能力や戦闘スキルを備えている者たちが「より強い存在」となるため変身アイテムを用いるケースが挙げられる。現役高校生5人がデジタルスーツで戦士となった『電磁戦隊メガレンジャー』(1997年)、発展途上の若い忍者たちが戦闘能力を高めるためシノビチェンジする『忍風戦隊ハリケンジャー』(2002年)なども同じカテゴリに入るだろう。そんな中で、まったく戦闘経験のない一般の少年・少女であっても、変身アイテム(モバイレーツ)さえあれば見た目は戦隊ヒーローに変身できるという『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011年)はわりと珍しいが、この特性を生かして第2話や第44話では正規メンバーでない一般人がゴーカイジャーの姿になり、思わぬ展開を引き起こすエピソードが作られた。

ドン31話の乾龍二は、まさに「一般人がひょんなことから戦隊ヒーローになる力を得てしまった」というケースだったが、以前から黒いヒーローに憧れていた乾は、イヌブラザーになれたことによってすっかりその気になり、『鳥人戦隊ジェットマン』(1991年)のブラックコンドル/結城凱(演:若松俊秀)を思わせるニヒルな態度を取っていた。乾が路上で歌っていた歌「炎のコンドル」がもともとブラックコンドルのキャラクターソング(歌:若松俊秀)であり、乾が気取って発する言葉にも結城凱の「名セリフ」が多く盛り込まれるというように、『ジェットマン』ファンに向けたパロディ要素が強烈な印象を残した。

戦いとは無縁な一般人がひょんなことから戦士としての「力」を得たため、さまざまな事件が巻き起こるというドン31話と似たような展開のストーリーが過去にもあった。それは『高速戦隊ターボレンジャー』(1989年)第43話「6人目の戦士!」である。ブルーターボ/浜洋平(演:朝倉圭矢)の同級生で、勉強は得意だが運動神経の鈍い山田健一(演:小林英俊)は、洋平からターボブレスを盗み、ブルーターボに変身して有頂天になる。変身するために必要な条件(幼いころ妖精からパワーをもらった)こそ満たしているものの、健一には自分の危険をかえりみず悪と戦う「勇気」が足りず、そこが健一と洋平の決定的な違いとなっていた。

高校生戦士のみずみずしい青春ドラマを描く『ターボレンジャー』の中でも屈指の傑作となったこの回は、『ドンブラザーズ』のメインライター・井上敏樹氏が脚本を手がけたエピソード。「素人戦士が巻き起こす大騒動」というモチーフを使い、レギュラーメンバーを従来以上にかきまわしていく井上氏の巧みなキャラクタードラマ作りは、時代を超えてファンを魅了し続ける。