日本テレビ系大型特番『24時間テレビ45』(27日18:30~)で放送されるスペシャルドラマ『無言館』(同21:00頃~)。戦争で亡くなった画学生(=美術学校の学生)の作品を集めた実在の美術館「無言館」(長野・上田市)設立のために全国を駆け巡った窪島誠一郎氏の奮闘を描く、実話をもとにしたストーリーだ。
現在約130人もの戦没画学生の作品を収蔵する「無言館」とは、どんな場所なのか。現地でその絵を鑑賞して感じたのは、画学生と家族の間にある愛に満ちた思いだった――。
■作者や学芸員による作品の解説はない
見晴らしの良い公園からさらに坂をのぼると、木々に囲まれた静かな場所に姿を見せる打ちっぱなしコンクリートの建物が「無言館」だ。監督・脚本を務める劇団ひとりに取材した際、「建物の雰囲気も含めて魅力的だと思って、この題材を選ばせてもらいました」と言っていたのもうなずける。
そこにある絵は、いわば無名の画家たちによる作品。一般的な美術館に展示される名画にあるような、作者本人や学芸員による作品の解説は一切ない。代わりにあるのは、戦地から送られた家族への手紙や召集令状、戦死公報、画材などの遺品といったものに、本人の写真などの資料展示、数行の略歴、そして、出征前の絵に向き合う様子やエピソード、遺族の思いなどの紹介文だ。つまり、鑑賞者が得る背景の情報は、“作品”ではなく“作者”に関連するものとなる。
展示品は、資料館レベルで充実している。幼い弟妹への手紙は、少しでも楽しませてあげようと得意の絵が描かれているものが多く、出征前に一緒に暮らしていたときは、いかにかわいがっていたかがうかがえる。また、何通にもわたる家族との手紙のやり取りやその文面を見るに、これだけコミュニケーションツールが発達した現代よりも、精神的な距離は密だったのではないだろうか。
略歴にはその名前とともに、生年、出身地、美術学校への入学・卒業年、そして出征の年、戦死・戦病死の場所・状況、享年などが、1枚のプレートに縦書きで記されている。右から読み進めると、「絵」を学ぶ喜びと希望にあふれた状況から、それが打ち砕かれていくようで胸が痛い。
そうした“作者”の情報を得た上で、戦争に命と夢を絶たれた画学生の無念を想像しながら、自身が愛していたであろう故郷の風景、机に置かれた何気ない静物、そして家族の絵を見る――それは芸術作品を鑑賞するというよりも、まるで画学生と“絵を描く”というかけがえのない瞬間を共有するかのような、これまでに味わったことのない感覚だった。
■写真や映像では感じられない“近さ”
展示されている絵の状態が、予想していたよりもはるかに良かったことに驚かされた。もちろん、修復作業が行われているそうだが、戦時下・戦後の混乱を経て大切に守ってきたことの表れとも言え、一枚の絵によって、“画学生から家族へ”、そして“家族から画学生へ”と、双方の愛が伝わってくる。
先の戦争の時代を伝える映像や写真は白黒が一般的で、近年はAIなど技術の進化でカラー化も進んでいるが、それでもセピア的な色彩はどうしても時間の距離感を覚える。これに対して「絵」は、作者の目を通したものが色あせずに記録されているため、その“近さ”は前述の媒体と比べてケタ違いだ。
劇団ひとりは取材で、「僕らって美術館に行って絵を見るときに、作者と同じ立ち位置にいるんですよ。作者がこの絵を描いたときに、その先にどういう風景があるのかが見えてきて、空気感が伝わってくるんです」と話していたが、それを心から実感した。