メルシャンでは日本ワイン産業振興のため、スタートアップワイナリーへのコンサルティング事業を開始した。すでに岩手県と宮城県の4つのワイナリーにおいて、ブドウの見極め方や収穫適期の指導などを行っている。メルシャンは今後、ワイナリーの支援だけでなく、日本ワイン産業の持続的な成長に向けたパイプラインになることを目指すとしている。

  • メルシャンが、スタートアップワイナリーへのコンサルティング事業を本格開始

ワイン市場を活性化する

都内で14日に開催のシャトー・メルシャン戦略説明会において、同社 代表取締役社長の長林道生氏は2022年の経営方針について、以下のように説明する。「私たちが創業当時からDNAとして引き継いでいること、それは地域社会に根ざした事業活動でCSV経営を実現することです。ワインはまさに農業であり、地域社会に根ざしたもの。メルシャンの事業はCSVそのものです」。

  • メルシャン 代表取締役社長の長林道生氏

創業から145年を迎えるメルシャンでは、これまでワイン市場全体の活性化に努めてきた。その方針は、メルシャン藤沢工場長、メルシャン勝沼工場長などを務めた現代日本ワインの父 麻井宇介氏の「メルシャン1社で良いワインを造っても地域全体でワイン産地として認められなければ、将来日本ワインの発展はない」という言葉にも代表されている。

ここで長林社長は、日本国内のワイン市場の動向について説明する。それによれば2008年以降、順次拡大を続けてきたものの、直近の5年間では伸び悩んでいるという。「市場規模は国内に流通する総酒類の4.3%と小さく、市場をさらに拡大する必要があります。なんとかメルシャンが先陣を切って拡大していきたい」と長林社長。

  • ワイン全体の市場動向

なお日本ワインの構成比は2015年から2021年にかけて約1.5倍まで伸長。ワイナリー数も直近5年間で約1.5倍に増加している。構造改革特別区(ワイン特区)の制定や、日本ワインの人気が後押ししているという。

  • 日本ワインの市場動向

しかし、日本ワイン産業にも課題が山積する。まず、日本のワイナリーは大多数が中小企業で低収益にとどまっている。ワイナリーの92%において、営業利益が50万円未満だという。そして新規ワイナリーの多くは、規模・収益ともに小さいのが現状。さらには、日本国内ではワインづくりを系統的に学べる場所や機会が限られている。これらの課題を踏まえ、長林社長は「こうした課題にもメルシャンは取り組んでいかなければいけない」と強調する。

  • 日本ワイン産業の課題

そして最後に、麻井宇介氏の「日本を世界の銘醸地へ」という言葉を引用したうえで「シャトー・メルシャンでは今後とも日本ワイン全体で持続可能な産業構造を目指し、飲み手、造り手、届け手の支援・啓発を通じて、良質な環境を推進していきます」と結んだ。

  • シャトー・メルシャンのビジョンは「日本を世界の銘醸地へ」

コンサルティング事業について

続いて登壇した同社 マーケティング部長の山口明彦氏は、スタートアップワイナリーへのコンサルティング事業について説明した。1年更新の有期契約という形で「MKファームこぶし(岩手 / 花巻)」「アールペイザンワイナリー(岩手 / 花巻)」「仙台秋保醸造所(宮城 / 仙台)」「南三陸ワイナリー(宮城 / 南三陸)」においてコンサルティング事業を開始している。

  • マーケティング部長の山口明彦氏

「私たちの社員やOBがリアルとオンラインの両方を使って、ワイナリーの方々の質問、悩み相談に対応しています。たとえばブドウには収穫にイチバン適した時期(適熟)があります。それは完熟の前に訪れるんですね。もっとも、これは作りたいワイン、農家のブドウの状態によっても違う。コンサルテキング事業では、そうした細かいところのアドバイスをしています」(山口氏)。

  • コンサルティング事例

ワイナリーからは、ノウハウや技術はもとより”ワインに向き合う姿勢”が勉強になった、現場スタッフのモチベーションも上がった、などと好評とのこと。山口氏は「東北の4つのワイナリーで開始しましたが、お話をいただければ日本全国、どこにでもお伺いします」と説明する。

メルシャンではこのほか、契約農家との取り組みを強化。秋田県大森地区では気候風土にあった新たな品種栽培を提案、福岡県新鶴地区ではシャルドネに継ぐ新たな品種に取り組み、山梨県穂坂地区では栽培農家と共同で高負荷価値ワインの開発も進めている。

  • 契約農家との取り組み事例

ワイナリーにおける若年層との接点強化にも積極的だ。現在、ワインユーザー全体における20~30代の割合は1割にも満たないものの、ワイナリーツアーの参加者は20~30代が約5割を占めている状況。しかも2022年に導入した新ツアーでは20代の満足度が94%にも達している。そこでメルシャンでは、今後も世界のワイナリーツアーを知る外部の有識者のアドバイスを受けながら、若年層にも引き続き満足してもらえるようなツアーを提供していくという。

  • ワイナリーにおける若年層との接点強化

最後は、海外展開について。甲州ワインの「岩出甲州オルトゥム」が高評価を受け、ついに英国にも輸出が開始された。山口氏は「海外で最重視しているのがイギリスなんです。ワインを評価する人が、世界から集結している市場。シャトーメルシャンが認められることで『日本ワイン、良いね』と思っていただけるでしょう」とし、今後の展開に期待を寄せた。

  • フォトセッションの様子